表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

04 元皇帝は報われない恋を助ける②

──路地裏で美しい女性を助けたカイル。行き場が無いと俯く女性を実家の宿屋へ案内し、事情を聞くと、彼女の名前はフローラという事が分かった。


 そして、彼女は父親と喧嘩の末、家を飛び出して来てしまったという。だが、家を飛び出したのは良いが何処に行ったら良いか分からず、路頭をさ迷っていたという訳だ。


「そう言う事だったんだね……家に戻るつもりは無いのかい?」

「はい。家には帰りたく有りません……」


 涙を潤ませるフローラ。そんなフローラを見て、カイルは何とかしてやりたいと思った。そして、ある事を思い付いたカイルは宿屋の女将である母に声を掛ける。


「母さん! ちょっと話が有るんだ! 此方に来てくれないか」

「えっ! ああ、うん。分かったよ」


 突然女の子を連れて帰ってきた息子。何事かと、仕事をしながらチラチラとロビーで話す息子と女の子を盗み見ていた女将。そこに息子から声が掛かり、盗み見ていたのがバレたのかと、戦々恐々しながら息子と女の子に近付いていった。


「それで、話ってなんだい?」

「母さんにお願いが有るんだ」


 息子の言葉に女将は不安が過る。女の子を連れて帰ってきて母親にお願いとは何事かと、もしかして結婚の報告なのかと。


「な、なんだい改まって……」

「この女性はフローラって言うんだ。それでね母さん、この女性を──ここで働かせてやってくれないか? 住み込みで」


 そんな息子の言葉に、固まる女将。

 フローラもカイルの言葉に驚いている。


「なんだい急に? この子は一体何者なんだい?」


 困惑する女将に、カイルはフローラの事情を話す。すると、女将は考えこむ様に腕を組み、目を瞑ってしまった。


 目を瞑り、黙る女将の言葉を緊張した面持ちで待つカイルとフローラ。外を歩く人々の足音が聞こえてくる様な、静かな時間。そんな中、遂に女将が目を開け、口を開いた。


「事情は分かった。住み込みで働く事も許可するわ」

「ありがとう母さん!」

「ありがとうございます」


 フローラを住み込みで働かせる許可が、女将の口から出る。カイルとフローラは安堵の表情を浮かべ、二人見つめ合った。


「ただし! お客様相手に仕事をするんだ、厳しく教育するからね! それで根を上げても知らないよ」

「は、はい! 私頑張ります!」


 女将の厳しい声が上がる。お客様相手の商売なだけに、厳しく教育しなければいけないのは本当の事。ただ、睨む様にフローラに視線を向けたのは、一人息子のカイルが顔を赤らめ、フローラを見つめていたのが気に入らなかったからだ。息子を盗られた女将の、ちょっとした意地悪だった。


 それからというもの、フローラは慣れない宿屋の仕事に精を出した。女将から厳しい叱咤が飛んで来る事も少なくなかったが、フローラは決して根を上げず、健気に頑張り続けたのだ。


 そして、カイルとフローラの仲も深まっていく。二人で仲睦まじく買い出しに出たり、時には夕陽が沈む浜辺で語り合い、口づけを交わす。二人が惹かれ合い、恋に落ちるのは運命だったのかもしれない。


 だが、そんな幸せな日々は長く続かなかった。


 フローラが宿屋オウアラーイで働き始めて半年が経った時だ。その日、カイルとフローラはいつもの買い出しに出ていて、宿屋には女将一人だった。


「──失礼する」

「いらっしゃい……貴方は!?」


 宿屋へ訪れた男。気品に満ちた佇まいのその男は、オウアラーイを含む周辺の地を任されている領主だった。


「この宿屋に、フローラという女性が働いていると聞いてな」

「フローラなら確かに此処で働いていますが……領主様がフローラに何用でしょうか?」


 半年も経つと、健気に働くフローラをすっかり気に入ってしまった女将。娘が居なかった女将にとって、フローラは本当の娘の様に感じていたのだ。


 そんな娘に、領主様が何の用だろうか? 女将はそんな不安な気持ちで領主に問い掛ける。


「フローラは──」


 領主が口を開きかけたその時、丁度買い出しから帰ってきたカイルとフローラが現れる。


「お父様……何故此処に」


 買い出して来た野菜が入った袋を落とし、唖然とするフローラ。その場には不穏な空気が漂っていた。


「やっと見付けたぞフローラ」


 領主の男はそう静かに呟き、フローラへ近付いていく。


『パシンッ!』、おもむろに近付いた領主が、フローラの柔いその頬をひっぱたく。


「な、何をするんですか!?」

「退け小僧──その娘は私の一人娘だ」


 フローラの前に庇う様に飛び出たカイル。そのカイルを押し退け、領主はフローラの腕を強引に掴む。


「お父様、止めて下さい! 私はこの宿屋でずっと働くと決めたのです!」

「戯言を! お前はマルディーヌ家の娘なのだ! 己の身分を考えろ馬鹿者が!!」


 引き摺られ連れていかれるフローラ。カイルと女将は、その光景をただ黙って見ている事しか出来なかった。


「──それからは、領主邸の窓に見えるフローラを遠くから眺める日々です。すいません……つまらないお話を聞かせてしまって」


 話終わったカイルは下を見つめ、項垂れる。そんなカイルにライアンは声を張り上げた。


「何を項垂れている! そなたの想いはそんなものなのか? フローラを愛していないのか?」

「愛しているに決まっています!! でも、宿屋の息子と領主様の娘では……」


「そんな事関係ないわ!! 私に任せろ! 考えが有る」

「ライアン様、そんな無責任な事言って大丈夫ですか?」


 任せろ! と、胸を張るライアンに、ダンはたしなめる様に言葉を掛けるのだが──


「強敵だった、今は亡き愛しの妻を射止めた私に任せろ!」


 そんな言葉を吐き、ライアンはゴリラも顔負けに胸を叩くと、さらに胸を張り上げた。


(射止めたというか、しつこいライアン様のアプローチに渋々奥様が根負けしただけな気がするんだが……)


「何かお考えが有るんですか!? 無知な僕に教えて下さい僧侶様!」

「うむ、先ずは彼女の心を、お主色に染める事から始める。家柄など面倒な事を考えるのはそれからだ」


「僕色に染める? それはどうしたら!?」

「心して聞くが良い! 手始めにお主の彼女への想いを手紙にたしなめろ! 良いか、最低百通は書くのだぞ!」


「は、はい! やってみます!」


 希望の光を掴むべく、大きく頷くカイル。ライアンもその姿を満足そうに見ていた。


 一方、ダンは心底不安な気持ちにかられていた。


(まさか、奥様の時と同じ方法なのか?! 本当に大丈夫だろうか……)


 確かに、ライアンが今は亡き妻を射止めた方法は、かなり強引な手段だ。これで大丈夫だと、自信あり気に頷くライアンだが……。


 同じ手が通じるのか、不安しかない。 

ブクマ、評価、感想を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