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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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73 レウの罠

 ゲック・トリノ城からの帰りの行程は、それほど急ぐものでもなかったが、俺たちは2泊3日で戻ることにした。1泊目はまだ人類が占領しているリーンハルト村で、2泊目はブルーリバーと第一拠点までの中間辺りで野営する旅程だ。


 少し汗ばむ日差しのなか、風を切って馬を走らせる。周囲は、草原であったり、森林であったり、右手に見え隠れする青い海。


 来たときとはまったく違う優しい潮風が、俺たちを包み込んでくれていた。


 しばらく馬を走らせ、シュタイン砦でいったん休憩を取る。シュタイン砦といっても、すでに跡形もなく焼け落ちていて、跡地といったほうがいい場所になっている。


 一目見たとき。ただ、ただ、その凄まじさにしばし唖然とした。


 「それにしても派手にやったなー」


 「ラウラさんがやったみたいですわよ」


 「そうなのか。凄いな」


 幸介が更地になってしまったシュタイン砦を前にキャサリンと話すのを聞き、俺はレウが言っていた『うちが本気を出したら、あんなもんじゃ済まんけどな』という言葉を思い出していた。


 これ以上って。それはもう地表を削り取るというかクレーターを作るレベルになるよな……。


 そう思うほどシュタイン砦は、建物の影も形もなく、小山の上に焼け焦げた跡が残っているだけであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 休憩を終えて、リーンハルト村へ向かう道中。もうすぐ到着するというところで、俺たちはスピードを落とす。


 蛍と轡を並べ、俺は7英雄会議のときに疑問に思っていたことを問い掛けてみる。


 「なあ、ほたる。ラウラさんが説明した第七のターニングポイントって覚えているか?」


 「うん? 何かあったの?」


 「いや。たいしたことではないんだがな。第七のターニングポイントをラウラさんは25万年前と言ってたけど、それは何だろうなって思ってな」


 25万年前に何があったのか。何故そこが第七世界(セージ)のターニングポイントなのか。俺はそれが分からなかった。蛍が答える。


 「ああ。それね。あたしも気になったから聞いてみたんだ。そしたら、現生人類と言われるホモ・サピエンスが生まれた時期だそうよ。そこで遺伝子爆発が起きたんじゃないかという仮説から25万年前としたんだって」


 「仮説ってことは、はっきり分かってないってことか」


 「ええ。そう言ってたわ。もっと後のトバ火山の大爆発後に起こった人類が絶滅寸前までいったボトルネック状態の時かもとも言っていたし」


 「トバ火山って、インドネシア、スマトラ島のか。確か7万年前とかだったよな」


 「そう。よく知ってるね。7万5000年前とか7万年前とか言ってたわ。でね、噴火の影響で地球規模の寒冷化が起こって、人類は10000人くらいまで減って、生き残った人たちが祖先なんだって」


 「やっぱり壮大すぎて頭が痛くなるな」


 「そうだよね。まあ、でもサピエンスって賢いとか、知的って意味だから25万年前かな~って、あたしは思っているけどね」


 「そうだな。レウさんたちを見ているとそっちのほうがしっくりくるな」


 「だよね」


 そう言って蛍は嬉しそうに笑った。


 第六世界(シクラメン)第七世界(セージ)の違いは何が原因で起こったのか? 仮説は立てられても結論にはたどり着けない。それは、人が分かるものでなく、神のみぞ知るということなのかもしれないな。


 「うーーーーん」


 蛍は両足を踏ん張り、指を組んで前に出して大きく伸びをした。



     ◆◇◆◇◆◇



 「なあ、あんた。もう残ってる兵はいてないな?」


 「はっ。全員退去しております」


 「ほうか。ほんなら、ちーと待っとってな。姉さんと一緒に最後の仕上げをしてくるからな」


 「はっ」


 ゲック・トリノ城の南側の玄関口で兵士と別れたレウとラウラは、王の間へと向かう。


 「ねぇ、レウ。こんなバレバレの仕掛けで引っかかるの?」


 「ああ。まあ、そうやな。少し頭の良い奴がいてたらあかんやろな。でも、これで敵もこの城を手に入れることはできんやろ。うちの目的はここに敵の拠点を作らせないことやからな」


