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07 元皇帝は報われない恋を助ける⑤

「ええっ!! 決闘ってどういう事ですか僧侶様!?」

「決壊は決闘だ。そうだな……私に攻撃を当てられたらお主の勝ちで良い。私はハンデとして目隠しをして左手一本で闘う」


「そ、そんな簡単で良いのですか!?」


 決闘を宣言し、ハンデまで付けると発言したライアン。決闘の内容が余りにも簡単だとカイルはある意味驚いていた。だが、そのハンデを持ってしても最強の男──ライアン・ザルツに攻撃を当てる事が至難の技だと、カイル以外の全員は知っている。


「どうだフランク? 勝った方がフローラと結婚する。それで良いか?」

「あ、いや、その……」


 答えを求められたフランクだが、未だに腹が決まっていないのか、煮え切らない態度だ。その様子を見たライアンは、今度はフローラに答えを求めた。


「では、フローラ──お主はどうだ? この決闘でどちらが勝っても、その相手と結婚する覚悟は有るか?」

「私は……」


 フローラもまた、答えを出せず口ごもってしまう。無理もない、ライアン・ザルツを相手に決闘するなど、闘う前から勝負が見えているのだ。


 フランクとフローラが答えを出せず、沈黙が流れる中──突然、一人の男が声を張り上げる。


「──フローラ! 僕の手紙と、あの日の光景を描いた花を見てくれたかい?」

「ええ、貴方の想いが沢山詰まった、素敵な手紙だったわ! 月明かりに照らされた花の絵も、とても嬉しかった……」


 カイルからの想いを胸に抱く様に、フローラはカイルに答える。カイルはフローラの瞳を見つめ、さらに言葉を紡いだ。


「僕は……絶対勝つ! 勝って、君と結婚したい!! だから、僕はやるよ、決闘!!」


 拳を握り、闘志を燃やすカイル。そんなカイルに、フローラは覚悟を決めた表情をして頷き、迷いなき答えを出した。


「陛下。私、フローラ・マルディーヌは──この決闘の勝者と生涯を添い遂げると誓います!」

「……そうか、覚悟のこもった良い返事だ」

「ま、待てフローラ! お前は本当にそれで良いのか!?」


 腹を決めたフローラとは違い、父親であるフランクはまだ迷っているようだ。しかし、娘の覚悟を邪魔する様な発言に、ライアンから激が飛ばされる。


「馬鹿者!! 娘が覚悟を決め、前を向いて歩こうとしておるというのに──親であるお主が後ろを向かせようとするとは、どういう事だ! 親なら娘が迷わぬ様、背中を押さんか!!」

「…………」


 先ほどカイルに見せた鬼面の表情が今度は自分に向けられ、顔を青くするフランク。だが、ライアンの言葉に目が覚めたのか、フランクは表情と態度を正し、良く通った声でライアンに答えた。


「──陛下! 醜態をお見せして申し訳ございません。男、フランク・マルディーヌ──覚悟を決めました! この決闘の勝者に、娘を嫁がせたいと思います!!」

「うむ、良い目じゃ。では──フローラ・マルディーヌを賭けて! ライアン・ザルツと、宿屋オウアラーイの息子カイルの、決闘を始める!!」


 全ての者が覚悟を決めた時、荘厳でひれ伏してしまいたくなる様なライアンの声が、高々と上がった。


「──ダン。目隠しを頼む」

「はっ!」


 決闘場所である、マルディーヌ家の庭園でライアンとカイルが相対する。そして、目隠しをされたライアンは静かな佇まいで開始の合図を待った。


「──これより、マルディーヌ家ご息女フローラ・マルディーヌとの結婚を賭けて、ライアン・ザルツとカイルの決闘を開始する。立会人はダン・ベルトールが務めさせて頂く……それでは──始め!!」


「ごめんなさい僧侶様! 行きます!」


 ダンの開始の合図と共に、ライアンへ駆け寄るカイル。大振りな、喧嘩もしたことの無いような拳を放つのだが──目隠しをしている筈のライアンは、まるで見えているかの様にカイルの拳を避けた。


