74 解体されたゴブリン軍
シュタイン砦のあった場所で休憩して、跡地の調査をしていたレウとラウラの下へひとりの兵士がやって来て報告する。
「北方で大爆発が起こっています」
「ほうか」
「レウ様、ラウラ様。どうぞこちらへ」
兵士の報告を聞いたふたりは、兵士に案内されるままに丘の上に移動して北の空に視線を送る。
「どれどれ」
北の空に巨大な黒煙がもうもうと膨れ上がり、しばらくしたあと白い煙が立ち上るのを確認したレウは、両手でツインテールをぶんぶんと振り回す。
「あーー、あれは全部いてもうたな」
「おバカさんがいたみたいね。うふふふふ」
「そうみたいやな」
一言ラウラに答えたレウは、そのあと何事もなかったかのようにすぐに興味を失い、丘の上から移動してまた跡地の調査に戻った。そんな妹の様子を見守りながら『さすがはレウたんね』と思うラウラであった。
◆◇◆◇◆◇
「ナーガ将軍、討ち死に!」
ドラゴン・バレス城。ワイバーン、ヒドラ、エキドナの3将軍が揃っていた会議室に竜人兵の声が響き渡る。
「なんだと!! それはどういう状況だ?」
報告を聞いたヒドラ将軍は、声を荒らげて兵士に詰め寄る。
「はっ。我軍は獣帝国のルードル軍との戦いに勝利し、ゲック・トリノ城に旗を立てたのですが、その直後に城が大爆発。城があった場所は跡形もなく吹っ飛び、海水が流れ込みました。ナーガ将軍は、爆発に巻き込まれ、ともに多数の兵が犠牲になりました」
「なんてことだ…………。第七世界のやつらか……」
「でしょうな。あれほど注意したのに……。愚か者めが! 罠に嵌ったのでしょう。これでは、勝者のいない戦いですな」
ヒドラ将軍の呻きにも似た呟きに、腕を組んで兵士の報告を聞いていたエキドナ将軍が答える。
同じように腕を組んで静かに目を閉じて報告を聞いていたワイバーン将軍は、目をカッと見開き、大声でエキドナ将軍に命令を下した。
「エキドナよ。第七世界攻めを急げ!」
「はっ!」
「やつら、やつらだけは……」
ワイバーン将軍は、配下の兵に指示を出すエキドナ将軍の声を聞きながらも、前に会った第七世界のやつらの顔をしっかりと思い出していた。
◆◇◆◇◆◇
一方、ここゴッドハルト砦には、味方の敗戦を聞きつけてベック・ハウンド城から駆けつけてきた第六軍の3将軍とここまで出張ってきていた第五軍のストロン将軍(シロクマの獣人)が兵士の報告を聞いていた。
「ゲック・トリノ城、大爆発。跡形もありません。地面ごとえぐり取られ、そこに大量の海水が流れ込みました。敵兵は散り散りになって北へ逃げ帰った模様です」
「なんだ、それは!?」
蜘蛛の怪人キング・ブラウン将軍が驚きの声を上げて、蜂の怪人クィーン・イエロー将軍と百足の怪人ジャック・ブラック将軍の顔を見るが、ふたりとも肩を竦めて応える。
「我らの出番はなさそうですな」
キング・ブラウン将軍がストロン将軍につまらなそうにお伺いを立てると、ストロン将軍も残念そうに肩を竦める。
「そうだな。ご苦労であった」
「はっ。では我らは城に戻ります」
「ふむ」
3人の怪人はストロン将軍に敬礼し、ゴットハルト砦を後にして、ベック・ハウンド城へと戻っていく。
「急ぎ、ビースト・エレファント城の皇帝陛下へ使いを出せ!」
「はっ」
ゲック・トリノ城が消滅したという事態に対して、このあとの対処方法が分からなくなったストロン将軍は皇帝陛下へお伺いを立てる使者を出したのであった。
◆◇◆◇◆◇
こうして、竜王国軍と獣帝国軍のゲック・トリノ城争奪戦は、竜王国軍が獣帝国のルードル将軍指揮下の第八軍を蹴散らして、初戦に勝ったまま奪うべき城の崩壊という意外な結末で幕を閉じた。
ルードル将軍が負傷し1000の死傷者を出した獣帝国と、爆発に巻き込まれたナーガ将軍をはじめ2000の死傷者を出した竜王国軍。ともに損害を出し、両軍ともにゲック・トリノ城からは兵を引いた。
