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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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69 レイラとアニー

 蛍が無事に目覚めたことを確認したあと、レイラがアニーに会いたいと言うので、気持ち良さそうに寝ている蛍のことは兵士に任せて、一緒に部屋から出た。


 廊下に出た俺たちは、少し離れた場所で、グスタフと何やら話し合いをしているレウとラウラを見つけ、レイラに彼女たちが助けてくれた仲間の英雄だと教える。


 「あのツインテールの人が、あたしたちを助けてくれたレウさん? あんな子どもなの……」


 「しぃーーー。レイラ、そんなの聞かれたら怒られるから。レウさんはね、ああ見えて俺たちより年上、20歳だからさ」


 とっさに口を抑えられたレイラは驚きの表情のままコクコクと頷く。納得してくれたようなので、ほっとして手を離す。


 ラウラとグスタフが話しているというか、グスタフが直立不動なのでおそらく命令されている横で、暇そうにしていたレウがこちらに気が付き、ニコニコしながら近づいてくる。


 「おまんまは、もう終わったんか?」


 「ええ。いただきました。それでレウさん、レイラが目覚めたので紹介というか……、えっと、レイラです。レイラ、こちらが超天才のレウさん。それで、あそこでまだ話をしているのが、レウさんのお姉さんのラウラさん。ふたりとも凄い人だからさ」


 超天才というのを強調しながらレイラに紹介すると、レウは『うんうん』と頷いて、嬉しそうに相好を崩す。


 「レイラ・イワノフです。助けていただいて、ありがとうございました」


 「ああ。そんな畏まらんでええわ。もう名前とか分かっとるしな。あんたのことは……、そうやな、レイちゃんでええな」


 「レイラです」


 「レイたんやな。うん? レイラたんは長いよなー。うちの好みやないな」


 「……レイラです」


 「そんでレイちんは、ロシアのイルクーツクから来た17歳やろ?」


 「…………。はい、そうですけど」


 レイちゃんからレイたん、レイちんと呼び方を変化させるレウ。訂正しようと抵抗していたレイラも、最後はため息を吐いていたので、あきらめたようである。


 「ほうか。うちは知覧・ゲノム・レウ。ビビリーナがゆうた通りの天才や。そんでうちらはあんたとは違う第七世界(セージ)から来たんよ。まあ、その辺はあとでビビリーナが説明するやろ。そんで、あっちにいてるちょっと歳いってるのがうちの姉さんで知覧・ゲノム・ラウラな」


 「うっううん! レウたん、優しいお姉さんでしょ!」


 「あっれーー。姉さん、いてたん? 今な、レイちんに、とっても優しいうちの自慢の姉さんを紹介しとったんよ」


 「また、誤魔化して……。まあいいわ。レイラちゃん。よろしくね」


 「は、はい。よろしくお願いします」


 いつものお約束のような流れで、場を和ませるというか、ただでは自己紹介はしないのがレウの流儀というか、とにかく、レウたちとレイラの最初のやりとりはこんな形で終わった。


 レウたちとの挨拶が終わり別れたあと、レイラが小声で話し掛けてきた。


 『達也が言った通りの楽しい人だね。ビビリーナね。プッ、クスクス』


 『この世界に来る前にあの人たちの世界に行ってさ。真っ暗闇でちょっとビビったら、二つ名とかで付けられて……、もう訂正できないんだよ』


 『だね。プッ、プフ、プフフフ』


 声を出さないように必死に堪えながら、目に涙を溜めて笑うレイラ。その様子を見て、腹が立つというよりも、本当に良かったと思った俺であった。



     ◆◇◆◇◆◇



 「アニー!」


 「レイラ!」


 抱き合うふたり。立ち上がったダスティンと握手をしながら、レイラたちが喜ぶ様を笑顔で見守る。


 ダスティンたちが休んでいた部屋にふたりで入り、アニーを見つけたレイラがいきなり飛び出した形だ。俺はそのままダスティンと傍にあった小さな丸い机に向かい合って腰を降ろした。


 「お互い命拾いしたな。ほたるちゃんがやったんだってな」


 「ええ。俺は……」


 「おいおい、助かったのに落ち込むなよ。俺の立場がなくなるだろ。前を向け。お前はまだ若い、次に挽回すればいいんだ。それにお前が強いことは、このダスティン様が保証するぜ。ガハハハハハ」


 下を向いた俺に、ダスティンは喋りながら手を伸ばしてきて、肩をパンパンと叩いた。


 「おっ、そうだ。俺は先に戻るぜ。こいつも連れて行く。なんでも捕まえたドワーフってのをコッテに連れて行く仕事だってよ。まったく人使いが荒いよな。まあ今度の仕事は楽勝だろうけどな」


