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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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93 七星刻の絆

 昆虫軍の戦いで、俺たちは陣地設営時には近くで護衛を兼ねた訓練を行い、戦いになったら、レウとラウラがいる本陣を守る。


 まずはこれを了承し、次に話が進む。もうひとつレウに言われた役割。それは防衛線一列目、二列目の仕掛けの起爆だった。


 「ほんなら、話を戻して起爆方法な。それはな、これや」


 レウはジャラジャラと音をさせて武器を取り出して机に並べた。俺たちの前に出されたのは、数本の短剣であった。10本くらいはある。長さは15センチ程度だ。


 「これですか?」


 「そうや。これはな、あんたらの武器と同じように刃にエネルギーを詰めた投擲武器や。ゲック・トリノ城へも持って行ったんやけど、使わんかった。ほんで、起爆はな、壁の上からこれを投げて的に当ててくれればええ。溜めてあるエネルギーは少ないんやけど、起爆には十分な量や」


 高さ30メートルはある壁の上から投げて当てる? レウはできると当然のように言うけど、それってどのくらい離れた的に? 的ってどのくらいの大きさなんだ? 蛍の矢なら簡単だろうけど、などと次々に疑問が湧き起こる。


 自然と投擲を得意としているキャサリンに、皆の視線が集まっていく。


 「うーん。それは壁からどのくらい離れているどんな的を狙うんですの?」


 当然の質問だった。しかしそれに応えたレウの言葉にあまりに意外なものだった。


 「そうやな。1メートルくらい離れたところで、的は1メートル四方くらいのやな」


 「えっ?」


 さすがに驚きの声が出てしまった。キャサリンも緊張から解き放たれたように大きく息を吐き出す。


 「レウたんも面白いことを言いますわね。それなら、できるできないではないですわよ」


 キャサリンの言う通りである。


 「うふふふふ。あなたたちには簡単でも、あたしたちにはね。そういうところが違うのよ」


 壁から1メートル離れたところなら、上から下に投げ下ろすだけだ。きっと俺でもできるだろう。しかも1メートル四方の的にほぼ真っ直ぐに飛ぶ短剣を投げつけるなんて、空中で数本の棒手裏剣を操るキャサリンには楽勝だし、レイラでも簡単すぎることだろう。


 しかしラウラは笑顔のまま自分たちには難しいと語り、俺たちと彼女たちの違いを強調した。


 知覧姉妹は凄い人たちで、俺たちとは別次元だと思っていたが、こと格闘に関しては俺たちの方が上なのかもと思ってしまう。


 ただ、どうしても拭えない違和感が俺にはあった。すっきりしないのである。蛍も同じ思いなのか不思議そうな顔をしていたが、いつもとは違う蛍ではそれ以上のことは何もできなかった。


 そのあとは、起爆の合図に使う煙幕というか狼煙というか、打ち上げ花火のようものをレウが出してきて、緑が上がったら1列目の起爆。赤が上がったら2列目の起爆をという具合に決められていった。


 起爆担当は、キャサリンが『お任せください』と立候補し、さすがにひとりではと思ったのか、幸介が護衛として着いて行くことを提案する。


 「幸介さんは足手まといになりそうですわね」


 「ガハハハハ。って、なんだと!」


 「いえ。幸介さんにはレウたんを守ってほしいんでけど……」


 キャサリンが素直に本音を吐きながら俺の方を見てきたが、俺には気がかりな蛍のことがあるので、キャサリンの視線には応えられなかった。怒った幸介もキャサリンの本音で、素直に口を閉じた。


 レウがその様子を見たからか、キャサリンと幸介にお願いすることで起爆担当の話を打ち切る。


 高さ30メートルの壁の上で、タイミングを計って起爆をさせる必要があり、敵に襲われる危険性もあるが、少なくても高さがあるので敵の数も多くはないだろう。たとえ多少の敵に襲われても、合図を待って幸介の火力で成功させることはできるはずだ。


 それに起爆させたあとは本陣に戻るので、ふたりなら問題なく成功させる。俺は蛍の傍を離れたくないからこんなことを考えているのかもしれないなとも思ったが、レウが話を続ける。


