第三話 闇の中で
闇。
どこを見ても暗い。と言うか黒い。一瞬の出来事すぎて自分の視力が無くなったのかと錯覚してしまった。
だが足元には草が足を擦る感触がある。だとするとただ周りが暗くなったと考えるのが妥当だろう。
「なになに!? さっきまで明るかったじゃん!」
不気味さが増し、不安になった俺は思わずその場にうずくまる。
我ながらなんとも情けない姿だろう。
「あ、スマホだ。スマホのライトで……」
なぜ気がつかなかったのか。
カメラを起動しライトをつける。
「やあ」
「……へ?」
光に照らされた場所に、
「どう? びっくりした?」
人が。
「……え、あ。うん、びっくりした……」
意味不明な事が起きすぎて俺の頭はフリーズしていた。
「そんだけ? うわーとか、ぎゃーとか言わないんだね」
「えーっと、いろんな事が起きすぎて何が何やら……」
「なるほど。なら冷静なうちに説明するね」
風が吹いたような気がした。
「あなたには、人助けをして貰います」
「……あ、はい」
「混乱してるにしても反応薄いなぁ!」
目の前の人は腹を抱えて笑っている。
いまいち男か女か判断がつかない。なんでだ?
「あーおなかいたい……ふう」
咳払いをされ、真面目な顔に戻る。
「本題はここから。あなたには人助けをして貰うんだけど、一個問題があってさ。その人助けって、一つ間違えれば簡単に命を落とす様なものなの」
「はぁ」
「ぷくく……おっほん! そんな危険なモノでも、やってくれるかい」
「いや、あの……」
「ん?」
「まず名乗ってもらっていいですか?」
目の前の人は少し悩む様なそぶりを見せた後
「それはできない」
と、言い放った。
「私がここにいる事自体イレギュラーなんだ。君が私を認知すると私の存在が確定してしまう。それだと君も私も消えてしまう」
意味がわからない。何を言っているんだ。
存在? 認知? 消えてしまう?
「そう言うものなんだよ。概念の問題だ。……もう時間がないな。最後に聞くぞ」
「あ、はい」
「人に、必要とされたいか」
……なぜか鼓動が早くなった。頭の中に今までの記憶が凄い速さで流れている。
今考えれば、様々な事が起きすぎて頭が麻痺していたのかもしれない。
日々の鬱屈から逃げ出したかっただけなのかもしれない。
だとしてもあの選択は間違っていなかったと、自信を持って言える。
「必要とされたい、です」
「上出来だ」
___prrrrrrrr