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時空の騎士と双星の魔術師  作者: らるたそ
2/5

邂逅────六天

 金髪の少女は、ただ1人、微睡みを楽しみ、数々の本に埋もれていた。


 やがて、青髪の凛々しい女騎士がやってくると、騎士に手伝われ、車椅子に座る。


 もはや感情と呼べるものは何もなくなってしまった目を閉じ、引かれるがままになる。


 辿り着いたのは、彼女らの居た塔の最上階。


 巨大な扉を開き、中に入る。


 そこには、天幕の中で座っている女が居た。


 おおよそ、20代と見えるが、その瞳は歴戦の跡を感じさせるほど鋭かった。


「連れてきました」


 青髪の騎士が言うと、その女は、


「よろしい、もう戻ってもよろしくてよ?」


 その言葉に深くお辞儀をし、青髪の騎士は扉の外へと出ていく。


「さて、ワルキューレ。あなたにはやるべき事があるわね」


 虚ろな目をしたワルキューレを女は見下ろす。


 女の目には深い愛情が篭っていた────






 その青年はただひたすらに走っていた。


 まるで、何かから逃げるように、否、実際に逃げていた。


「待て!貴様、この国の者ではないな!?」


 黒の髪を少し長めに伸ばした青年────ディル=ヘリオスは言われた通り、この国────バハムート帝国にスパイとして潜入していた。


 時は2050年、中世で2つに分岐した世界線の内の一つの世界。


 そこに存在するいくつかの大陸の中でも、圧倒的な面積を誇る、ユースディア大陸には、その面積に対して明らかに少ない、6の国しか存在しない。


 今、ディルが侵入していたバハムート帝国の他に、イフリート王国、リヴァイアサン共和国、バジリスク公国、ファフニール連邦、インドラ教国が存在する。


 元々、ディルはバハムート帝国の同盟国イフリート王国からのスパイである。


 故にバレてはまずいのだ。


 ひたすらに逃げ続け、フードで顔を隠しながら走った結果、とうとう、誰にも正体がバレずに、国境まで来ることが出来た。


 しかし────


「なんで門が閉まってんだよ!」


 門が閉まっていた。


 このままではもう追いつかれる。


 なんとしてでもバレてはならない。


「仕方ないかぁ」


 ディルは一言呟き、直後、閃光となった。


 見えないほどに速い斬撃で追いかけてきていた兵士を次々に倒していく。


 やがて、兵士をあらかた片付けると、ディルは初めて動きを止めた。


「素晴らしいよ君は。完成された技と、洗練された感覚。何をとっても完璧だ」


 全く気配のなかった後ろから声をかけられた。


「どうも」


 適当に返事を返し、余裕を見せるが、内心ではかなり焦っていた。


(このままこいつと戦っても勝てる気はしない。それだけの相手だ。逃げるか?)


「安心したまえ、君は逃がしてあげよう。だが、少しだけ、眠っててもらおうか」


 瞬間、辺りの空間が歪む程の悪意が迸った。


 咄嗟にいつの間にか開いていた門へと逃げ込もうとする。


 だが────


「ソウルスティール」


 魂が抜け落ちたかのように、ディルはそこに崩れ落ちた。







 目が覚めると、そこはさっきまで兵士と戦っていた場所だった。


 そういえば、あの恐ろしい男は何をしたのか。


 体に異常は見られない。


 だが、あの悪意は何だったのか。


 疑念が渦巻くが、忘れ、イフリート王国へと帰還する。






 帰還し、すぐに国王に報告にむかう。


 幸い、国王はイフリート王国城の部屋に居たようで、すぐに話すことが出来た。


「バハムート帝国はやはり『あれ』を使っていました」


 極秘に調査を頼まれた案件、それは────


「マナシステム、ですか」


 マナシステム、それは近頃突然現れた、『魔族』と呼ばれる人型の悪魔のような姿の存在の血液を、人に輸血し、通常の人間にはなし得ない力を得るシステムの事だ。


「魔族が自らの血を分け与えるところを目撃しました。しかし、証拠には欠けるというところです」


 国王であるまだうら若い女性はしばし考え込み、発言した。


「実は今日、極秘で七国会議が行われました。そこで、魔族についての情報を交換したのですが、バハムート帝国が裏切りましたか…......」


 七国、というのはユースディア大陸に存在する6つの国に島国、和国を加えた七国を指す。


 その中の一国、バハムート帝国は魔族と契約し、協力関係にある。


 世界は魔族からの侵略を受けている。


 バハムート帝国はすでに同盟ではなく、敵である、そのように結論づけた。


「どうか、無事でいてください、凛」


 国王の義理の妹、凛・シェードは一年前の戦乱にて、バハムート帝国に捕えられたと考えられている。


 そのバハムート帝国が敵なのだから、恐らくは────


「とにかく、バハムート帝国は敵です。魔族殲滅も大切ですが、しばらくはバハムート帝国にも気をつけましょう」


 国王────セリス・シェードにそう言われ、城をあとにする。





 街から家に帰る途中、巨大なサイレンと共に、魔族が出現したという情報がアナウンスされた。


 場所はここからたった200メートル。


 人々とは逆方向に進んでいき、ようやく魔族の姿を捉える。


 妖艶な、漆黒の髪を長く伸ばした女だった。


 頭からは角が生え、背中には翼、尻尾まである。


 だが、姿は人間そのものであった。


「あらぁ?なんで逃げてないのかしら?」


 女は武器も持たずに無防備だ。


 攻めるなら今しかない。


「タイムコンプレッション」


 瞬間、ディルの体は目で追えないほどの速度へ達し、女へと斬撃を繰り出した。


(勝った)


 そう確信した瞬間、加速していなければ分からなかったほどの速度で、女の手からレイピアが現れ、剣ごと、ディルを貫いた。


 幸いにも剣で軌道がずれ、致命傷にはならなかったが、多量の出血と共に、地面に叩きつけられる。


「能力持ちかしら?でも、足りないわ」


 最早声も出ず、自分の無力さを実感する。


「特別に教えてあげる。私は魔族の頂点に存在する6人、通称六天の第五席、種族はサキュバス、名はアーリアよ。私に負けるのは当然だけど、普通の魔族になら勝てるかもね。そんな若い芽を摘むのは嫌いだけど、仕方ないの、ごめんね」


 アーリアのレイピアが的確に心臓に迫る。


 寸前、


「タイムコンプレッション」


 ほぼ無意識的に発動し、一気に距離を取り、逃げる。


 何故か笑っているアーリアは、もう追ってこなかった。





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