第九話 魔力
「学校かぁ……」
帰路の途中で不思議な場所に出会い、暗闇の中で正体不明の人物に出会い、果ては異世界らしき世界で学校に通うことになるとは……
「奇妙奇天烈?仰天?珍妙?」
どの言葉を用いてもいまこの状況、この気持ちを説明できるものは無い。
いや、もしかしたらこれが俗に言う『オラワクワクスッゾ』状態なのかも。
ツキ爺さんの話では魔法が存在する。
そして今いるこの施設の雰囲気。
アルフレドさんの鎧。
極め付けが、『冒険者』というワード。
完全に二次元の世界だと思っていたものが目の前に、いや、体全体を覆っている。
小さい頃に夢見た世界が眼前に広がっていて、誰がその誘いを断とうというのだろう。
「今はもう異世界だとか、目的だとか、どうでもいい。ただこの世界に浸りたい」
そんな気持ちでいっぱいだ。
まぁそんなわけで、俺が冒険者学校の誘いを断るわけがないのである。
時間が欲しいと言った理由。それは……
「ツキさん。いくつか質問してもいいですか?」
「ん?なんじゃ?」
俺の頭の中には疑問が山のようにあった。
「今この場で、魔法を使ってもらっていいですか」
「あ、ああ………? べつにいいが……」
ツキさんは右手人差し指で自らの眼前三十センチほどの場所に、円を描いた。
すると指で描いた円の軌道に、尾を引くように光の線ができた。
「今のは暗闇で光を灯す魔法の応用版じゃよ」
「ほえ〜……ほ、他には?」
「そうじゃなぁ」
光の円は未だに滞空している。
「これはどうじゃ?」
今度は右手を掲げ、グッとなにかを掴み、『引き下ろした』
ツキさんの右手が下にスライドするのに合わせ、何もない空中から、大きな剣が出現する。
「……!?」
「目がまん丸じゃの……今のは空間転移系の魔法じゃよ。……つまりはわしの自室にある剣を、ココへ移動させた、ということなんじゃが……」
「それは特別な……こう、なんというか。魔法陣?だとか、道具がないと出来ないんですか?」
「いや、これは単に発想力、想像力の問題じゃよ。あとは魔力の質であったりはするが……」
「魔力ぅうう!!」
「おおなんじゃいきなり」
魔法があるんだから魔力があってもおかしくはない。だが、目の前でホンモノを見せられると、興奮を抑えられない。
「俺にも魔力はありますか!?」
「わ、わしにはわからんのう。状態監視系の魔法が使える者ならわかるじゃろうけども……生憎わしはそっち系の魔法は習得しておらんでな」
「そう、ですか……」
「じゃが、簡易的に魔力を図る方法なら知っておる」
「え?」
そういうとツキさんは俺の手を取り、じっと見つめ出した。
「むー。ん? 指輪をしておるのか。いい指輪じゃの」
「あ、そういえば……」
すっかりと忘れていた。『あの人』に付けられたんだった。
「さて、シンよ。目を瞑るのじゃ…………いや別に変なことはせんよ」
「……わかりました」
スッと目を閉じる。
「よし。それじゃあまずは、わしの手になにかを送り出す感覚を想像してみろ」
「??」
「わからんか……じゃったら、全身に風が纏っているのを想像するのじゃ」
あまり意味がわからないが、やってみる他なさそうだ。
風を纏う? どういう意味だろう。
とりあえず頭の中で、漫画のような、曲線で描かれるようなものが全身の周りをくるくると旋回するのを想像してみる。
「その調子じゃ。次はそれが、わしの握っている手に集まるのを想像するのじゃ」
言われた通りにする。
漫画のような風が胴体にまとわりつき、肩に流れ、そして右手の拳に向かうのを想像してみる。
「むう。これは……」
「な、何ですか?」
「自分で見てみるがいい」
恐る恐る瞼を上へ……
「うわあ……」
俺の拳に、白線が纏わり付いている。
それは頭の中で見たモノそのままで、ヒュンヒュンと音を立てながら拳の周りを回っている。
「こ、これは……」
「頭の中で想像したものに魔力が呼応し、発現させる。それが魔法じゃ。……わしは風を想像しろと言うたのじゃが、やはり最初に透明な物は難しかったかの」