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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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66 輝きを取り戻す七星

 ゲック・トリノ城の一室で、レウとの一時を過ごしたところで、ラウラがレウを呼びに来た。


 ふたりが出て行ったあと、ベッドから起きて、窓の外を眺める。


 空は青く、空堀から続く草原と、少し前に潜伏していた雑木林の緑が目を癒してくれる。ふと、右のほうへ顔を向けて見ると、ふたつの人影が戦っているのが見えた。


 キャサリンと幸介だった。


 こんなときでも訓練を……、いや、こんなときだからこそか。一旦止まって、汗を拭い、また戦いはじめるふたり。


 常に前を向き続ける姿に、胸が少し熱くなる。


 後ろを振り返ると、蛍はまだ静かに寝息を立てている。そして、レイラは……。


 「う、うーん」


 「レイラ。気が付いたのか?」


 「こ、ここは?」


 「ゲック・トリノ城。すべて終わった。助かったんだ」


 まだ、意識がはっきりしていないのか、瞬きを繰り返すレイラに近づき、『体は大丈夫か』と確認しながら手を貸して上体を起こす。


 それから、蛍が術を使ったこと、レウたちが援軍として駆けつけたこと、今は人類の軍が城を占拠していること、グンターにレイラの術を解かせたこと、まだ目覚めないが蛍やアニーを含め、皆、無事であることを話していく。


 俺の言葉をぼんやりと聞いていたレイラだったが、やがてすべてを理解したようで、『そう』と言いながらため息をひとつ吐き、そして念を押すようにぼそりと呟く。


 「それ、本当だよね?」


 「ああ。『くっころ』は、もう終わりだ」


 疑念を残した問い掛けに笑顔で応えた俺に、レイラはまだぎこちなさが残りながらも口元を緩ませる。


 「そっか。……お腹空いた」


 「アハハハハ。そうだな」


 ドアに立つ兵士に食事を頼もうかと思ったとき、ドアが開き、フレイムが手にお目当ての食事、トレーに乗ったパンとスープを持って入って来た。


 「あれ? ひとり分では足りんかったか。もう一度行ってくる」


 フレイムは、ひとり分の食事を置いて、そそくさと部屋を出ていく。レイラと顔を見合わせる。


 お先にどうぞとレイラに食事を譲り、俺は部屋のなかで体の調子を確かめるように、軽く空手の型の練習をはじめる。


 「ねぇ、達也……」


 ハッとして振り返ると蛍は寝ていて、声を掛けてきたレイラが恥ずかしそうに頬を赤らめ、言葉を続けた。


 「……で、いい?」


 「ああ。もちろん」


 「これから、私たち、どうするんだろ?」


 「これからか……。そうだな、まずはブルーリバーに戻って、少しゆっくりして、じっくり訓練かな。それに新しい武器もあるみたいだし。そうそう、レウさんがレイラの新しい武器は短剣だって言ってたよ」


 「それ、ゆっくりじゃない」


 「アハハハハ。まあ、そう言うなよ。訓練って言ったって、24時間やる訳ではないし。レウさんが居れば楽しい時間になるからさ」


 「そう」


 いったんスープでパンを流し込んで、レイラはまた、パンを齧った。


 そのあとフレイムが俺の分の食事を持ってきてくれて、ベッドに座ってそれを平らげる。フレイムは部屋に留まって、しばらく蛍の傍で容態を見ているようであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 食事を終えた俺は、蛍の様子を注視しているフレイムに、なぜ逃げなかったのかを聞いてみた。


 フレイムは、二度も助けられて何の礼もせずに逃げるのは性に合わないと言い、東の獣帝国(ビーストエンパイア)までは遠いので、一人で逃げてもまた捕まるかもしれないからだと付け加えた。


 なるほど。確かにまだ東にはゴブリン軍の拠点があって、逃げ切る自信がなかったってことか。俺は話を変えて、レウが言っていた気力を回復する能力について聞いてみる。


 「妾は、気力回復の力を持った巫女の血を引いているのじゃ。ただ、種族が違うので、どうも利き方が弱いようなのだがな」


 それは、つまり何の根拠もないということか。レウの胡散臭そうな顔を思い出し、口には出さなかったが、納得する。


 「レウ殿にやるなと言われているのだが、もう一度試してみてもいいか?」


 「何をですか?」


 「妾の掌から気を送ることじゃ」


 「それはどうやって?」


 「手を握ったり、頭を撫でたりするだけなのだがな」


 レイラと顔を見合わせる。


 「達也。この人は獣帝国(ビーストエンパイア)の人?」


 「そうか。レイラは会ってなかったんだっけ。アニーと同じ地下牢に囚われていて、ほたるが助けた人だ。獣帝国(ビーストエンパイア)第六軍の将軍の娘さんで、フレイム・バレットさん」


