分裂────二つの意思
アーリアから辛うじて逃げたあの日から、およそ1週間が経った。
その日国王に告げられた話は驚愕の一言に尽きた。
「七国対抗戦のエントリーが始まったのは知ってますよね?」
七国対抗戦、というのは毎年ユースディア大陸の中心に存在する闘技場で行われる、大陸6国に島国、和国を加えた合計7国で、代表をそれぞれ9人出し戦う、トーナメント式の大会だ。
そのエントリーが始まったことは知っているが、わざわざ国王が呼ぶほどの事ではない。
ならば、何か裏があると見ていいだろう。
「で、なんですか?」
俺がその裏を確かめるべく、問を発する。
「1つ目は、あなたが代表の1人ということです」
つまり、国王はこう言ってるのだ。
我が国の代表として戦え、と。
実力はあると思われている、ということだ。
「しかし、魔族にも勝てない私でいいのでしょうか?」
世界には単身で魔族を捻り潰すような奴らが沢山居る。
そんな奴ら相手に、到底勝てるわけはない。
「構いません、私はあなたの実力を信じていますから」
国王に信頼されるとは驚きだ。
「なら、負けても知りませんよ?」
「構いません、私の選んだ人間ですから」
国王は絶対に俺を出すつもりらしい。
出るのは構わないが、これでイフリート王国が弱くなるのではないかと心配だ。
しかし、そんなことを考えても仕方がない。
「で、もう1つはなんですか?」
さっき国王は、1つは、という言い方をした。
ならば、もう1つ話があると見るのは当然だ。
国王はやや言うのを躊躇いながらも、口を開いた。
「今年の参加国が8国になりました」
7国は分かる、だが、今なんと言った?
8国だと?
一体8カ国目はどこなんだ?
これらの疑問を先読みしてたのか、国王が説明を続ける。
「インドラ教国が2つに割れました。インドラ教国で革命を起こした者達は自らをヴリトラ狂国と名乗り、七国対抗戦への参加を半ば強引に決めました」
インドラ教国が2つに割れた、ということは今のインドラ教国は革命の後始末で大変なのではないか。
「それで、大変申し訳ないのですが、インドラ教国に支援に行ってほしいのです」
この国王の指示がこれからを大きく変えてしまったことに気づくのははるか先だ────
そして、時は流れ、ついにインドラ教国へ辿り着いた。
インドラ教国は、各地に革命の跡と思われる崩壊した街が広がっていた。
「これは...」
思わず声に出してしまうほどの惨劇であった。
そんな街を抜け、都市へ行くと、インドラ教国復興委員会会長の、ウェルド、という男が待っていた。
「あなたがイフリート王国からの支援者の、ディルさんですね?」
優しげな声音で語りかけてくる。
「えぇ、そうです」
それを聞くと、安堵したように、肩を落とした。
「では、こちらへ」
と言われ、ついて行った先には────