風神────逸話
インドラ教国、中央都市、そこに、その男は居た。
「まだ、この国は、遅い...」
その一言を放ち、まるで風にでもなったかのように消え去った。
そのあとに残るのは、ただ一つ、旋風のみであった────
ディルは、インドラ教国最高教会に居た。
「ここが我らがインドラ教国が誇る教会、サンフレッチェ教会です」
サンフレッチェ教会は、かつて、写真等で見た神々しさは失われ、ボロボロの瓦礫跡になっていた。
「ここも革命で...?」
そう問うと、ウェルドは多少気まずそうにしてから言葉を放った。
「えぇ。ですが、ここを壊したのは革命軍ではなく、たった一人の男です...」
なんということだ。
イフリート王国の王城程ではないにせよ、国王の住まう地だ。
かなりの大きさを誇る。
だというのに、たった一人でこの瓦礫にしてしまったというのか。
「失礼ですが、その者とは...?」
「インドラ教国のナンバーワン騎士、ジエン・フウガ、です」
騎士が革命の主導者、ということか?
それだと、色々とおかしいはずだ。
まず、今回の革命は、インドラ教国の騎士が出撃した、と聞いている。
多少の裏切りはあるかもしれないが、それでも、ナンバーワンが居なくなれば、戦列は乱れ、即座に敗北するはずだ。
しかし、この革命は国を変えずに、分裂、という形で終わった。
やはり、何かがおかしい。
しかし、考えても仕方が無いので、とりあえず聞きたいことを聞く。
「ジエンの能力は...?」
「ジエンは、風、に関する能力を持っています」
風、か。
応用力がありそうな能力だ。
事に戦闘では応用力があればあるほどどんな状況にでも対応出来る強さが生まれる。
一方、極端に偏った能力も、極地にて一方的に攻めることの出来る強さがある。
だが、基本的には応用力が勝る。
「なるほど、強いですねそれは」
そう言うと、ウェルドは驚いたように、
「それだけで分かるんですか?」
「えぇ当然。応用力のある能力ですからね」
「それで、お願いしたいのは...」
その言葉は、ディルが驚くには十分すぎ、これからの新たな幕開けを意味していた────