第七話 厠
「ワシの治める平原にいたんじゃから、ワシん所に連れてくのが妥当じゃろうて」
「あんたン所の祠はクセがツエーんだよ! 純粋な力を求めるにはやはり俺のところが……」
「まあまあ……御二方……」
……なんだこれ。 何この状況。
ツキと名乗った翁は、終始他の二人を宥めようと躍起になっている。
一人称『ワシ』がイーダって人で、『俺』で鎧なのがアルフレドって人らしい。
十分程前から『祠』についての言い合いになっている。 ……祠?
「いい加減にせんかッッ!!」
……ツキ爺さんが怒鳴った。
「身内でもめたところで何も変わらんじゃろ。今この状況で、尚も名声が欲しいか……まずは彼に何が起こっているのかを説明するのが、わしらの責任じゃろう」
「あのう……?」
俺は恐る恐る挙手する。
この状況で俺が言えることはなにもない。そんなことはわかっている。
だがもう耐えられない。
「トイレ……行かせてもらっていいですか……?」
三十分後。
装飾の施された個室トイレから戻った後、ツキ爺さんに今俺が置かれている状況について話してもらった。
まず俺が最初にいたらしい平原。あそこはイーダ爺さんが治めている場であり、亜人種という種族が主に暮らすところであるらしい。
亜人種は動物と人間が混じったような種族で、その血筋によって姿形が大きく変わるらしい。
……で、俺が昏倒した原因でもあるあのケモっ子。
彼女も亜人種らしく、近くの村娘である、と。
「彼女ら亜人種は、長い歴史の中で幾度と無く迫害され、追放されてきた。故に多種族を嫌う傾向にある」
なるほど。彼女はケモっ子……獣と言われたことに憤慨したのか。
私達は獣では無く、立派な『人種』であると。
アルフレドは「精霊種」と言う種族らしい。話を聞く内にだが、ゲームなんかに出てくるエルフに似てると思った。 耳こそ尖ってないが、魔力……?が高いらしい。手先が器用で今居る施設の装飾もエルフ族が施したものなんだとか。
「さて、ここからが本題なんじゃが……」
「なんで俺がここに居るのか、ですか」
「いや、そこじゃない。問題なのはここに居る目的ではなく、どのようにしてここに来たか、じゃよ」
俺はココに来るまでの経緯を事細かに説明した。
「ふむ……性別すらわからんのか? その本を渡した者の」
「それが全然記憶になくて……」
「精神錯乱系の魔法……?いやいや、魔法と片付けてしまうのには早急か」
「……あの、質問いいですか?」
「ん? なんじゃね」
「魔法って、何ですか?」
「……」
ポカンとしている。
あ、後ろの二人も口開けてぽかんとしてる。
「ほう〜……こりゃ重症じゃなぁ」
「魔法も忘れてるとはな」
「ふん! ただの出来損ないではないか」
そこまで言われる筋合いはないぞ。
「もともと俺の世界には魔法は存在しなかったので……」
そしてまた3人はぽかんとした表情をする。