「もっと脇を締めてコンパクトに放て! そんな拳では一生当たらんぞ!」

「うわっ、と! ……そ、そんな」


 見事避けられてしまったカイルは大振りな拳が空を切った事で、前のめりにつんのめってしまう。そして、ライアンを見つめ困惑した表情を見せる。


(な、なんで見えて無いのに避けられるんだ……僕に勝たせてくれるつもりで目隠しをしたのかと思ったけど、もしかして──僧侶様は本当にフローラを……)


 この決闘はきっと自分を勝たせるために、ライアンが仕組んだものだと思っていたカイル。だが、蓋を開けてみればまったく違う事だと悟り、焦りで汗が吹き出してくる。


「そ、僧侶様は本当にフローラと結婚するつもりなんですか!?」

「当たり前だ、男が一度口にした事は曲げんよ。それに、フローラは良い女だ。美しい容姿にあの華奢な体が堪らん」


 カイルの問いに、わざといやらしい笑みを浮かべ答えるライアン。ライアンは完全に悪役に徹しようとしていたのだ。


「くっ! フローラは、僕のものだ!! 絶対に渡すものか!」

「ならば早く掛かってこい。日が暮れてしまうわ」


「うおぉぉっ!!」


 ライアンの煽りに見事釣られたカイルは、怒りを露にして駆け出す。そして、今度は脇を締め、コンパクトに拳をライアンに放った。


「──うむ、さっきよりは良くなった……だが、まだ振りが大きい。それに、拳に殺気を込め過ぎだ」

「な、なんで避けられるんだ! 僧侶様、貴方は一体……」


 確実に捉えたと思った拳を飄々と避けられ、続け様にアドバイスまでするライアンに、カイルはライアンの正体を疑いだした。


「ふっ、私はただの僧侶にすぎんよ。それより、もう終わりか? フローラを諦めるのか?」

「誰が諦めるか! くそっー!!」


──その後、カイルの拳は何度も何度も振るわれる。だが、その一つとしてライアンを捉える事は無かった。


「──ここまでだな。次は私が行くぞ」


 肩で息をして、ヘロヘロに疲れ果てたカイル。そこにトドメを刺す様に、ライアンは己の拳をカイルの鳩尾にめり込ませた。


「うぐぅっ!! ううっ……」

 

 痛みで膝をつくカイル。息が出来ず、ただ呻く事しか出来ない。最早これまでかと、諦めかけたその時──愛しき者の声が、カイルの意識を掬い上げる。


「諦めないで! 私と結婚するんじゃなかったの!? 手紙に書いてあった想いは嘘だったの!? 立って! カイル!!」


 カイルを鼓舞するフローラの声。意識が朦朧としていたカイルは、闇の中に見える光を掴み取るため、立ち上がった。


「僕は……僕は絶対に諦めない!」

「無駄な足掻きをするな!」


 何とか立ち上がったカイルだったが、その足元はフラフラと覚束ない足取りだ。ライアンは、そんなカイルに再び拳を振るう。


「ぐぅぅっ!」

「ほう……耐えるか」


 顔面を的確に狙い、意識を削ぎにいったライアンの拳。だが、カイルは歯を食い縛り鼻血を滴らせながらも、グッと堪え、倒れそうになる己を愛の力で奮い起たせた。


「──僕は、昔から自分を出すのが苦手だった。欲しいものを欲しいと言えない様な情けない男だ……だけど、今は違う! 僕は、フローラ! 君がどんな物より欲しい! 何に変えても、君をこの手に抱きしめたいんだ! 例え、命を賭けても!!」

「カイル……私も貴方がどんな物より欲しい! だから、勝って! 勝って私を抱きしめて!」


「勿論だフローラ! うおぉぉっ!! これが、僕の愛だ!」


 カイルは最後の力を奮いライアンに駆けると、拳を思い切り振り抜く──全ては、愛しの女のために。


「かはぁっ!」

「残念だったな……」


 カイルの振り抜いた拳を寸前で避けたライアンは、がら空きの腹目掛け己の拳を撃ち込んだ。くの字に曲がる体──カイルは、その一撃で崩れ落ちてしまった……。


「──勝負有り!!」


 そして、勝負が決したのを見届けたダンの、野太い声が決闘の終演を告げる。


「カイル! イヤッー!!」

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