第五話 不和
_____私の本だから、間違いはない。
相変わらず周囲は闇に包まれ、唯一の光源であったスマートフォンも今は無い。
その上、無闇に動いたところで何も変わらないのは既知である。
つまりこの本を開かざるを得ない状況に追い詰められたのだ。
「中々の策士だったんだなー。いや、たまたまか」
意外にも冷静で居られるのは何故なのだろう。
「……開くしかないか」
それ以外にどうしようもなく、ここで一人狂うのを待つよりはいいだろう。
重量感のある表紙をゆっくりと開く。
「開いたところで読めるわけでもないん……だけ、ど……」
表紙を開いて数秒、強烈な睡魔が襲った。瞼が自らの意思とは解離されたかのように下へ下へと向かう。
そして心なしか頭が痛い気がする。
「ん、んん……?」
遠くの方で何か音が聞こえる。
生肉をかき混ぜるようなぐちゃぐちゃとした音。
若干の不快感を覚えながらも、睡魔は着々と俺を支配している。
(あ……だめだ。取り敢えず本を近くに……)
寝て起きて闇の中。希望である本が見つかりませんでは目も当てられないからな。
まあそんなことは杞憂に終わるのだが。
「うぅ……」
本を腹に抱え蹲るようにして、俺は深い眠りについた。
……夢を見る俺はふと思う。
どこから意識が覚醒していたのだろうか。
熱い。
腕を火が包んでいる。
これじゃあ好きな人とも抱き合えない。手すら繋げないじゃないか。
「こんな腕は必要ない」
歯を肘上にあてがい、腕を噛みちぎった。
肘上しか無い腕がバタバタとひとりでに喚いている。
暴力的に鎮火された自らの腕は地面に溶けるように消えて行った。
現実では理解不能な出来事が、より一層夢だと言う事実を突きつける。
夢は夢。現実との関係性はほぼ無いと俺は考えている。
深層心理に何を植え付けられたかなど知りたくも無い。
腕が溶けた場所を見つめていると段々と周囲の雑音が大きくなっていく。
現実の自分が覚醒しようとしている。
「……あぁ、いやになる」