宿縁
暇つぶしに、制作時間2時間で考えてそのまま打ち込んだだけなので、ちょっと物足りなく感じると思います。あとはばーっと進んじゃいます(笑)
人類が絶滅危惧種になって二ヶ月が経った。
私が、小学校五年生に上がった頃、世界の犯罪者や死刑囚が不自然な死を遂げる事件が多発していた。そんな事件が未解決のまま四年の歳月が過ぎた。
高校生になって四ヶ月が過ぎたときだった。学校が終わって家に帰ったら、母親も父親も妹もいなくなっていた。
友人からの着信が何件もあって、慌てて掛け直すと友人が「美津やっと出た! テレビつけて!」と切羽詰まった声で言った。どうして? と私が確認する前に通話は切れていた。
言われたままにテレビをつけた。私の頭にはクエスチョンマークが咲き乱れた。
テレビでは、どこの場所かわからないけど、女性記者が大慌てで何かを伝えていた。
『現時点で、えっと、何が起きてるかわかりません。さっきから多くの人が唐突に消えています。政府からも何も発表がないの……ゔっ、ぐぅがっ……ゔぇ』
びちゃっ。
「え?」
本当に何が起きたのかわからなかった。急に苦しみだした女性記者は一瞬圧縮されたように潰れたあと、血液だけが重力に従って地面に落ちた。
何が起きたの……?
みんなは……? 急に不安になった。見当たらない家族はもちろん、さっきの友人も、彼氏も……。
足りない頭で、あれこれ考えていると、急に声をかけられた。
「おねえちゃん?」
はっと振り返る。妹だった。
「美津南! よかった……無事だったんだ」
寝起きの感じを見ると、二階で寝てただけだろう。ここで疑問が浮かんだ。お母さんとお父さんは?
まだ小学二年生の妹が無事だったことにひとまず安堵する。このわけのわからない状況、信じるにはまだ不十分だとしても、さっきのテレビが嘘だとは思わなかった。
「美津南、お母さんとお父さんがどこに行ったかわかる?」
一瞬、妹は顔を強張らせた。
「……ぐちゃってなった」
思わず妹の顔を凝視する。何を見たのかは、その言葉だけで十分だった。
「ねえ、ママとパパは? どこ行っちゃったの?」
美津南は小学二年生には似合わない複雑な表情をしたあと、私に抱きついてきた。私も抱き返す。ひっくひっくと泣く妹をただ抱きしめた。
「ひっく……ひっぐ、ゔ、あ、が。おね、ぢゃん……ぐ、ぐるじっ、ぶ」
女性記者みたいに急に苦しみだした妹は私の腕の中で潰れた。
妹の血とその匂いが私の身体を覆う。言葉も出せない私は、妹を抱きしめてる状態のまま数秒固まった。
「あっ、なんで、こんな。ゔっ、おえ」
ごほごほとしばらく吐くと落ち着いた。気付いたら私の身体に付着していた妹の血は初めからなかったかのように消えていた。
よろよろと立ち上がると、乱れたショートカットの髪を直す。涙は出なかった。
彼氏に電話をした。電話の途中で彼氏は潰れた。もう、驚かなかった。
あっという間に全人類の7割が潰れた。
二ヶ月……。どうしてこんな現象が起きているのか、実際今の日本にあとどれくらいの人が残っているのか。たった二ヶ月でこれほどの人間が消えるなんてことを誰も予想などできるわけがない。最早この世界には私しかいないのかもしれない。
ふと……、何かの映像が私の脳裏をよぎった。
まだわたしが小学生四年生のときだった。
いわゆるいじめにあっていたわたしは、よく家の近くの神社に通っていた。その神社はこじんまりとしていながらもなぜか神秘的だった。
その神社にいると不思議と落ち着いた。
ある日、いつものように神社に行って短い石段を登りきると、同い年ぐらいの男の子がいた。
わたしは、なんて声をかければいいかわからなくて、黙って彼の隣に腰を下ろした。
どうしようか考えていると彼の方から声をかけてきた。
「いつも来てたのは君だったんだね、久しぶり」
彼はその見た目の年齢に反して落ち着き払った声で言った。
わたしは、彼の吸い込まれるような瞳を見つめてしまった。
「ありがとう」
「えっわたし?」
何に対してのありがとうなのかわからなかったわたしは首を傾げて、彼を見たまま自分を指差した。
「あはは、君以外に誰がいるんだい?」
辺りを見回しても誰もいないし、ここに人が来たことを見たこともない。
「えっと、どういたしまして?」
彼はさらに笑ったあと、わたしの頭に手を置いた。すごく安心した。
「君はもし何か叶えられるとしたらお願いはある?」
彼が優しげな声で問いかける。わたしは一つ気になったことを彼に尋ねた。
「あなたの名前は?」
「わからない、でもよくハカイシンって呼ばれていたよ。みんな僕を嫌った」
ハカイ シン君、わたしは心の中で復唱した。
「シン君も? わたしもみんなに嫌われてるんだ」
わたしは、まだ出会って間もない彼にならなんでも話せる気がした。親にも先生にも話せなかったのに。
「みんな、わたしのことを邪魔者扱いするの。学校に来んなとか死ねとかバカは勉強しても治らないって……勉強も運動も苦手だけど頑張ってるのに」
「そうなんだ」
