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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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75 歓喜に沸くブルーリバー

 ゲック・トリノ城からの帰路、リーンハルト村で1泊、野営で1泊した俺たちは、ようやくブルーリバー近郊まで戻ってきていた。


 道中では、すれ違う人類の兵士たちはいてもゴブリンたちと出会うようなことはなかった。帰路なのに、これからみんなで楽しい旅に行くように、大地を感じ、陽光を浴び、潮風を肌で感じるのんびりとした気持ちの良い移動であった。


 馬を進めると目の前が開けて、聳え立つ壁と壁上の天を突き刺すようなドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレイヤー)が見えてくる。陽光も潮風も大地さえも遮る冷たい壁と天に向けられた刃。


 一瞬で現実に戻された気分で、俺はひとつため息を吐いた。


 それから俺たちは、馬から降りてフレイムと最後の挨拶を交わす。


 「ここでお別れじゃな。世話になったな」


 「いえ。あたしこそ。力を貸してもらってありがとう」


 フレイムが蛍と抱き合い耳を『はむはむ』しはじめる。蛍は、目を閉じて強く口を結び、我慢してフレイムの背中を叩いている。


 「おんしにも世話になったな」


 「いえ。フレイムさん。またどこかで」


 フレイムはそのまま蛍と同じように抱き付いてきて、俺の耳を『はむはむ』する。円周率でも唱えればいいんだっけ? 蛍が我慢してたからな、俺も……。と、違うことを考えながらフレイムの背中をポンポンと叩いた。


 それからフレイムは幸介、キャサリン、レイラの前に行き、笑顔で手を差し出す。皆もそれに応え一言二言別れの挨拶とともに握手を交わしていた。


 あれ、『はむはむ』は? と蛍の方を見たが、蛍はうんうんと笑顔で頷きながらフレイムと幸介たちの様子を眺めていた。


 こうしてフレイムは数名の道案内の兵士とともにキャット・タウンへと向かい、俺たちはブルーリバーの外門へと向かった。



     ◆◇◆◇◆◇



 俺たちがブルーリバーの外門を潜り抜けると……。


 大歓声が待っていた。


 両側に兵士がずらりと並び、外門から内門へ続く通路を作っていた。そして、兵士たちの後ろには口々に俺たち5人の名前を叫ぶ群衆がいた。


 前にアノマロカリス攻めのときも歓声で迎えられたが、今回はその比ではなかった。通路の左右1キロは人で埋まっているのではないか? と思えるほどの人の多さであった。


 「うわっ。なんだこれ?」


 「凄いな。どこにこんなに人がいたんだ?」


 俺と幸介が驚いて辺りを見回すなかで、蛍たち女性陣にはアイドルライブのコールのような歓声があちこちで湧き上がり、皆一様に恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 「ほたる、ほたる。なんか恥ずかしいですわ。キャサリン様ぁ~とか言われてますわよ」


 「ほ、ほんと……。あたし顔が赤くなっちゃう」


 「あたしの名まで。なんで……、恥ずかしい」


 自分の名前が大声で叫ばれる方を見たり、両頬を抑えたり、下を向いたりとそれぞれの仕草で忙しく恥じらう3人の乙女。


 幸介と俺に向けられた黄色い声援もあるにはあったが、蛍たちへのコールの数と大きさとは比べ物にならなかった。


 確かに、今回の勝利はレイラの名前までもが知れ渡るほど人類にとっては歴史的な快挙であった。何しろ中央世界(セントラルワールド)では、過去に一度も味わえなかったことだ。


 人類が、初めて敵勢力の拠点を落として凱旋したのである。


 左右から湧き上がる地響きにも似た歓声を浴びながら、ゆっくりと馬を進め、ようやく内門にたどり着き、街に入る。


 街中も道を守る兵士、一目英雄たちを観ようと屋根の上に登ったり、窓に鈴なりになる人々。パレードにも似た仰々しい雰囲気の中、俺たちはようやくオールコック邸に着き、一息ついたのであった。


