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05 元皇帝は報われない恋を助ける③

──次の日、フローラへ渡す想いを込めた手紙を持って来たカイル。ライアンの助言に従い、百通の手紙をしたためたようだ。


「──僧侶様! 書けました! 書けましたけど……この手紙、どうやってフローラに渡せば?」

「案ずるな、私達に任せろ。お主の想いはしっかり届けよう」


「ありがとうございます、僧侶様」

「でだ、その間にお主は花を集めておけ」


「花か……どの位ですか? 花束を作れる位ですか?」

「最低でも千だな。だが、多ければ多いほどお主の愛の大きさに比例する。心して集めよ」


「わ、分かりました! フローラの為に、沢山集めて来ます!」

「うむ。励めよ青年」


 手紙の次は花。ライアンは間違いなく、今は亡き妻を射止めた手段を、カイルに行わせようとしていた。そして、意気込んだ様子で花を集めに行ったカイル。その姿をライアンは見送ると、腰の具合を確かめる様に立ち上がった。


「よし、腰は問題ないな。では、行くとするか。ダンよ」

「領主の所ですか?」


「ああ、この周辺を任せている領主は確か、マルディーヌ家だったな?」

「ええ、そうです。フランク・マルディーヌ──子爵だったマルディーヌ家に婿入りし、マルディーヌ家を伯爵の地位に押し上げた男です。かなりのやり手ですね」


「ふむ……一筋縄ではいかぬか。まあ、行って話を聞いてみようではないか」


 二人は話を終えると、カイルがしたためた手紙の束を持ち、マルディーヌ家へ向かう事にした。


「──いやはや、この生の魚はいけますな。昨日食べた魚料理も美味でしたが、この生で食べる刺身と言うのは絶品です」

「そうだな、新鮮だからこそ出来る料理。帝国首都に居たら味わえない物だ」


 オウアラーイ名物の刺身に舌鼓を打つ二人。どうやらマルディーヌ家へ行く途中の食堂で、人々が美味そうに刺身を食べる姿に我慢出来なかったようだ。


「お客さん美味しそうに食べるね! この町は初めてかい?」


 二人が黙々と食事に勤しんでいると、食堂の女店主が声を掛けてきた。


「ああ、初めてだ──美しい海、活気溢れる町、美味い食事。どれをとっても素晴らしい町のようだ」

「ハッハッ、そうかい。そう言って貰えると、町の住民からしたら嬉しいね! だけどね……この町がこうやって活気溢れるてるのも、領主であるフランク様のお陰だよ」


 しんみりと遠くを見つめる女店主。不思議に思ったライアンは、女店主に訳を聞くため、握り締めていたナイフとフォークをそっと置いた。


「なにやら深い事情が有りそうだな。良かったら聞かせてくれないか?」

「え、ああ……この町が海運で荷を受ける場所の一つだって知ってるよね?」


「ああ、存じておる」

「この町も最初は小さな漁村の一つに過ぎなかったんだ。それでね、ある時海運の話が出た。それからはあっという間に小さな漁村は発展していったよ。ただ、それが問題だったの──」


 最初は小さな漁村。その漁村に海運事業の拠点としての話が持ち上がり、あっという間に町へ発展していく。だが、その利益を欲しがる者達もまた、町に群がる様に押し寄せて来る。


 それを見事に抑え込み町を守ったのが、婿入りに来て間もない、若きフランク・マルディーヌだった。フランクは、大きな商会や他の貴族達が町へ群がり、利権を貪ろうとしていた時──ある時は達者な口で丸め込み、またある時は力ずくで町から追い出してオウアラーイを守ったのだ。


 また、その際の出来事が切っ掛けで、帝国君主ライアン・ザルツから認められ、伯爵へ出世に至った。


「──という訳さ。だから、この町が生き生きしているのも、フランク様のお陰なのさ」

「成る程……フランク様は善き領主なのだな」


(思い出した……昔そんな男が、オウアラーイを守りたいと、私の元に直訴に来たな。中々豪気な男だった覚えが有る。町の住民から慕われる善き領主となったか……出世させた甲斐があったというものだ)


「あっ、そうですよ! こんな所で道草食ってる場合じゃないです、ライアン様!」

「そう言えばそうだな! 早く食って行くぞ、ダン!」


 フランク・マルディーヌの話が出た事で当初の目的を思い出したライアン達。残った食事を胃袋へとかきこみ、マルディーヌ家へ向かうため、足早に店を出るのだった。

 

──マルディーヌ家へ訪れたライアンとダン。屋敷の門には門番が二人立ち、此方を警戒する視線を向ける。


「すまんが、フランク・マルディーヌ様にお会いしたいのだが」

「あ? あんた達は誰だ?」


「ザルツ家からの使者である。ほれ、書状もここにある」

「た、確かに! 直ぐにお伝え申しますので、少しお待ち下さい!」


 ライアンがザルツ家からの使者を名乗ると、ふてぶてしい態度だった門番は態度を改め、緊張した面持ちで屋敷の中へ駆けて行く。残された門番の一人は、ライアンとダンの圧倒的オーラにやられ、今にも泣き出しそうな表情で固まっている。


 その後、屋敷へ伝えに行った門番は額に汗を滴らせ、黒服の老執事を連れて戻って来た。


「お待たせ致しました。此方へ」


 頭を深々と下げた老執事は、ライアン達を主であるフランク・マルディーヌの元へ案内するため、ゆっくりとした足取りで屋敷へ向かう。


「──これはこれは、この様な所に良くおいで下さいました。どうぞ、そちらへお座り下さい」


 老執事に案内され客室で待っていると、領主フランク・マルディーヌが娘のフローラを連れて現れた。体格の優れた、威厳の有る佇まいの男だ。


「それで……偉大なる君主様からの使者だとお聞きしましたが、当家にはどの様なご用で?」

「うむ。それより、私の事を覚えていないか?」


 不安そうな表情でライアン達を伺うフランク。そんなフランクに、ライアンはフードを取って自身の顔を晒し、フランクの瞳にジッと視線を合わせた。


「あ、貴方は! ライアン・ザルツ陛下!!」


 ライアンの正体に気付いたフランクは床にこれでもかとひれ伏してしまった。娘のフローラも、驚いた表情で床にひれ伏し、頭を深く下げる。


「頭を上げよ、フランクにフローラ。皇帝を引退した今、私に権威などない」

「そんな事は関係有りません! 今の私があるのは、あの時、陛下が私を認めてくれたからにすぎません! 陛下に上げる頭など私には有りませぬ!!」


「嬉しいなフランクよ。そんなに私の事を想ってくれるとは……そんなお主に今日は私から大事な話が有る。だから頭を上げて私の話を聞いてくれんか?」


 ライアンがそう言うと、フランクとフローラは恐る恐る頭を上げる。そして、真剣な面持ちでライアンに視線を合わせた。


「うむ……では、話そう。実はな──お主の一人娘のフローラを、私の嫁に欲しいと思っておる」


 ライアンの口から衝撃の言葉が出る。その言葉を聞いたフランクとフローラ、そして、話を聞かされていなかったダンは、石像の様に体を硬直させていた……。

 

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