 ひとつ頷いたレイラが、フレイムに視線を送り、話を切り出す。


 「フレイムさん。失礼かもしれないけど、獣帝国(ビーストエンパイア)と人類は同盟している訳でもないし、どちらかといえば敵でしょ。だから、無暗矢鱈とほたるに触らせる訳にはいかないのは分かりますよね?」


 「ふむ。それはそうじゃろうな。しかしな、妾の一族は恩義を重んじ、特に恩を仇で返すのは最も重い罪となっておる。おんしらが、どうかは知らないが、妾の家では、今、妾がほたる殿を害するなどあり得ないことなのだがの」


 バレット家(と言っていいのか分からないが)の常識は、確かに筋が通っていて、何も間違っていない。人類だって、裏切り行為は卑劣として扱われる。しかし、一方で、敵を欺く裏切りを堂々と行使し、少しも悪びれない輩もいる。


 スパイや潜入捜査では、裏切りも正義となる側面がある。そしてそれに引っかかった者が間抜け扱いされることも多い。


 今、間抜けになる訳にはいかない。


 「そうなると、あなたを信じるかどうかということですね」


 「そうなるじゃろうな」


 レイラがフレイムを見据え、フレイムも見つめ返す。しばらくの沈黙のあと、何かを思いついたらしく、レイラが提案する。


 「フレイムさん。こういうのはどうですか? 直接ほたるには触れずに私たちの手を通してやるというのは? それならもしものときは私たちが止められるから良いよね、達也」


 「そうだな。それなら問題ないだろうな。正直、もしも騙されたらと考えるとダメだとしか言えないが、俺は、ほたるがフレイムさんを牢から助けたという事実を信じたい。それに、少しでもほたるが回復するなら是非ともお願いしたいしな」


 「ふむ。妾もおんしと同じ気持ちなのじゃ。少しでもほたる殿を早く回復させたいのじゃよ」


 「分かりました」


 レイラはベッドから起き上がり、フレイムに手を差し出す。俺が人類の友情の証みたいなものだと言うと、フレイムはレイラの手を握り、そのまま『はむはむ』しそうになったので、後ろから止めた。


 不思議そうな顔をするレイラには苦笑を送り、フレイムには、それはまた今度にするように伝える。


 蛍の手をレイラが握り、その上から俺が握った手の上に、フレイムは目を閉じて掌を押し付けてくる。そして、呟きだした。


 「我は白狼の巫女。悠久なる時のなかに眠る祖の魂よ。彼の者に力を分け与えたまえ」


 フレイムは静かに繰り返し呟き続ける。レイラも目を閉じて詠唱し始め、俺も同じように詠唱してみた。


 「「「彼の者に力を分け与えたまえ」」」


 3人の詠唱がハモったとき、それは起こった。


 何かが俺の手の中を通った感覚がして、驚いて目を開けると、レイラも驚いて俺の方を向いて尋ねてくる。


 「今、何かが……」


 「うーん」


 蛍から声が漏れてきて、レイラの問いには応えずに蛍の方を見ると、体がゆっくりと動いている。


 「ほたる!」


 フレイムはまだ詠唱を繰り返していたが、レイラとふたりで蛍の様子を注意しているとゆっくりと蛍が目を開ける。


 「ほたる。大丈夫か?」


 「達也……。レイラ。あいつらは?」


 「お前がやったんだろ。敵は全滅した。それとレウさんたちが来てくれた。みんなも無事だし、レイラの術も解いたぞ」


 「レウさん? そう、良かった……」


 それだけ言うと、また蛍は目を閉じた。


 ただ、顔には安堵の色がありありと見え、生きるためだけに息をしていたそれまでとは違い、ゆっくりと休息を取るように、すやすやと寝息を立てはじめていた。


 『今はゆっくり休んでくれ』


 心の中で呟いた俺は、途中で詠唱を止めて俺たちの様子をじっと見つめていたフレイムと向き合う。


 「フレイムさん。ありがとう」


 「少しは恩を返せたのかの」


 そう言うとフレイムは、部屋を出て行き、残されたレイラとふたりで、さっき感じた不思議な体験について話し合ったが、答えなど出る訳もなく、首を傾げるばかりであった。


 兎にも角にも、こうして、レイラ、蛍が復活し、ようやく7人の英雄が万全の状態で揃うこととなった。


 ただ、中央世界(セントラルワールド)の各地では、次なる動きが活発化し、更なる混乱と戦いが、七星を待ち受けていたのであった。


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