シン君の声は相変わらず穏やかだった。わたしもシン君にどうして嫌われてるのか訊こうと思ったけどやめた。なぜだか、訊いてもわたしにはわからないと思った。
シン君は優しく微笑んだあと、わたしにもう一度尋ねた。
「君はもし何か叶えられるとしたらお願いはある?」
わたしは正直に答えた。
「わたしは消えて無くなりたい」
なんで今まで忘れていたのだろう。私は、未だ捨てられず生活していた家を出て神社に向かった。
神社は昔のようにそこにあった。短い石段を登る。
登りきった先に、いた。
「シン君……」
今の私と同い年ぐらいの容姿だった。きっと私に合わせてくれているのだろう。
「僕のことを覚えていたんだね」
「なんで今なの? それに私の願いと違う」
彼は、空を仰ぎ見た。視線を私に戻すと言った。
「君の願いを聞いたのは確かだけど、別に1人の人間の意見として参考にしただけだよ。人間なんて傲慢で醜悪で偽善にまみれて、地球の生き血を吸う害虫だろう」
だから駆除することにしたんだ、と彼は笑った。
「遠い昔、僕はもともと人々に崇められていた。そんなある日、村を災害が襲った。残念ながら僕にはどうすることもできなかった。当時は力の使い方がよくわからなかったから。そうして、村の半数の人間が死んだ。あっという間に手のひらを返されたよ。笑ってしまったね」
彼は、私の目の前に立つと、四年も経って長く伸び放題になった私の髪を優しく撫でた。
「人間でいう一ヶ月ほど経った頃、今度は水害が村を襲った。人間たちは何を思ったのか、また僕のとこに来た。当然相手になどしない。それで何をしたと思う? まだ年端もいかない少女を僕に差し出した。汚れのないこの子を捧げます、と。見限ったよ。季節よりもころころと変わる奴らだなってね」
興奮しているのか一息に話した彼は、ふぅと一度息を吐いた。
私はつい口を挟んでしまった。
「その子はどうなったの?」
彼は、私の質問に簡単に答えた。
「死んだよ。少女以外の人間たちは水害で死んだけれどね。人間なんて育てたこともない、何をすればいいのかわからない。日に日に衰弱していく少女を見るのは辛かった。今なら助けられただろうけれど。ただ、彼女は当時10歳だった」
なんとなくわかってしまった。当時の私は10歳だった。そして、彼は"久しぶり"と言っていた。
「少女の名前は、みつ……死ぬ間際、彼女はまた会いにくるねと言った」
彼は寂しそうに微笑んだ。
「ここに君が現れるようになったとき、すぐに何かを感じたよ。しばらくは様子を見てたんだけれど、話したくなっちゃってね。この感情はなんというのかな、懐かしいだろうか」
彼は、大切な宝物を包み込むように私を抱きしめた。
「ねえ、僕と一緒に新しい世界を作らない?」
私は、首を振った。彼から離れると、私はまっすぐ彼の目を見た。
「あのね、確かに人間って傲慢で醜悪で偽善にまみれて、地球の生き血を吸ってるかもしれない。だけど、悪い面ばかりじゃないんだよ。なんて私が言っても仕方ないことだけどね……あなたは、私に消えて無くなりたいと思わせた人間に対して怒ってくれたんだよね。犯罪者の不審死もうまく使えない力をうまく使うために練習してたんだよね。」
彼は、肯定も否定もしなかったけれど、それが答えだった。
「ありがとう、そんなに考えてくれて。でも、恨むよ。私の大切な人たちを奪ったことを……」
彼は、それすらもわかっていたかのように頷いた。そして、私の頭に手を置いた。相変わらず安心した。
全ては許せなくても、気持ちは伝わったと私は心の中で想った。
「もうこの地球には人間は私しかいないんだよね?」
彼は、笑顔のまま頷いた。
「じゃあ私も、消して?」
「……そうか、結局僕も傲慢だったんだね。力の使い方も今もわかっていないまま」
今度は、少し背伸びして私が彼の頭に手を置いた。
「次は、こうならないようにしてね。終わらせるなら始めることもできるはずだから」
彼はそっと私の手に自分の手を重ねる。
「あのさ、君の名前はなんていうの?」
自身の頭からそっと、私の手を下ろすと、答え合わせを求めるように訊いてきた。
「私は、美津っていうの」
「みつ……そうだったんだ」
彼の目尻に光るものがあったけれど、私は気づかなかったふりをした。
「また会おう。みつ」
「うん。また会いにくるね」
私の意識はぷつっと途切れた。
ーーこうして、人間は絶滅したーー。
今回は想いの違いで人類の絶滅まで行ってしまいましたが、実際伝えたいというか、自分が思ったのは何が原因で結果につながるかはわからないということです。結果にも大きく分けて良い結果、悪い結果がありますけど^^;
ネットやSNSの存在とは断定は出来ないけど、言葉の重みを考える人は確実に少なくなっていると思います。幼稚にいうなら言って良いことと悪いことがわからない人が多すぎるということです。
相手の顔が見えないからこそ、気遣いや思いやりを発揮するべきだと個人的には思います。この話とは直接的には関係なくなっちゃいましたけど、以上です!個人的な意見なので悪しからず。