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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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79 凄腕のテイマー?

 「ほたら、最後にキャチャリンちゃんに『おはじき』をあげてお開きやな。ほいっ。これや。キャチャリンちゃんの希望通りに作ったからな」


 満足そうなレウの言葉とともに7英雄の最後の武器として皆に披露されたのは、3本の飛苦無(とびくない)であった。


 長さは20センチ程度で、後部の輪状のところには特製の縄がついていて、刃の中央には、それこそ『おはじき』のような極星珠(ポラリスパール)の輝きがあった。


 刃部分以外は皆の武器と同じように漆黒で統一されている。縄の長さは2~3メートルといったところか。


 投擲武器に回収できる特性を持たせて、繰り返し使えるようにしたもののようだ。投げては手元に引き寄せ、また投げる。たしかにこれができれば投げっぱなしの棒手裏剣よりは、効果的な攻撃パターンが作れるだろう。


 しかも3本もあるので、上手く使いこなせば、例えば術が火なら火炎弾のように使えるかもしれない。


 「これ、飛苦無じゃないですか。本物は初めて見ましたわ」


 キャサリンが目の前に出された3本の飛苦無を見て、喜びの声を上げた。


 「あーー、そうとも言うんか。でもそれは、『おはじき』やから『飛苦無(マーブル)』な」


 レウは意地でも『おはじき』という名を変えようせず、またの名も『おはじき』の英訳にしていた。


 まあ、武器名を『おはじき』と呼んだって、性能が変わるわけでもないしな。


 「キャサリンちゃん。それはね、ペルセポネの飛苦無(ペルセポネダーツ)って名称よ。レウはちゃんと考えたんだけどねー。うふふふふ。ちなみに、ペルセポネは春をもたらす農耕の女神様ね」


 「レウたん。ありがとうね。お姉さんは嬉しいですわ。後で一緒におはじきしましょうねー」


 ラウラがフォローを入れると、キャサリンは嬉しそうにレウの横に行って顔を覗き込み、頭をなでなでするフリをする。


 「うぅぅぅっ…………」


 「「「「アハハハハハ」」」」


 ほっぺたを膨らませてむくれるレウ。皆の笑い声が響く。


 あれっ。そういえばペルセポネって冥界の王ハデスの妻で女王だったよな。まあ、キャサリンは楽しそうだし……。言うのはやめておこう。


 こうして俺たちの武器はすべて手渡され、明日からこの新しい武器を使いこなす特訓を始めることを確認し合い、その日はお開きとなったのであった。



    ◆◇◆◇◆◇



 翌日。朝練は新しい武器を使わずに軽く流しただけで終わった。


 そして朝食時。


 「午後からは、新しい武器の特訓を壁の外でやるからな」


 レウが思い出したように、皆に訓練場所の変更を伝えた。そして、驚くべきことをレウの口から聞くことになる。


 「あー、それとな。先にゆうといた方がいいやろな。ブルーリバーから外に出て、少し行ったところにな、ゴドルフとグンターがいてる」


 「えっ!!」


 驚きの声を上げたのは俺だけではなく、蛍は眉間に皺を寄せ、レイラとキャサリンも目を見開き、幸介は拳を握っていた。


 「まあ、まあ。落ち着こうな。いてるゆうてもな、そうやな……、ほ、捕虜、捕虜やな」


 珍しく言葉を探しながら喋るレウ。


 「捕虜!? なんでだよ!」


 声を荒らげて幸介が詰め寄ると、レウはやれやれと肩を竦め、『あとは任せた』という視線をラウラに送る。


 「そうねぇ。隠さずに全部、話さないとね。えっとね、あなたたちをあんなにしたあいつらを憎んだのはあたしたちも同じだったから、それはそれはひどい目に合わせたわ。とても口にできないくらいにね。それでね、そのまま調教して……、今はあたしの従順なペットなのよ」


