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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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64 ゲック・トリノ城攻略戦⑭ ~傷だらけの勝利~

 ゲック・トリノ城にて、知覧・ゲノム・レウは思った。


 自他共に認める天才である、さすがのうちも、道を譲る兵士たちの間を通って王の間のなかを見たときには肝を冷やした。


 何がどうなったかは、予想はつく。しかし、予想したことと目に飛び込んできた惨劇との落差には、思った以上に心を揺さぶられていた。


 これは、珍しいことやった。竜人たちとの戦いで、数々の修羅場や地獄絵図を見てきたはずやったのに……。


 王の間には、勝利者がいなかった。


 誰もが傷を負い、鎮火された直後の火災現場のような、ところどころに燻る煙とかすかなうめき声がそこにはあった。


 うめき声の主は、ゴブリン王らしきオークと隊長らしき1匹のノーム。両手両足に太い釘に貫かれたかのような大きな穴が開き、壁に磔状態にされていた。


 同じように体中に無数の大きな穴の空いたゴブリンやオークの死体があちこちに転がり、その穴から燻っているかのような白い煙が立ち上っていた。


 4人の英雄たちは、壁にもたれ掛かったまま項垂れ、誰ひとりとして目を開けていない。


 人らしき影は他にも3人いて、ひとりは銀髪から7人目の英雄のレイラだろうと分かり、他はルークともうひとりの傭兵であった。


 「姉さん。キャチャリンちゃんと幸介しゃんとレイラってのを頼む。うちは、ほたちゃんとビビリーナや」


 「あんたたち! あそこで磔になっているバカ王と横の糞ノームを捕まえな! 殺すんじゃないよ。逃がしたらお前らがお仕置きだからね」


 「は、はいっ!」


 ラウラ姉さんの怒りは頂点に達しとるな。兵士がびびっとるやないか。ほんま、姉さんは怒ると怖いんよ。人が変わるんよ。シュタイン砦とかいうのは、あっという間に丸焼けやったしな……。


 まあ、そやけど、うちも同じやな。うちらの可愛い弟妹をこないにしたんやからな。


 あのアホどもは、後で、死ぬより辛い目を見せたらんとな。ほたちゃんが、あの2匹を生かしたのは、恐らくレイラにかけられた術のせいやろな……。


 まあ、ええわ。それより今は回復や。


 レウはそこで、いったん自分の思考を止めて、新調した武器・アテナの智杖(レウカラッカ)を翳し、蛍と達也に交互に回復の術を掛けていく。


 レウの自慢の一品であるアテナの智杖(レウカラッカ)は、杖の先が楕円形になっていて精密な加工が施されている中央には、虹色に輝く大きな水晶玉のような宝石が光っている。


 レウがアテナの智杖(レウカラッカ)を翳すと、そこから、まばゆい光が放たれ、蛍と達也の傷が修復されていく。


 さすが極星鉱ポラリスオアやな。まだまだいけるな。まあ、それも、うちが凄いってことなんやけどな。あまり自慢はせんとこか。


 なにしろ、極星鉱ポラリスオアに力を溜めておけるのはええな。これなら今までの2倍は術を使えるってことになるな。やっぱり、うちは天才やな。あとでビビリーナに自慢したろ。


 アテナの智杖(レウカラッカ)の威力を確認して口元を緩ませたレウであったが、蛍の状態をじっと見つめ、口を真一文字に結んだ。


 「姉さん。他の2人も頼むわ。ほたちゃんの回復がきついな。こないになるまで術を使いおって……。加減ってもんが分かっとらんな……」


 「ええ。分かったわ。レウたんは、ほたるちゃんをお願いね!」


 ほんま、あとで『アホ!』と叱りつけて、2、3発は、叩いてやらんとな……。なんやろ、涙が出てきたわ。しっかりせんと。うちは、お姉さんなんやからな。


 レウは流れ落ちる涙を片手で拭いながらも、杖を掲げたまま、蛍に向けて術を掛け続けた。



     ◆◇◆◇◆◇



 「お兄ちゃん、起きて。ご飯だよ」


 うーーん。由紀か。無理を言うなよ。さっき寝たばかりだろ。


 「もーう、起きないと遅刻するよ」


 「遅刻?!」


 ガバッと起きた俺の目の前に、妹の由紀の顔が飛び込んでくる。あれっ。さっきまでゲック・トリノ城にいたのに……。


 「ここは? 中央世界セントラルワールド?」


 「なに、それ。寝ぼけてんの。ゲームのやりすぎじゃないの。さっさと着替えなよ」


 「ほたる、ほたるはどうした?」


 さっきまで拗ねていた由紀が、笑顔になる……。


 「ねぇ。達也」


 蛍、蛍か……。あれっ? キャサリン。振り向いた俺の前には蛍の声で語るキャサリンがいた。ポニーテールが風に靡き、ジャスミンの香りが感じられる。


 「キャハハハ。達也はビビリなんですの?」


 ちげーよ。まったく幸介は、昔のことをバラしやがって。


 「ガハハハハハ。そんでよー」


 蛍、蛍はどこだ?


 「うん! ここだよ」


 笑顔の蛍が思い切り元気に頷く。そうか、無事だったんだな。よかった。


 でも、俺は何もできなかった……。


 「ビビリーナ! おい、ビビリーナ! さっさと目を覚まさんかい!」


 レ、レウさん?


 「お兄ちゃん。早く帰ってきてね」


 由紀……。



     ◆◇◆◇◆◇



 最初に見えたのは、高い天井に描かれた絵画らしきものだった。夢の出来事を引きずっていた俺は、まだ続きなのかと、今度は天国にでも来ちまったのかと思った。


 体の痛みはなく、指先にも感覚がある。ひとつ手を動かし、足を動かしてみる。確かに動く。


 横を向くと、そこには蛍が毛布を掛けられて横たわっている。何をしているのか分からなかったが、フレイムさんらしき人が頭を撫でていた。床を擦るように尻尾が左右にゆれている。


 「レウさん。レウさん。目を覚ましましたよ」


 やはり、フレイムさんだ。なんで、ここに? それにレウさんって? あのレウさん? 答えはすぐに目の前に現れた。


 「ビビリーナ! こんなとこで何してんねん。ほんま、うちがいないところで、無茶しおって。アホか。その挙句、こんな……。こんな……。うっ、うっ」


 状況を飲み込めないまま、レウに肩を掴まれ、手を握られる。少し痛いくらいに感覚があり、冷たい滴が腕に落ちる。


 「ほ、ほたるは……。み、みんなは……」


 「ああ。うちがいてるんやから、問題あらへん。心配せんで、もう少し休みぃ」


 「よかった……。俺、何もできませんでした」


 屈辱と後悔と無力感を、思い出したように頬に涙が伝わる。


 「もう、ええよ。もう、ええんや」


 レウに優しく頭を撫でられ、暖かい安らぎが俺を包み込んで、再び、意識を失った。



     ◆◇◆◇◆◇



 人類初のゴブリン軍との戦いは、最終的には7英雄がゲック・トリノ城に終結し、ゴブリン軍は本拠地を落とされ、王を人質に取られるという大敗を喫し、人類の勝利に終わった。


 『中央世界(セントラルワールド)暦4871年5月15日未明。ゲック・トリノ城、陥落。7英雄が新たな歴史の1ページにその名を刻む』


 勝利の一報がブルーリバーに届くと、住民は歓喜し、街中の至るところで7英雄を称賛する声が沸き起こった。


 ただ、人類初の勝利に湧くブルーリバーとは裏腹に、称賛された当人たちは、まだ意識が戻らない者もいるほど、傷だらけであった。


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