 「そんでな。最後に重要なことを伝えておくな。うーん。なんてゆうたらええんか分からんのやけど……。そうやな。うちと姉さんが心の底から信じているものは、この腕の七星刻(しちせいこく)だけや。ほんでな今回の戦いはゴブリンのときとは違って犠牲も出るやろ。しかし、あんたらはうちらを守ってくれるとゆうてくれたし、うちらもあんたらのことは守るつもりや。七星はひとりが欠けても輝けんからな」


 「レウさん……」


 俺が違和感を持っていたことが解決した。レウたちが自分たちを守ってくれと言ったのは口実というか、俺たちに花を持たせたのかは分からないが、とにかく本音は、自分たちの目の届くところに俺たちを置いておきたいということだろう。ラウラが続けて説明する。


 「みんな。今度の戦いは厳しいものになると思うけど、最悪の場合は7人で逃げるわよ。ブルーリバーを捨ててでも逃げる。それは約束して頂戴。あたしたちは7人が揃ってこそ、これからの戦いを戦い抜けるのだからね」


 この先の戦い。この間のゲック・トリノ城攻めや今度の昆虫軍との戦い。これからどれだけの戦いが続くのかは見当もつかないが、レウとラウラは戦い抜くことを前提に今を生きている。


 7人が揃ってこそ人類に希望が残る。


 知覧姉妹が伝えた言葉は俺たちには重く圧し掛かってきたが、同時に何かとても暖かいものに触れた気がした。


 そして、全員が露出させているわけではないのだが、皆の七星刻(しちせいこく)が優しく光っているような錯覚を俺は覚えた。



   ◆◇◆◇◆◇



 同じ頃、竜王国にも昆虫軍が人類の壁を越え、ブラッド・リメンバーを陥落させたという報せが届いていた。


 竜王国の本拠地であるドラゴン・パレス城には、レウの罠に嵌って命を落としたナーガ将軍の跡を継いだアレウス・タルコス、通称ラドン将軍を含めたワイバーン、ヒドラ、エキドナの四将軍が集まっていた。


 四将軍に格上げされたラドン将軍は元々は四将軍筆頭ワイバーン将軍の腹心の部下であった。


 「獣帝国(ビーストエンパイア)のやつらは、南を攻めはじめたのか?」


 ワイバーン将軍はそう言うと、情報を集めていたラドン将軍の方を向く。


 「はっ。そうではないと思われます。モンテ・ドラグーン、バーグ・リッチバラー、レッド・カスターの各城には大きな動きはありません。それどころか我が王国への警戒を強め警備が厳重になっています」


 「そうか。どうだ?」


 ワイバーン将軍は短く答えて、短く質問した。もちろん聞いた相手、ヒドラ将軍とエキドナ将軍の方を向きながら。


 「ナーガを破った虫けらどもの単独行動ですな」


 「そう見せておいて、油断させるという敵の罠かもしれませぬぞ」


 ヒドラ、エキドナの順に応えたが、どちらも感想でしかないもので、ワイバーン将軍は目を閉じ、おとがいに手を当てて考え込む。


 しばしの沈黙のあとエキドナ将軍が声を出す。


 「ワイバーン将軍。思った以上に早く第七世界(セージ)を攻められるかもしれません!」


 まったく関係のないようなエキドナの発言だったが、それを聞いたワイバーン将軍は目を見開き、口元を緩ませる。


 『ふふふっ。共倒れか……』


 ひとつ呟いたワイバーン将軍は、表情を引き締めラドン将軍の方を向き、命令を出す。


 「我軍も南の拠点に兵を集めておけ! 虫けら対策も忘れるでないぞ!」


 「はっ!」


 竜王国の四将軍が集まったこの会議の結果、竜王国軍は南へ兵力を集中し、それを受けた獣帝国(ビーストエンパイア)軍も北の守備を固めていった。


 こうして、南で人類と昆虫軍が戦っている間は、獣帝国(ビーストエンパイア)軍も竜王国軍も共に境界線で睨み合う状態が続いたのであった。


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