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02 元皇帝は輩を蹴散らす

「──お前ら! 有り金全部出せ!!」


 帝国首都を出たライアンとダン。帝国の西側、海沿いの町に向かうため街道を歩いていたのだが……人気が少ない森に足を踏み入れた途端、輩達に出くわしてしまった。

 

「ワシ等も衰えたな。昔はこんな輩、寄っては来なかったというのに」

「しょうがありませよ、歳には勝てませんから。それに、俺達の格好も格好ですし」


「まあ、それもそうだな。して、この森を抜けると海沿いの港町か?」

「ええ、なんでも新鮮な魚を生で食えるらしいですよ? 酒にも合うとか」


「それは堪らんな! 久方ぶりに二人で杯を交わそうぞ」

「良いですね。喜んで」


 白いローブを着て僧侶を装うライアン。一方、騎士の鎧に身を包んでいたダンも、正体を隠して旅をしたいライアンの意向を汲み、旅人風な衣装に身を包んで僧侶の従者を装っている。


「ごちゃごちゃ言ってねえで金を出せ! 殺されてえか!」


 輩達を無視する様にライアンとダンが話していると、無視されたのが勘に触った輩達が語気を荒げ怒鳴りを上げた。

 

「やれやれ、活きが良い事だ……そうだ! 久しぶりに私の剣技を見たくないか? ダン」

「おっ、これは見ものですな。しかしライアン様──無理はなさらず。それっ!」


 道に落ちていた棒切れを拾い、ライアンに投げるダン。ライアンはその棒切れを右手でキャッチすると、左手に持ち直し、棒先を下に向けてユラユラと揺らす独特の構えを見せる。


「おいおいオッサン。俺達とやり合おうってのか?」

「こうなりゃボコボコにしちまいましょうぜ、兄貴」

「今日はご馳走にありつけるぜ、ヘヘッ」


 輩は全部で三人。真ん中で剣を構え、威嚇しているのが兄貴と呼ばれているリーダーらしきひょろ長の男。左にはいかにも食いしん坊な豚の様に肥えた大柄な男。右は短剣を構えた小柄で猿の様な男。


 棒切れを構えたライアンと輩達に緊張が走る中、最初に動き出したのは猿顔の小柄な輩だった──


 猿の輩は、ライアンの周りをクルクルと身軽に動き回り、ライアンを翻弄しようとする。そして、一向に反応を見せないライアンを、動きについていけないと判断した猿の輩は、背後から一気に駆け寄り、短剣をライアンの背中に突き立てる。


「終わりだ──って、え?」


 背中に突き立てた短剣は何故か空を切り、何の感触も得られない。焦る猿の輩は、そこにいた筈のライアンの姿をキョロキョロと探す。すると──背後から耳元に囁く声が、鼓膜を刺激した。


「素早い動きは良い。だが、最後に油断したのは減点だな」


 まるで、自分を採点するような口振り。そんなライアンの言葉に、血が上った猿の輩は、背後にいたライアン目掛け力任せに短剣を振るう。


「おいおい、何処を狙っておる。私は此処だ」

「くそっ! 死ねジジイ!!」


 短剣が空を切り、またもや背後からライアンの挑発する様な声が上がる。『今度こそっ!』そう思い、渾身の力で短剣を振り回す猿の輩。


「力任せに振るうだけでは当たらんぞ」

「あがぁっ!」


 前後左右に短剣を振り回す猿の輩。しかし、短剣が肉を裂く感触はとうに来ず、代わりに得られたのは後頭部に伝わる重い衝撃だった。


「よくもやったな! 次は俺が相手だ!」


 前のめりで気を失った猿に代わり、次に向かって来たのは豚の様に肥えた大柄な男だ。豚の輩は武器は持たずライアンに突進していく。どうやら、大柄で肥えているだけあってその体を武器にするようだ。


「突進するだけなら獣にも出来る。その巨体が仇となる事を知れ」


 豚の輩がライアンに迫り、後僅かという刹那──ライアンは豚の輩の突進力を利用するため、懐に潜り込み、そのまま飛び上がった。


 そして──巨体が宙を舞い、天地が逆転する。ライアンは頭が地面を向いた豚の輩を空中で固定すると、迫る地面に巨体を突き刺す。


「グヘェッ!」


 頭から地面に落ち、気絶した豚の輩。ライアンが言う通り、その巨体が仇となった。


「さて、後はお主一人だな」


 ライアンは、白いローブに付いた土を手で払いのけながら、残ったひょろ長の輩に言葉を掛ける。


「ひ、ひぃぃ! オッサン何者だ!?」

「ハッハッハ、唯の僧侶だ。どうした、かかってこんのか?」


「舐めやがって! 死ねー!!」


 仲間がやられ、錯乱状態に陥ったひょろ長の輩は構えた剣を振り回し、ライアンへと迫る。


 ライアンは振り回される剣を棒切れで華麗にいなしていく。そして、大振りの剣筋を絡めとると、剣を上空へと舞上げた。


「そ、そんな馬鹿な……」


 あまりの出来事に尻餅を着くひょろ長の輩。そこに、ライアンはジリジリ迫る。


「俺が悪かった! だから……く、来るな!」

「終いにしよう。これに懲りて悪さは辞めるんだな」


 空いた右手を上空へ掲げたライアン。その手に上空に舞上がっていたひょろ長の輩の剣が見事におさまる。そして、ライアンはひょろ長の輩に剣技を炸裂させる!


『ザクザクッ! ザクザク!』


「ひ、ひぃぃ!!」 


 目視すら出来ない剣筋。何かを切り裂く音と、輩の悲鳴が静かな森に響く。そして──小便を漏らし、気絶するひょろ長の輩。その頭は光が反射するほどツルツルに剃られていた。


「──さて。行くぞ、ダン」

「お見事でしたライアン様。いや~、腕前の方は衰えていませんね」


「だろ? 私もまだまだ現役という──あ痛たっー!! 腰が! 腰が!」

「どうしました?」


「腰がやられた! ダン、肩を貸してくれ!」

「……やれやれ、やっぱり衰えてましたね」


「うるさい! 良いから行くぞ!」

「はいはい。では、港町で養生しましょう」


 久しぶりの実戦で腰を痛めてしまったライアン。ダンはそんなライアンに肩を貸し、次の目的地となる港町を目指すのだが──



(ウフフッ、ライアン様相変わらず格好いいお姿。もうお歳なのに、無理しちゃう所もお茶目で可愛い……。あらやだ、涎出ちゃったわ)



 二人の姿を木々の影から着ける者。ライアンと同じ真っ白なローブに身を包んでいる。一体、何者なのだろうか……。


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