一方、人類は1兵も損なうことなく、敵が愚かであったためという注釈付きだが、勝者に大きなダメージを与え、南へと去った。
そして、ゴブリン軍は北のグンター砦は竜王国軍に明け渡し、東のゴットハルト砦は獣帝国軍が駐留する形となった。つまり、2国に領地を分割統治されてバラバラに解体された形だ。
また、シュタイン砦やゲック・トリノ城の周辺は拠点のない荒野、つまりは空白地帯として、放置されることになった。
ゴブリン軍の兵士や住民たちは、逃げ出して野に下る者もいれば、両国の下級兵士として使える者などさまざまな道を選び、統制する王のいないゴブリン軍は哀れな末路を辿った。
ただ、中央世界のゴブリン軍が消滅しても、ゴドルフが存命であったため第三世界が崩壊することはなかった。
そのゴドルフとグンターであるが、実はレウとラウラが一緒にブルーリバーへ連れて行くことにして、今も彼女たちと一緒にいた。
「ラウラ様。いかがいたしました?」
「ゴドちゃん。それ持ってきて」
「はい。ラウラ様、すぐにお持ちします」
「グンちゃんはあっち。術を使うのよ」
「はい。ラウラ様」
「いい子ね。うふふふ」
ラウラの従順なペットとして。
ゲック・トリノ城が爆発したと聞いても顔色ひとつ変えず、自分には関係のないことのようにラウラを見つめ、次の命令を待つゴドルフとグンター。
過去のふたりを知っている者が見たら、間違いなく別人であると言い張りたくなるほど、昔の面影は消えていた。
ちなみにゴドルフもグンターもラウラの術によって、蛍の光の矢によって負傷した傷などもすっかり、しっかり、すっきりと癒されていた。
◆◇◆◇◆◇
一方、一足先にブルーリバーに到着したダスティンたちの一行は、休憩を挟み部隊をふたつに分けることになった。
一隊は馬車10数台の大部隊で、数百名の兵士とブルーリバーで集められた中級や初級冒険者たちが護衛し、当初の予定通りコッテに向かう。
もう一隊は、選りすぐりの10数名の冒険者と、屈強な兵士たちに守れらた馬車一台で、行先はコッテでなくアンカー・フォートであった。
アンカー・フォート行きの部隊には、エドワードが加わっていた。
ダスティンがエドワードを見つけて近寄ると、真剣な表情で兵士と話をしていたエドワードが気が付き、ダスティンに声を掛ける。
「ダスティン。ご苦労だが、もう一働き頼む」
「ああ。それは構わないが、アンカー・フォートに何の用が?」
「知らないほうがいい……」
エドワードはそれだけ言うと、ポンとダスティンの肩を叩いて兵士たちの方へ去ってしまった。
それからしばらくすると、ふたつの部隊は、それぞれの行先へ向けて出発した。
ダスティンと一緒にいるのはいつも上級者パーティを組む冒険者仲間でアニーの姿はない。アンカー・フォートへ向かうのは、上級者のみという条件を出されたためだ。
『またかよ……』
『アニー。壁の中だぜ。すぐに戻るさ』
愚図るアニーとのやり取りを思い出していたダスティンであったが、前を走る屈強な兵たちに守れらた馬車をしげしげと眺めた。
『知らないほうが……、…………まさか……地下牢』
そこまで考えたダスティンは、背中に嫌な予感が走り、ごくりと唾を飲み込んだ。
それでも何事もなく、一行がアンカー・フォートに着くと、馬車とエドワードたちは門を潜って行ったが、冒険者たちは門の前で通常の3倍の報酬が渡され、街に入ることなく解散となった。
仲間の皆は、楽な仕事で報酬の多さに驚きつつも、口々にブルーリバーで酒盛りだなどと騒ぎながらゆっくりと来た道を引き返す。
『きな臭くなってきたな』
ダスティンはそんな仲間たちに作り笑いを送りつつも、ひとり、馬上でぽつりと呟いた。




