四葉のクローバーは歪に揺れる
新年一発目から、こんな話で申し訳ございませぬ
m(_ _)m
どうもヤンデレに脳内が占領されている模様です。
少しでも楽しんで(?)頂けますように…。
カツン…カツン…
遠くから聞こえてきた靴音に、私は身体を強張らせた。
カタカタと震える両手を握りしめて、靴音の主が姿を現せるのを待つ。
大丈夫、怖くない。
落ち着いて、冷静に。
自分を落ち着かせようと、何度も言い聞かし深呼吸を繰り返す。
今日こそは、ちゃんと話し合いをしよう。
大丈夫、大丈夫だから…。
外側からしか解錠出来ない扉を開け、姿を現した男は私を瞳に映すとにっこりと微笑んだ。
「あれ?起きてたんだ。おはよう、良く眠れた? 」
声をかけられた途端、跳ねてしまう身体。
両手の震えは止まらない。
「今朝は君の好きな出汁巻き卵を作ってみたよ。お口にあうといいんだけど。」
「…ここから出して。」
テーブルの上に持ってきたお盆を載せながら話す男は、柔らかい笑みを浮かべていたけれど、私の言葉に表情を一変させた。
辛く、悲しそうなものに。
それでも、なんとか笑みを浮かべたまま食器をテーブルに並べていく。
「…君はここから出られない。ずっと、ここで…僕の傍にいるんだ。さ、温かいうちにどうぞ召し上がれ。」
「…どうして?どうしてなの!?家に帰してよ! 」
大きな声で詰め寄る私を見つめる男の瞳に、どろりと濁った光が宿る。
どうしてそんな目で私を見るの?
ゾワリと背筋を悪寒が這い登る。
「君の家はもうないよ。」
「……え?何を言ってるの…? 」
唐突な男の言葉が理解出来ない。
家がないって…そんな馬鹿なことがあるわけがない。
「君の家族は君がここに来た翌日に家を出ていった、と聞いている。」
「りょ、旅行に行っただけなんじゃないの? 」
震える声で反論した私をひた、と見つめながら男が口を開く。
「違う。以前から家を売りに出していたようだね。契約がまとまったから荷物を纏めて出ていったそうだ。…残念だけれど、君は置いていかれたんだよ。」
以前から売りに出していた……?
私は…置いていかれた……?
「…うそ。うそよ、そんなこと……。」
ゆるゆると左右に頭を振る私を痛ましげに…でも愛しげに見つめて。
物わかりの悪い子供に教えるように説明していく。
一言一言を区切るように、混乱している私が理解出来るように。
「君の家族は、君のことを疎ましく思っていた。僕は、君の家族に頼まれて、君をここに連れてきたんだよ。」
君がショックを受けるだろうから、出来ればこの話はしたくなかったんだけどね。
君は、僕が大事にするよ。
ずっと…ずっと僕だけは君の傍にいる。
…愛してる、四葉。
僕が君の家族になるからね。
だから、ねぇ、四葉。僕を見て。
男が何かを喋っているが、全部耳を素通りしていく。
私は…家族に捨てられたの…?
私は…いらない子だったの…?
何故?どうして!?
わからない…何も、わからない…。
わらって
テーブルを囲んで
一緒に食事をしていた光景を
こんなにはっきりと覚えているのに…!!
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可哀想な四葉。
あんなにショックを受けて。
あんなに涙を流して。
でも、もう大丈夫だよ。
ずっとずっと、僕が一緒にいるからね。
君の傍にいる為に、僕、凄く頑張ったんだよ。
ねぇ、四葉。
君は覚えているかな。
小さい頃、君が僕に四葉のクローバーをくれたことを。
栞にして、今も肌身離さず大事にしているんだよ。
『…ねぇ、きょーちゃん。四葉のクローバーの花言葉って知ってるー?四葉ねー、知ってるんだよ。教えてあげようか?あのね……』
「…匡輔様。四葉様のご家族ですが、無事引っ越しが完了した、と現地より報告がございました。」
「うん、わかった。ありがとう。念の為、暫くは監視を続けておいてね。結納金として纏まった金額を渡してはいるけれど、いつ金の無心にやってくるかわからないから。」
「はっ、かしこまりました。」
ねぇ、四葉。
君には、僕がいればいいよね?
僕が、君の全てだよ。
四葉のクローバーをモチーフにした指輪をコロコロと掌で転がしながらこぼれ落ちた言葉は、誰にも拾われることなく空気に溶けていく。
「…愛しているよ。離れられない程に、ね…。」
君の綺麗な瞳に目隠しをして、真実を遠ざけよう。
何も知らない君でいて。
いつまでも、いつまでも。
「…僕のものになって…。」
お読み下さり、ありがとうございました。
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