第六話 二度の覚醒
強烈な耳鳴り。
目覚めの一撃は超高音の生理現象だった。
「うう……んん?」
さわさわ……
足元が何やらくすぐったい。何かが足に触れているようだ。
さわさわと。
さわさわ……
「頭イテ……うわまだ耳鳴りすんじゃん……」
ズキズキと響く頭が眠気を一気に飛ばす。
さわさわ……チョンチョン
「……」
ふわっとしたものが足を突く感触があった。
毛のふわふわ度合いからするとアンゴラウサギレベル。
「なん……だ?」
耳鳴りが遠くに離れるのを感じて来た俺は、恐る恐る足元を見る。すると、
「あ? んだコラ。どつきまわすぞ」
……暴言を吐かれた。
7歳くらいだろうか。
ギラッとした目を向けながら話す少女の顔は可愛げがありながらもヤンキーそのものだった。
民族衣装の様なもの身につけた少女は顔を歪ませながら、中指を立てて言った。
「××××して××××すっぞコラ」
……口悪すぎだろ。
敵意で立てられたその小さな中指は先端に鉤状の爪を生やしている。それだけではなく、よく見ると少女の手はふわふわとした毛で覆われていた。
「ケモっ子……」
「だ、誰がケモノじゃああああーーー!!!!!」
「うわぁ!?」
ふと口に出してしまった言葉が少女の逆鱗に触れたらしい。
いきなりの怒号に俺は驚き、走り出していた。
「待てゴラァアアアア!!!」
「ごめんなさあああ!!!?」
20メートル程駆けた所で後ろから飛び掛かられ、押さえられてしまう。
あっさりと捕まってしまった。
高校生の全力疾走に追いつける少女って……
「ふしゅー!ふしゅー!」
「え、顔怖……!」
明らかに目が血走り動向が開ききっている。
「覚悟は……出来とるか……」
「え、え?ちょ、なにしt」 ゴンッ
後頭部に衝撃を覚える。
次第に視界が狭くなっていき、背中に幼い重さを感じながら、ちらりと見える少女の殺意に戦慄を覚え、この日は幕を閉じた。
「___るべきです」
「しかしこの者は____ろう? ならば___」
「それが___の意志であるなら___」
……誰だ?
誰かが話している。聴覚がしっかりと働かない。というか顔全体に違和感が……
「起きた様ですぞ」
「ふむ。取れ」
足音がこちらに近づいてくる。
バサバサという音と共に光が視界に広がる。布か何かを被っていたらしい。
「さて……ごきげんよう、異端者殿。気分はどうかね?」
「いたん……しゃ?」
目の前には3人の翁が居た。
その見た目はまさに族長や村長と言った風貌で、ローブをまとった者、先ほどの少女とどこか似た衣装をまとった者、そして、鎧を着た者……。
3人とも俺から少しばかり離れた状態で腕を組んでいる。
「ふん、目覚めたばかりのコイツに何を言っても……」
「まあまあアルフレド殿、そう言いなさんな。イーダ様も、ここはわしに任せてくれんかの」
アルフレドにイーダ? 誰だ?
「さて、先ずは初めまして『勇者』殿。わしの名前はツキと申す。あっちの鎧がアルフレド殿、そしてこちらの亜人族であらせられるのがイーダ様じゃ」
ツキと名乗った老父からは、朗らかな表情と蓄えられた立派な髭から威厳を感じる。
口調からしてイーダという爺さんが一番偉いのだろう。
「単刀直入に行こうぜ。御二方。このガキが何であそこに居たかを聞けばいいだけだろう」
あそこ?俺が目覚めた場所か……?
「おや、目覚めたばかりの者に何を聞いても無駄なのではなかったのですかな? アルフレド殿?」
「チッ……」