 「ドワーフですか」


 まだ抱き合ってお互いの無事を確かめ合っているアニーを親指で差しながらダスティンは、もうすぐ出立すると付け加えた。


 そういえば、戦いのなかではドワーフは見ていなかった。コッテに連れて行くということは、武器や防具を造らせるのか? 中央世界(セントラルワールド)でも、ゲームや小説などでよく使われるドワーフの特徴と同じように、武器造りに長けているということなんだろうな。


 それに今回のダスティンの仕事に危険は少ない。ここからブルーリバーまでの道は人類が抑えているだろうし、壁の中の移動はそれこそ彼には刺激が足りないものだろう。


 それからしばらくは、アニーとレイラを含めた4人で、アニーが淹れてくれた紅茶を飲みながら話をした。俺はほとんど会話に入らず聞き役に回り、そのなかでアニーとダスティンの関係、アニーとレイラの出会いとゴブリンに捕まったときの状況などが分かった。


 それは次のようなことだった。


 もともとアニーとダスティンは幼馴染というか育った場所が近くで、一緒に同じ師に付き従って訓練をはじめ、傭兵となってからもしばらくは同じパーティとして行動した。しかし次第に危険な仕事が回ってくるようになるとダスティンはアニーを遠ざけはじめ、違う仲間と行動するようになる。


 ダスティンは上級者パーティの仕事をこなし、初級者、中級者パーティでアニーが仕事をしたため、ふたりは接点がなくなり疎遠となったそうだ。


 そして、アニーが中級者パーティの訓練として4人の仲間と一緒に、壁の外の海岸に行ったときに、釣りに来ていた二匹のゴブリンに襲われていたレイラを見つけて助けた。


 レイラは、まだ中央世界(セントラルワールド)に来たばかりで、海辺を彷徨っていたらゴブリンに襲われて、必死に逃げていたそうだ。


 アニーに救われたレイラは、この世界に人がいることにほっとしてそのまま気を失った。それからあとは、レイラはアニーと行動を共にし、訓練をしてみると自分にすごい力があることが分かり、元々好きだった日本の忍者のような戦い方を自己流で身に着けた。


 しばらくして、アニーとレイラは、俺と蛍が最初にこの世界に着いた大森林に薬草を取りに行った。腕に自信を持っていたレイラは油断していた。少しでも取り分を増やそうとふたりだけで行動してしまっていたのだ。


 数十匹のゴブリンに囲まれ、十匹程度のゴブリンを倒したところで、アニーの喉元に数本の槍が付きつけられた。


 レイラは抵抗するのをやめて、ふたりとも捕まりゲック・トリノ城へ連れて行かれた。アニーは始終無言を貫き通し、レイラはつい口走ってしまった『くっころ』をそれしか話せないものとして、やつらを騙し通した。


 しかし、グンターに術を掛けられ、裏切ったらアニーを殺すと言われ、やつらに命じられた通り、蛍かキャサリンを狙うためにブルーリバーに来たということだった。


 ちなみにレイラは『くっころ』は知ってはいたが、元々はそんなものを使うつもりはなかったそうだ。最初に口が滑ったのは『くっ、このやろう』と言おうとして、途中で止めた『くっ、こ……』だった。それをゴブリンどもに聞かれてしまい、問い質されて『くっころ』を繰り返すことに決めたそうだ。

 


     ◆◇◆◇◆◇



 「アニー。そろそろ時間だ」


 「あいよ。それじゃあレイラ、またな。あんた、レイラを頼むよ」


 ダスティンが話を切り上げると、アニーは俺の方に来て、いきなり両肩を掴み顔を近づけて刺すような視線で俺の目を見る。


 「あっ。は、はい」


 「なんか、頼りないね。レイラに何かあったら承知しないよ」


 アニーに近くから見据えられて、驚いていた俺は返事にまごつく。するとさらにアニーは顔を近づけ、脅すように言う。俺は少し後ろに引きながらも、激しく頭を振って頷いていた。


 「もう、アニーったら。大丈夫だよ。達也は強いんだから」


 その様子を傍でみていたレイラは、少し顔を赤らめながら、助け舟を出すように俺からアニーを引きはがした。


 「分かったよ。レイラ。元気でな」


 「アニーも」


 再び抱き合ってお互いの背中をポンポンと叩くレイラとアニー。ダスティンは笑顔のまま、ドアに手を掛けて、アニーに早くしろと促す。


 「じゃあな。ほたるちゃんをしっかり守れよ! ガハハハハハ」


 後ろを向きながら右手を挙げて豪快に笑うダスティン。余計なことを言いやがって……。あんたこそ、アニーを泣かせるなよと去っていく背中に向かって、俺は呟いたのだった。


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