 「なるほどね。さすがはレウたんねー。うふふふふ」


 ラウラの問いに答えながら、レウは表面が薄い円盤状の鉄のような物を、持っていた袋から取り出し、王が座る椅子に置き、円盤の上に小さな突起物を置いた。そして、その上から何重にも布を掛けて隠していく。


 「よしっ。こんで起爆装置はOKや。気が付かずに椅子に座ればドカンやな」


 「それってどれくらいの威力なの?」 


 「うーん。50個は仕掛けたからな。全部誘爆すれば、城は跡形もなく吹っ飛ぶで! 誘爆する距離、柱が崩れるための設置場所、うちの計算に間違いはないはずや」


 自信満々に言うレウに、ラウラは微笑ながらも、柱や壁に明けられた穴を眺めて首を傾げる。


 そこら中に空いた不思議な穴。レウは、この穴の奥に起爆装置用とは別の鉄の玉のような爆弾を仕掛けていた。


 敵が穴に気が付くのは間違いない。しかし、そのあとどう考えるかがポイントとなる。放置して起爆装置を起動させれば、一貫の終わり。


 穴に棒か尖ったものを突っ込んで中を突いてしまえば、起爆場所が変わるが同様に連鎖誘爆が発生して、同じ結果となる。そして、解除するには、穴の奥に入れた玉に衝撃を与えずに、仕掛けられた周囲を切り取るしかない。


 中央世界(セントラルワールド)の一般的な技術では、それは到底無理なことであった。だから、レウは城を拠点にはさせないと言ったわけだ。つまり、城を放棄して逃げるしか道はないのである。


 レウは、今回の戦いに、この鉄の玉のようなオリジナル爆弾を100個近く持ってきていた。ついでに起爆装置に使える円盤状などのようなものも、いくつか持ってきていた。爆弾といっても使っているのは火薬ではなく、中にはレウが注ぎ込んだエネルギーが詰まっている。


 外部から衝撃が与えられれば爆発し、半径30メートルは吹っ飛ぶ威力を誇る。それを27メートル間隔を置いて、城全体が吹き飛ぶように仕掛けていた。


 ただ、それは柱や壁に穴を空けて奥に埋め込んだだけで普通に丸見えなのであった。例えていうならあちこちに弾痕が残っているという感じだ。


 そして、これがレウが7英雄会議で『一泡吹かせてやる』と言った罠であった。


 「さっ、うちらもブルーリバーに向かうか」


 「そうね。行きましょう」


 ラウラはレウの肩に手を掛け、ふたりは振り返りもせずに王の間から出て行く。


 こうして残っていたレウたちもゲック・トリノ城から撤退し、ガランとした城には目立つ穴がそこらじゅうにあり、猫の子一匹いない状態になったのであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 「人類は完全に撤退したようです」


 ゴットハルト砦にいるルードル将軍に人類撤退の情報がもたらされる。


 「そうか。ならば今は空き城。急ぎ城を抑えに行くぞ。全軍出撃準備を整えろ!」


 ルードル将軍はすぐさま決断し、オーク兵を含めたゴブリン軍に獣人兵をつけた先発隊500をゲック・トリノ城へ向かわせた。



 一方、北の竜王国軍のナーガ将軍も、すでにグンター砦に入っていて、同じ時刻に人類撤退の情報を受け取っていた。


 「敵はルードルだけだな。よしっ。ゲック・トリノ城へ我軍の旗を靡かせに行く。今日こそは獣帝国(ビーストエンパイア)のやつらに一泡吹かせてくれるわ!」


 「はっ」


 ナーガ将軍は不敵に笑い、竜王国軍もノーム隊を含めたゴブリン軍を先頭に、先発隊500をゲック・トリノ城に向かわせるのだった。


 こうして、東から獣帝国(ビーストエンパイア)軍が、北から竜王国軍が共に空き城となったゲック・トリノ城に向かい、争奪戦が繰り広げられることになる。


 ただ、ゲック・トリノ城にはレウの仕掛けたとんでもない罠があるとは、両軍ともに夢にも思っていなかったのであった。


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