 「凄かったね。顔、赤くない?」


 「だな。うーん。大丈夫だな」


 オールコック邸の玄関前で声を掛けてきた蛍に、まだ、ほんのりと頬に赤味が残っていたが、嘘を吐いた。あの死んだように青ざめて寝ていた蛍よりも今の蛍のほうがずっと落ち着くからさ、と心のなかで付け足して。


 「そう。ふぅーーー」


 蛍は大きく息を吐き出し、頬をポンポンと叩いていた。


 オールコック邸では、エドワードが外出していたので、執事とメイドが俺たちを出迎えてくれた。そして、その日はゆっくりと風呂に入り、長旅の汗を流して十分な睡眠を取って体を休めたのだった。



     ◆◇◆◇◆◇



 翌日、俺たちはいつものように訓練をはじめる。今日からは正式にレイラも加わり、小手調べとでも言うようないつものゲームが始まる。


 「おっと。お前らきたねぇーぞ!」


 スタート直後に顔を見合わせた4人の攻撃を受けて、幸介が必死の防御に回る。


 「幸介さんに天誅でござる!」


 キャサリンが飛び上がりその背後にレイラを隠して、フェイントを掛けての二段攻撃。ふたりの跳び蹴りをなんとか交わした幸介に、蛍と俺の回し蹴りが左右から襲いかかる。それでも右腕で俺の蹴りを流し、左腕で蛍の蹴りを受け止める幸介。


 「くっ。これでもダメか」


 「よそ見してる暇はないよ」


 今度は、幸介攻めをあきらめたキャサリンが、俺に向かって手刀を打ってくる。蛍の声で気が付いた俺は、キャサリンの手刀を交わしてそのまま手を掴んで投げ飛ばす。


 キャサリンは『そんなのお見通し』とばかり、足から着地して、その反動を使って、今度はレイラに襲いかかる。レイラはしっかりとその動きを読んで交わしてみせる。


 俺もすぐさま蛍へ蹴りを入れ、幸介もレイラに正拳付きをお見舞いする。


 回りで見物している群衆からは、技が決まりそうな時やそれを交わしたときなどに『うぉぉぉぉぉぉ』などと言う歓声や拍手が送られてくる。


 結局、朝の戦いはキャサリンとレイラの合体技を蛍が交わしきれずに終了した。


 「今朝の太陽は眩しいよね!」


 「うんうん。やたらと眩しかったなーーー。プフッ」


 「そうですわね。もう立っていられないくらいですわね。プフフフッ」


 蛍が負け惜しみを言ったのを皆でからかいながら、俺たちは本格的な訓練に入っていった。


 ちなみに、キャサリンの武家言葉については、ゲック・トリノ城にいたときに俺が幸介に話をしていた。


 効果について説明すると、幸介は『気合みたいなもんか。しゃーないな』と言い、訓練や戦いの時に使うことは解禁されていた。


 キャサリンにそれを話した時には、『ほう。ようやく達也も忍の道が分かってきたでござるな』と訳の分からないことを、偉そうに言われてしまった。しかも満面の笑顔で。



     ◆◇◆◇◆◇



 俺たちが訓練をはじめた日の午後に、夕方にレウたちが帰還するという報せがブルーリバーに届く。俺たちは、さすがにあの人だかりでは訓練は無理と判断して、オールコック邸でゆっくりすることにした。


 街は、昨日と同じように、あちこちで歓声が上がり、多くの兵士が警備に当たっていた。


 幸介と一緒にオールコック邸の部屋の窓から外を眺める。


 「また、これは、凄いな。あの人たちは嫌がるだろうな。特にレウさんはな。ガハハハハハ」


 「アハハハ。顔が浮かぶよ。でも、これで初めてここで7人が揃う」


 「おう。そういえばそうだったな。レイラはレウさんたちが出かけたのと入れ替わりだったな」


 暮れゆく空に、今日もまた星が煌めくように、今や人類の最大拠点と言ってもいいブルーリバーにようやく七星が揃う。


 俺はこの先に何が待っていても、七星で、いや七星なら越えていけると思い、夕闇に染まりつつある街をしばらく眺めていた。




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