第十一話 ずる
「き、今日は、おるのじゃな」
「はあ……まあ、ずっと部屋にこもって勉強っていうのも、気が滅入りますから」
「そ、そうじゃぞ。無理は、いかんぞ」
俺は珍しく朝食の席に出ていた。
メイドからあんなことを聞いて出席しないわけにもいかない。
ってか、イーダ爺ってこんなに穏やかな人だったかな。
「しかしのう……ツキの奴、とんでもないことを頼んできおった。 わしの領地でシンを預かれとは、何を思うたのじゃろう」
「何か問題でも?」
「……お主がわしの領地民に何をいうたのか、忘れたのか?」
あー……なるほどねー……
「もしかして、民はお怒りで?」
「うーむ……まあ幸い顔は知られておらんからの。あの村娘と出会わぬ限りは平気じゃろう」
「……」
はあ……憂鬱だ。
イーダは席から立つとメイドを呼んだ。
「『アレ』をシンの部屋へ。そろそろ練習もしておかねばな」
「かしこまりました」
スタスタとメイドが部屋から出て行く。
「アレ……ってなんですか?」
「ちょいと、ズルをしようと思うてな」
「……ずる?」
「……なんだこれ」
自室へ帰った俺が見たもの。それは大きな……なんだこれ?
獅子のような胴体から昆虫のような節のある足が飛び出した、顔に嘴がある生き物が横たわっていた。
大きさは大体俺と同じ、百七十センチくらい。
「おう。きとるようじゃの」
「あの、イーダさん……これは……」
ノックもなしに入ってきたイーダ爺には目もくれず、目の前の偽ものみたいな鵺のようなものに釘付けだった。
「魔物を見るのは初めてかの。こいつの名前は『ガッコウゲ』と言うてな。虫の魔力と獅子の魔力が混ざって生まれたものじゃよ。 ん?嘴があるところからして鳥の魔力も少しばかり入っておるの」
「魔力が混ざって?」
「うむ。魔物は生殖行為では繁殖せず、行き場の無くした魔力の成れ果てが集合し合って生まれる。なぜか姿に一定のパターンがあるようじゃが……わしもよくわからん」
「へえ……で、なんでこれが俺の部屋に」
「食え」
「は?」
今なんて?と言ったつもりが喧嘩腰になってしまった。
「じゃから、食うんじゃよ」
「いやいやいやいやいや、ゲテモノにもほどがあるだろ」
「まあまあ、いいから騙されたと思ってさあ。ほらぁ」
「メイドもグルか!」
イーダの後ろにいたメイドも参戦してきた。
味方がいねぇ!
「魔力の塊を食べれば、少しは魔力の扱いに長けて来るじゃろうて」
もののけ姫の猿みたいな物言いだな。
ニンゲンクウ。ニンゲンノチカラモラウ……みたいな。
「前例はあるんですか」
「ある! 百人試して十五人が死んどる」
「ぉおい!!」
目の前で獅子もどきがメイドに解体されて行く……
ふむ。血は赤色なんだな……あ、足はカニみたいに身が詰まってる。いやいや、待て待て。部屋が惨劇の館みたいになってる。
「え、本当にたべんの?」
「うむ。ほれチャレンジ精神じゃよ」
「いやいや、10%以上の確率で死ぬのに誰が食べ」
「早くしろ」
「はい……」
早くしろ、と言ったのはメイドです。