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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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76 レウカラッカとビーナスウィップ

 レウとラウラがブルーリバーに戻ってから数日が過ぎ、ようやく街中のお祭り騒ぎが収まってきたころ。


 いつものように7英雄で夕食を取っていたときに、レウが例の武器の話をはじめた。


 「ようやくな。あんたらの武器も揃いそうや。ほんでうちらは、またちょっとコッテに行くからな」


 「今回はすぐ戻るからね。うふふふ」


 前回のゲック・トリノ城のことがあったからか、ラウラは『勝手なことはするな』とは言わなかったが、すぐに戻ることを強調して微笑む。


 ラウラの怖さを聞き、血塗れの姿を見てからは、笑顔が語る意味がなんとなく分かるようになっていた。この微笑はそういうことなのだなと、俺は深く頷く。


 「そんでな。あんたらにも先に教えておくわ。ほら、これがうちの『アテナの智杖』。またの名を『レウカラッカ』な。凄いやろー。なっ! なっ!」


 レウは、自分の背丈(142cm)よりも少し長い杖を専用のケースから取り出す。そして、柄の部分や先が尖った楕円形の中央に光り輝く水晶玉のようなものをさかんに擦る。


 素材はすべて鉄のように見えるが、黒漆(くろうるし)が塗られているのか、水晶玉以外は黒で統一された、まさに漆黒の武器であった。


 『どこをどう突っ込んでいいのか分からない』


 アテナの智杖がレウカラッカ? アテナはギリシャ神話の神か? それがなぜレウに変わるのかは……、まあ、想像がつく。アテナは知恵の女神で、自分はその上を行くからとかが理由だろう。


 それと智杖って、錫杖のことか。カラッカは錫杖の梵語読みだもんな。でも、シャラーンの輪はつけてないようだし、これは杖に『智』がついていたからそうしたといったとろこか。


 「アテナは知恵の女神さまやし、うちにはこれしかないって感じやろ。なぁー、ビビリーナ」


 「いや、レウになっていますけど……。ですよねー」


 「そうや。うちは神話レベルの知力やないからな」


 「意味がワカリマセン」


 「アテナごときが、うちと肩を並べるのはおかしいって、ゆうてるんや」


 やっぱりそうだった。ならアテナを選ばなければいいじゃんとも思ったが、レウらしいと言えばらしいというか、これがレウなのだ。


 それでも、レウが俺たちに何を教えたいのかは、さっぱり分からなかった。ただの武器自慢なのか?


 「なんやビビリーナは、この凄さが分からんのか? 見てみい。このフォルム。この輝き。この色艶。そして名称。どこを取っても、もうこれはレジェンド級の武器やろ」


 やはり、自慢してるな。そして、相変わらず、分かるように説明しない『レウ回答』に少し呆れながらも、蛍の方へ助けを求める視線を送る。


 俺の視線に気が付いた蛍は、両手で黒髪を後ろに流す。


 「外見も素敵ですけど、それじゃ満足しませんよね? もっと秘密が隠されているんでしょ? 特にその水晶玉のような部分の輝き……」


 「そや! みなまで言わんでいいわ。さすがやな。何でもお見通しってことか?」


 蛍が、レウが俺たちに伝えたい内容を聞き出そうとするが、質問を途中で遮り、レウは大げさに驚きのアクションを見せる。


 「いえ。隠されている秘密までは分かりませんけど、レウさんがそんな外見だけで満足するような天才だとは思っていませんので」


 「くぅーーー。しびれるところついてくるなー。あんたにそない言われたら、ちょっと恥ずかしいわ」


 レウは身を縮めるように身震いして、少し頬を赤らめる。蛍の誘導尋問というか、レウの扱い方がまたワンランク上がっていた。


 「レウさん。武器の秘密を教えてください。皆も聞きたいと思いますし」


 「おお。そうだな」


 「ええ。そうですわね」


 「うん」


 俺が皆に振ると、幸介、キャサリン、レイラが相槌を打つ。皆から頼まれたような形になったレウはうんうんと頷きながら、ようやく今日伝えたかった本題に入った。


 「あんな、これや、これ。さっきほたちゃんが水晶玉ゆうてたのはな極星鉱(ポラリスオア)からうちが作った極星珠(ポラリスパール)や。そんでここにはうちや姉さんの力を溜めておけるんや」


 「えっ!」


 エネルギーを溜めておけるって……、いつでも使えるのか? 驚いた俺の声がレウの説明を遮ってしまい嫌な顔をされる。


 「まあ、最後まで聞こうな。あんたらの武器にもこの極星珠(ポラリスパール)を使ってあってな。そやな、例えばビビリーナの剣やったら、使いようによってはファイヤーソードになるようにしてあるんや。エネルギーが切れたらあかんけどな」