 「だからって……、あいつらは……」


 「うん。それは分かるわよ。でもね、もう絶対に裏切ったり、あたしたちに危害を加えるようなことはないから。大丈夫。それは保証するわ」


 抵抗する幸介を宥めるラウラ。彼女に保証するとまで言われると、ゴドルフたちへの怒りが少し軽くなるというか、それでいいのかという思いもあり、頭の中が混乱した。


 蛍が横で大きく深呼吸をする。


 「ふーーー。分かりました。ラウラさんがそこまで言うなら信じます。でも、一緒に何かするとかなんですか?」


 「いやいや。そんなことはせんよ。あいつらがいてる近くで訓練をするだけや。ただ、あんたらも見るやろうから……。そんで、いきなり攻撃されてもな」


 確かに話を聞かずに壁の外に出て、ゴドルフやグンターに会ったら、俺たちは冷静ではいられないだろう。そうさせないために、今、話をしたということか。


 「納得はできないけど、レウさんたちがそういうなら従います。ほたるがレイラのために、あいつらを生かしたことも分かっているし」


 「俺も納得できないけど、レウさんたちに助けられたんだしな。分かったよ。見ても手は出さねーよ」


 俺と幸介が順に納得するとラウラは、『ありがとう。本当に大丈夫だから。あいつらには何もさせないから』と言い、レイラとキャサリンの答えを待った。


 「蛍たちがそう言うのなら……、分かりましたわ」


 キャサリンも納得はしていない様子だが、皆に合わせる形で応える。


 「あたしは……、あたしは……」


 レイラは絞り出そうとする声が出てこなかった。


 当然、俺たちとレイラではあいつらに対する恨みの度合いは大きく違う。詳しくは聞いていないが、捕えられてひどい目にあったことは容易に想像できる。


 しかも、人質を捕られて、死の恐怖を与えられ、同じ英雄を狙えと言われたんだ。許せるわけがないだろう。


 「レイちんは、無理せんでええ。みんなも分かっとるからな。ただな、あんたにはほんまに悪いんやけど、手は出さんでくれ。それだけでええから」


 レウが助け舟を出し、蛍が寄り添って肩を抱かれるレイラ。少し涙ぐみながらもコクリと頷いた。



    ◆◇◆◇◆◇



 その日の午後。俺たちは轡を並べ、壁の外に出て北へ向かった。レウと蛍が壁の外を移動するという本来なら大事なのだが、護衛はそれほど多くなく、少数精鋭の兵100が同行した。


 道中、レウから聞いたのだが、ゲック・トリノ城は跡形もなく吹っ飛んでいるそうだ。


 どんな仕掛けを使ったのかは面倒くさがって、教えてくれなかったが、ゲック・トリノ城の周辺には、竜王国も獣帝国(ビーストエンパイア)もいないという。


 つまり、壁外西側の北、旧ゴブリン領とされていた領域は空白地帯になっているため、警戒する必要は少ないというのが、少数精鋭になった理由だそうだ。


 俺たちは海沿いの道を前後を兵士たちに挟まれる形でのんびりと進んでいく。潮風は頬に優しく、照りつける日差しも気にならないほどの、すがすがしい気分を運んでくる。


 1時間くらい経っただろうか。かなり広い草原に着くと、右手の少し離れた場所に、家が立てられていた。


 ここで、俺たちは馬を降り、ラウラだけが俺たちから離れて家の方に向かうと、大小ふたつの影が飛び出して来た。


 その姿はご主人様の戻りをダッシュで出迎える使用人たちのようだった。


 「達也、あれがゴドルフたちなの? ずいぶん腰が低くなっているように見えるけど……」


 「手懐けてるな」


 兵に馬を渡しながら、蛍の問いに一言だけ答えた。


 ゲック・トリノ城で聞いたゴドルフの悲鳴と『魂を滅ぼす』と言っていたレウの声が頭の中で再生される。


 ふたりが傅き馬上のラウラを見上げて命令を待っている姿を見て、俺は『ラウラさんは凄腕のテイマーなんだな』と思っていた。


 幸介、キャサリン、レイラもラウラとゴドルフたちの動きを注視しているが、皆一様に驚きというより、不思議なものを見ているような顔をしていた。


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