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08 元皇帝は報われない恋を助ける⑥

 フローラの悲鳴と共に終演したライアンとカイルの決闘。そして今、ライアンはフランクと相対していた。


「──陛下。本当にあれで良かったのですか?」

「良いも悪いもないだろう──私は勝負に負けたのだ」


 清々しくフランクに答えるライアン。そう、彼は勝負に負けたのだ。最後の場面、カイルに強烈な一撃を与え、ライアンがこれで終わりだと油断した時──カイルは崩れ落ちる刹那、ライアンに一撃を与えていたのだ。


 その一撃は蚊も殺せないほどの、まるで殺気のないヘナヘナとした拳だった。だが、確実に、間違いなくライアンの胸に届いた一撃だったのは、揺るがない事実である。


「まさに、肉を絶って骨を絶たれたわ! ハッハッハッ!」


 愉快そうに笑う、ライアン。フランクはそんなライアンに苦笑いを浮かべつつ、自身の想いを話だした。


「娘はまだ、本当の愛など知らぬ子供だと思っておりました……しかし、とっくに愛する者を見つけていたとは……」

「子供の成長は早いものだ……足にすがりつき、抱っこをねだっていたのがつい先日に感じる」


「ははっ、まったくですな。それにしても、ライアン陛下に何度も立ち向かう小僧の姿を見て、思い出しました。若い頃、妻に何度もアプローチをした事。妻との結婚を許して貰うため、何度もお義父様に立ち向かった事を……あの頃の純粋な気持ちと闘志が、鮮明に小僧に重なったのです」

「うむ……私も思い出した。今回、あの頃の忘れてはいけない気持ちを、カイルが思い出させてくれたわ。そして私は決意した! 私の娘を想う者が現れた時は盛大に立ち向かってやろうと! 今度はハンデなどくれてやらんわ! ハッハッハッ」


(可哀想に……マリアンヌ姫は結婚出来そうに無いな。未来の若者に幸あらんことを……)



──そして、ライアン達が港町オウアラーイを出立する日が来る。


「本当にありがとうございました。僕とフローラが結ばれる事が出来たのは僧侶様のお陰です」

「ハッハッハッ! 良い良い。幸せになれよ、お二人さん──」


 晴れて結婚の許しを得たカイルとフローラが、深々と頭を下げライアン達を見送る──厳しく優しいその背中は、まるで父の様に暖かくて大きな背中だった。


「凄い人ね、陛下は」

「気になってたんだけど、僧侶様を陛下と呼ぶのはなんでだい?」


「え、あなた分かってなかったの!? あのお方は僧侶なんかじゃない! 元皇帝陛下、ライアン・ザルツ様よ!!」

「……え、ええっ!? 嘘でしょ? 僕はそんな人と……」


 ライアンが元皇帝陛下だと分かっていなかったカイルは、事実を聞かされ、顔を青ざめさせる。


「でも、最強の男と言われている陛下に勝っちゃうなんて──素敵だったわよ」


 フローラは、青ざめたカイルの頬に優しく口付けをする。その感触に、今度は顔を赤らめるカイル。なんとも、お熱い事だ。


 そんな二人に──永遠の幸せが訪れる事を。



「──いやー。それにしても、愛とは素晴らしいものですな」

「そうだな、ダン。お前もいつまでも独身で居らんで、早く結婚せんか!」


「いやっ、俺は……」

「お前まさか……まだ師匠のこと」


「そ、そんな訳ないじゃないですか!」

「いや、だがな……行くか? 師匠の所へ」


「本当ですか?! ぜ、是非!!」

「ほれっ、やっぱり師匠の事」


「し、しまった! 計りましたね、ライアン様!!」


 女子高生の様に恋の話を咲かせるオッサン二人。そんな二人は、港町オウアラーイを出立し、次の目的地となる北部の山脈地帯を目指す。


 さて、次は誰を助けるのか? それとも悪を成敗するのか?    

 それは、誰にも分からない──



(報われない恋を助けるなんて、陛下は本当に素晴らしいお人だわ……私の報われない恋も助けてくれないかしら? 相手は貴方ですけどね、陛下──ふふっ、ふふふふふふっ。あらやだ、ヨダレが)



──後日談(閑話休題)


 半年後、愛を確実に育んだカイルとフローラは結婚式を一ヶ月後に控え、それぞれ奮闘していた。


 フローラは、忙しい宿屋オウアラーイを助けるため、女将と共に汗を流す。


「──フローラが来てくれて本当に助かるよ! ありがとね」

「良いんですよ、お義母様。私、宿屋のお仕事が好きですから!」


「本当に良い子だね、フローラは……こんな子が息子と結婚してくれて、私は胸が張り裂けそうなほど嬉しいよ」

「私も、カイルと結婚出来て嬉しいです! それに……お義母様が出来て、もっと嬉しいです!」


「フローラ……もうっ! やだね、この子ったら!」


 本当の親子以上に、絆を紡いでいくフローラと女将。この二人ならば、嫁姑問題の様な拗れた事にはならなそうだ。


一方カイルはというと──


「──馬鹿者! 持ち方がなっとならん! ダンスも下手、礼儀もまだまだ。それに加え食事も出来ないとはどういう事だ!! 良いか、私が合格を出すまで食事にありつけると思うな!」


 怒られていた。


 領主フランク・マルディーヌ──フローラと結婚すれば、カイルにとって義父になる人だ。そして、フランクには子供がフローラしか居ない事もあり、カイルを婿として迎え、領主を継がせようと考えていた。


 だが、カイルは平民の出。領主となるにはまだまだ経験と覚悟が足りない。そこでフランクは、せめて一ヶ月後の結婚式の場ではマルディーヌの家を継ぐ男として、恥ずかしくないよう教育をする事にしたのだ。


「す、すいません。お義父様」

「お前にお義父様と呼ばれる筋合いは無いわ!! せめて、しゃんとしてから呼べ馬鹿者!」


 カイルにお義父様と呼ばれ怒っているフランクだが、息子が居ないフランクにとって、婿のカイル(同じ平民の出)が来て、少し嬉しかったりする。


(私も陛下の様に、気ままに旅でもしてみたいものだ……その為には、こやつを立派な男にしなければ! よしっ! 陛下に立ち向かえた根性が有れば大丈夫だろう。みちみち鍛えてやるか!)


「──頼むぞ、息子よ! ワッハッハッハッ!」

「え? どうしたんですかお義父様?」


 困惑気味のカイルを他所に、フランクの高笑いが屋敷に響いていた。カイルの困難は、まだまだ続くようだ──



 恋のキューピッド編 終

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