 「なっ! な、なんですか、そのゲーム的武器は? 魔法剣、魔法剣ってことですか!? しかも魔力のない俺たちまで使える武器って……。凄い、凄すぎますよ!」


 「マジでか! かっこいいじゃねーか!」


 「ああ。まあ、魔法やないけどな。あんたらの感覚やと魔法なんやろうな」


 幸介とふたりで興奮気味に騒ぐが、キャサリンやレイラはよく飲み込めていないのか、『ふーん』とでもいいたげな表情をしていた。


 レウは魔法でないと言うがそれは呼び方の問題だけだ。剣を振って、炎が飛び出したりすれば、それはもう魔法剣としか言いようがない。


 それにしてもレウが言う術のエネルギーを一時的にせよ武器に溜めておいて、使い手の裁量で使用できるのか。そんな武器を作れるなんて……、やはりレウは天才だ。


 「なんか、男の子たちが目をキラキラさせてるのって、ええな」


 「うふふふふ。そうね。じゃあ、そんな男の子たちにご褒美。あたしの武器も見せてあげるわ」


 そう言って取り出したラウラの武器は、多節鞭のような武器であった。七つの棒のようなものをリングで繋いでまとめ、手元の柄の部分だけは太くて長い。そして先端の棒だけは先が尖っていた。


 一般的な多節鞭の繋ぎ目は鉄のリングだが、ラウラの武器の繋ぎ目の素材は革のように見えた。


 そして、こちらもレウの杖とお揃いの黒漆塗りで、先端の2本目から4本目までの中央にはビー玉のような極星珠(ポラリスパール)が輝いている。


 「どう? これがお姉さんの武器。『アフロディーテの七節鞭』。またの名を『ビーナスウィップ』よ。お姉さんにぴったりの名称よね?」


 ラウラに同意を求めるような視線を送られる。


 「は、はい。それはもう、俺たちにとっては、美の女神ですから」


 「うふふふふふ」


 確かにギリシア神話の女神から選ぶならラウラはアフロディーテが一番しっくりくる。年上美人で抜群のプロポーションを持つお姉さんは『美の女神』と言っていいだろう。怒ると怖いのは内緒だし、アフロディーテはトロイア戦争の原因となったヘラとアテナと『黄金の林檎』を取り合った逸話も黙っておこう。レウはそれさえも分かっているのか、読み方は英語読みのビーナスを採用しているしな。


 「これも炎とか出るんですか?」


 「お姉さん、気分がいいからちょっと見せてあげるわね」


 そういうとラウラは立ち上がり、誰もいない方に向かって鞭を振るった。


 「えっ!!」


 3か所の極星珠(ポラリスパール)からライターの炎のような火が吹き出し、鞭はレウの杖と同じような長さの1本の槍に変わっていた。


 「どや。うちの天才ぶりがよう分かるやろ。姉さんのは特注品の中の特注品や。鞭としても槍として使えて、杖としての機能もある。今のは姉さんが手加減したから小っこい火やったけどな」


 「レウのよりは小さいけど、極星珠(ポラリスパール)を3つ使ってあるでしょ。全開させると、なんだっけ、名前は忘れたけど、ゴブリンの砦も一瞬で焼けちゃうぐらいの火力はあるわね。うふふふふ」


 シュタイン砦を黒焦げにしたラウラの武器。それがこれなのか。しかも鞭としても槍としても使える。これをラウラさんが使いこなす姿は、想像できないが……。


 「シュタイン砦です。それにしても凄い武器ね。手元で切り替えられるみたいだけど。それに極星珠(ポラリスパール)を組み合わせるなんて……。想像以上だわ」


 「ああ。そうだな。使いこなせるラウラさんも凄いな」


 ラウラの演技に少なからず驚き、蛍、幸介は声を上げ、レイラとキャサリンは目を丸くして言葉を失っていた。


 「レウさん。本当に天才なんですね」


 「そうやって。何度も言わせるなよ」


 「いや。普通の天才との違いが一桁とか二桁とかのレベルではないですね。十桁とか百桁とか違います」


 「うんうん。まあ、あんたらの武器もそれぞれの特徴を持ったすっごいの作ったからな。期待しててええで。あーーー、キャチャリンちゃんだけは、おはじきやけどな」


 絶賛する俺の言葉にレウは少し顔を赤らめながらも満足そうに大きく頷き、思い出したようにキャサリンへお約束の言葉を振る。


 「レウたんは、おはじきを飛ばしてバーンってさせて、『わーきれい!』ってのが、やりたいんですね。分かりましたわ。お姉さんがお水の準備をしておきますから、心配いりませんわよ」


 「ながーーー。ボケが長いわ!!」


 なかなか終わらないキャサリンの説明のようなボケに、レウが突っ込みを入れようとしては止めを繰り返し、皆が爆笑する。


 そして、今日も皆の笑い声を最後に、7英雄たちの一夜は更けていくのであった。

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