第八話 段階
「イーダ殿にアルフレド殿。あなた方にお頼みしたいことが……」
「なんじゃ」
「なんだ」
なんだかんだであの三人は仲好さそうだな。
ポカン顔を見せられた後、三人は部屋の隅でコソコソと話している。
「異端者如きにこの待遇とはな……」
「ふん。ツキのいうことだ。何かしらの考えはおありなのだろう。我々は付き従うまでだ」
「すまない二人とも。後のことは私から説明させていただこう」
あ、イーダ爺さんとアルフレドさんが部屋から出た。
「それでは勇者……いやいや、少年よ。まずは名前を聞いても?」
「あ、えと……シン、です」
いやほら、知らない人に本名言うのって怖いじゃん。
「……シン? それだけか?」
「あ、はい。 シン、だけです」
「ふむ……こちらの世界では名前の前に爵位や階位をつけるのが標準でね。ワシの場合は領王主の階位、ナハルブンが名の前に付く。つまりは、ナハルブン・ツキュード・グレイス……まあ皆はツキと呼ぶがの」
そんな長ったらしい名前だったのか。
「じゃあ……ツキさんがつけて下さい」
「む、いいのか?この階位で身分が決まるのじゃぞ?」
「あー。まあそこそこのでいいんで……」
「階位の表を持ってこよう。その中から選んではくれんかの」
……五分後、ツキさんが持ってきた表がこれだ。
最上位
領王主 ナハルブン
領主 アット
以下略
上位
司令指揮官 コーハンル
隊長格 イェハル
以下略
下位
大家主 オウス
家主 ロウデス
以下略
最下位
奴隷 グスレイ
「……奴隷文化が、有るんですね」
「悲しいことじゃがの。国王の意思じゃ。ワシからは何もできん」
領王主が国王じゃないのか。いや、それよりも……
「あの、この階位って絶対につけないとダメなんですか?」
「そうじゃのう。できるだけつけて欲しいんじゃが……つけたくないか?」
「そうですね……やっぱり、まだなにも努力していない俺が、他の人が努力して勝ち取った階位を取るのは……できないです」
「なるほどの。……うーむ」
ツキ爺さんは唸ってしまった。
「実はの、階位が必要ない職業が一つだけあるんじゃ」
不服そうな顔でツキ爺さんは言った。
「『冒険者』……この職業だけ、階位を必要としない……いや、普通の階位を持てないのじゃ」
「持てない?」
「うむ。冒険者は各地を転々とする職ゆえに階位を付けたところで意味をなさないのじゃよ。じゃから冒険者には冒険者の階位が……あった。これじゃ」
ツキ爺さんは階位表を裏返した。
そこにはオモテと同じような階位が書かれていた。
冒険者階位
英雄王 ローハ
英雄の刃 ゴッタス
英雄 アッカス
英雄の卵 ハーヌ
英雄見習い シモル
:
:
:
冒険者見習い アーサー
「アーサー……」
アーサー王のアーサー?にしては階級が低いな。
「そう。アーサー。冒険者階位の最下位にして、いま最も多くの人に付いている階位じゃ」
「これは何をしたらもらえる階位なんですか?」
「冒険者学校を卒業するのが条件じゃよ」
「学校……か」
「ん?ああ、安心せい。見習い取得に掛かるのはたったの四ヶ月じゃよ。四ヶ月間、寮に泊まり込みで冒険者とはなんたるかを教え込まれる。それだけじゃ」
四ヶ月……この世界に慣れるには十分すぎる期間だ。
「学校ってことは俺以外にも誰かいるんですよね? 周りの子は俺と同じくらいの年齢なんですか」
「シンはおそらく17歳と言ったところかの。だとするならば大丈夫じゃよ。基本的に冒険者学校に入れるようになるのは15歳からじゃから、大体周りとの年代差はないはずじゃ」
「ふむふむ……少し時間をいただいても?」
「良いぞ」