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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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91 作戦会議

 フレイムの幻術を確認したあと、エドワード邸の表玄関に戻ってきたレウとラウラを見つけ外まで出迎えに行く。早めにダスティンたちのことを話したほうがいいと思ったからだ。


 門から入ってくるなり、レウはひとつため息を吐いた。彼女にため息を吐かせた原因は騒々しい街の様子だろうか? ふたりの所に行って、レウに声を掛ける。


 「お帰りなさい。レウさん。お出かけだったんですね?」


 「ああ。ちょっとゴドルフたちの所へな」


 ゴドルフ? と一瞬思ったが、口から出た言葉は違っていた。


 「そうですか。あっ、エドワードさんが探していたようですよ」


 「ほうか。戻ってきたか。姉さん!」


 エドワードの名前を聞くと、レウは後ろにいたラウラの方を振り返り、声を強めた。


 「そうね。行きましょう!」


 「あ、あっ。ちょっと待ってください。実は……」


 立ち話だったが、レウたちにダスティンとフレイムの幻術のことを説明する。レウはふんふんと頷きながら「ほんで」などの合いの手を入れていた。


 隣で一緒に聞いていたラウラは最初は「ふーん」というような仕草を見せていたが、最後のほうは一度、目を見開き、それからゆっくりと細めていた。


 「ほうか。分かった。あとでうちらがふたりと話すわ。あんがとな。ビビリーナ」


 「いえ」


 「うふふふ。そう。ダスティンさんとフレイムさんね」


 レウはいつものように片手を挙げて屋敷の中に入って行き、後を追うラウラは、何かを思いついたように口元を緩ませていた。


 しまった。ゴドルフの所に何をしに行ったのかを聞き忘れた。もしかするとゴドルフたちも手伝わせるつもりなのか? それ以外には、今行く理由は見当たらないが……。まあ、仕方がない。夕食のときには分かるだろう。


 ブルーリバーの街を真っ赤に染める夕日に手を翳し、空を見上げながら、俺は体の底から少しずつ滲み出てくる力を確かに感じていた。



   ◆◇◆◇◆◇



 いつもとは違う静かな夕食を済ませたあと。7英雄にダスティン、フレイム、エドワードを含めた10人の人類の戦いの勝敗を決めるともいえる作戦会議が行われた。


 ダスティンとフレイムは、レウたちに参戦の許可をもらったようだった。というかフレイムもダスティンも知覧姉妹の部屋から戻ったあとは、目つきが変わっていた。


 ふたりの瞳には、誇りを賭け、自分の守りたいもののために戦う決意を秘めたような強い輝きが宿っていた。


 何が話されたのかは分からなかったが、ふたりに呼ばれたあとダスティンとフレイムはそれぞれこう言っていた。


 「俺の命はラウラさんに預けた!」


 「ようやく父上の仇が討てる!」


 まるでゴドルフたちと同じような匂いを感じた俺は、ふたりともラウラにティムされたのかと思ったほどであった。


 さて、会議が始まる。


 作戦会議の議長はもちろんレウ。誰かがごくりと唾を飲み込む音が聞こえてくるなか、レウが口火を切る。


 「みんな敵の詳細は分かっていると思うので省くで。さっそくだがまずは敵の今の位置からや。集めた情報によると、昆虫どもはブラッド・リメンバーからブルーリバーの壁沿いにあるいくつかの拠点を次々と落として、こっちに向って来ている。今、やつらがいてるのは、ブルーリバーから160キロくらいの所や。ほんで、おそらくやけど、あと7日程度でここに攻め寄せるやろう」


 皆の顔に緊張感が走る。敵は南下してアンカー・フォートを攻めるのではなく、直接ブルーリバーへの進路を取ったようだ。もう決戦は避けられない。


 あと7日。このまま何もしなければ、1週間後にはブルーリバーが昆虫どもに蹂躙される。俺たちに残された時間は長いようで短い。


 「ほんで、うちら人類はブルーリバーの東5キロの大平原でやつらを迎え撃つ。決戦場はここや!」


 レウは地図を広げてブルーリバーの壁沿い、丁度、ブリーリバーの外壁と内壁の間にある街並みが途切れた少し先を人差し指で指し示した。


 「ここには平原を見晴らせる小山がある。絶好の場所やからそこに本陣を置く。そんで作戦の指揮は姉さんに執ってもらう。皆、異存はないな」


 レウが皆を見渡して、皆が頷くのを確認する。


 指揮官はラウラだった。ゲック・トリノ城攻めのときに指揮を執ったと聞いていたので、そうかもとは思っていたのだが……。


 「ほんじゃ姉さん。あとは頼むわ」


 いつもと違う顔つきで、前を向き腕を組んでいたラウラが立ち上がって口を開いた。直立姿勢を取ったラウラは、本当の軍人のように格好良かった。


 その姿を見たキャサリンとレイラの目が憧れの眼差しに変わり、キラキラと輝いている。


 「諸君!」


 ラウラの声が食堂に響き、皆の緊張具合が、また一段、上がった。煌々と燃えているランプの火が大きく揺らぐ。


 「これから作戦の詳細を伝える。まずは防衛線についてだ。本陣の前に長さおよそ1キロ、3列の防衛線を張る。敵から見て1列目が幅2メートル、深さ1メートルの堀で、そこには油を満たした樽を設置。十分に敵を引き付けて引火させる。次に1列目から50メートルの位置に2列目の地雷原を設置。地雷はレウの特製爆弾を使う。これも敵を引き付けてから起爆させる。そして、そこから50メートルの場所が最後の防衛ラインとなる。鉄の壁と巨大ネットで敵の侵攻を阻む。高さは高いほうがいいが、今から間に合うのは2メートルまでだろう。以上3つの防衛ラインを早急に作り上げなければならない。陣地設営の指揮はダスティンに取ってもらう」


 「はっ!」


 いつものラウラの口調ではなく、顔でもなかった。まさに軍人。軍人指令官ラウラがそこにいた。


 それにしても3列の防衛線という壮大な仕掛けが間に合うのだろうか。2列目は設置するだけなので問題はないと思うが、1列目と3列目の準備はどう考えても重労働だし、準備には時間がかかる。


 「うっ、うん。その3つの防衛線って間に合うのでしょうか?」


 皆、黙って聞いていたなかで、レイラが俺が疑問に思ったことを声にした。


 「いい質問だ。しかし、間に合うのかではない。間に合わせるのだ。ダスティン! どうだ!」


 「おうよ。ブルリバーの兵士や傭兵はもちろん、男どもは総動員して夜通し作業にあたる。任せろ!」


 「うむ。頼んだぞ」


 高校生である俺は、場違いな場所にいることを痛感させられた。これが大人の世界なのか! と思ったほどであったし、キャサリン、レイラ、幸介もその雰囲気を感じとったのか、ガチガチになっているようであった。


 蛍だけは必死に会議に参加しようとしているようだったが、やはり顔から血の気は失せていた。いつもの蛍なら絶対に違う表情になっているはずだが、さすがに敵のことを考えると怯える自分と向き合うことになる今回は、違う蛍であった。


 「よしっ。では次に行くぞ。防衛ラインは3つだが、守っているだけでは今回の敵には勝てない。そこで、少数精鋭による敵本陣を急襲する部隊を編制した」


 敵本陣急襲? そんなことが可能なのか? 敵は1200億だぞ。それに誰がその部隊を率いるんだ? まさか俺たちが……。いや、もう編制し終わっているのか。


 「急襲部隊の隊長は、今はここにはいないがゴドルフにやってもらう。グンターとダスティンがその指揮下に入り、およそ100名の選ばれた戦士たちが壁の外から大きく回り込んで敵本陣に斬り込む」


 ゴドルフ!? それとグンター!? あいつらもこの戦いに人類側で参加するのか。このためにゴドルフたちの所に行ったのか。玄関口で聞けなかった疑問はここで解けた。


 まあ、ラウラのティム能力を目の当りにしていた俺からすれば、あいつらはラウラに頼まれれば喜んで参加しそうだが……。


 生きて帰れる確率の低い急襲部隊の隊長に意外な名前が出て、驚いた俺たちティーンエイジャーは皆、顔を見合わせた。蛍も同様に驚いた様子で、机に身を乗り出していた。それでも誰も何も口にはできなかった。


 やはり知覧姉妹は戦い慣れているというか、こと戦闘にかけては超一流だ。ゲック・トリノ城を攻めた鮮やかさも納得がいく凄さだ。


 強さという意味で輝きを増しているラウラと暇そうにツインテールを前にもってきて盛んに撫でているレウを見比べると、それが感動なのか畏怖なのかは分からないが心の底からジンジンくるものが溢れだしそうだった。


 レウの武器や防具の作製能力。それとおそらく作戦立案能力。そして作戦を実行する指導力とカリスマ性を持つ姉ラウラ。俺たちのゲック・トリノ城攻めの作戦会議とは、まるで別次元であった。


 こうして、ラウラの指揮ぶりに圧倒された俺たちは、ただただ成り行きに身を任せるしかできない形で、人類の行く末を決める重要な作戦会議に参加だけしていたのであった。


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