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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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60 ゲック・トリノ城攻略戦⑩ ~人質救出~

 レイラと幸介が門の中に吸い込まれていくのを確認しながら、俺たちは北の崖を目指した。敵に見つからないように、身を低くしながら進み、しばらくして北の崖下に到着した。


 見上げれば、遥か上に見える頂上。皆、無言のまま作戦行動に移る。


 ちなみに、よく、特殊部隊などが無言で潜入するときに使うハンドサインの『準備OK』『行くぞ』『行け』『待て』『回避』『攻撃』『敵の数』などを、あらかじめ決めてあった。


 月明かりと頂上付近のわずかな灯りだけで、辺りは真っ暗であったが、次第に目も慣れてくる。運が良いことに、雲一つない空に輝く満月が、これから登る崖を照らしてくれていた。


 やがて、キャサリンとダスティンの準備が整い、『準備OK』のハンドサインを交わし、ふたりが登りはじめる。


 ふたりは、右へ左へとコースを変えながらも、どこで留まり、どのルートを通るかをすべて分かっているかのようにスムーズに崖を登っていく。


 心配そうにふたりを眺めていた蛍も、あまりの手際の良さに驚いて、俺の腕を肘で突き、小声を発する。


 「凄いね」


 「ああ」


 ふたりには、頂上を目指すコースが見えていたのだろう。だからこそ、あの自信だったのだ。すでに、その姿が小さくなったふたりが、ついに頂上まで到達し、下でとぐろを巻いていたロープが、生き物のようにのたうちながら崖を登る。


 その姿は、地底からゲック・トリノ城を襲う昇龍のように見えた。


 最終的にロープは、ふたりが登り切った辺りからは右に10メートルくらい行った場所に、その尻尾を浮かばせた。これは上で、ふたりがロープを結ぶ場所が登った所より少し右にずれたということだろう。


 そう考えた俺たちは右に移動し、ロープを少し引くと、上からも引く合図があり、後続が登る準備は整った。


 そのあとは、蛍、ニコラス、俺、荷物、ルークの順に、崖を登り切り、数時間後には、全員がゲック・トリノ城の北側の崖の上に立っていた。



     ◆◇◆◇◆◇



 ゲック・トリノ城の北側には、直径で50メートルくらいの半円の広場があり、武器庫と崖っぷちに5メートル四方の石畳があった。


 石畳は、処刑場か、あるいは死んだものを投げ捨てる場所なのかもしれない。広場から城への出入り口は木戸で、確かめたところ、鍵はついていなかった。


 当然、こんな崖を登っての敵の潜入は、考えていないのだろう。今、ここにいる6人はゴブリンたちから見れば、想定外の潜入者なのだ。振って湧いたように現れた異常者といえるかもしれない。


 武器庫には斧や槍などがあったが、乱雑に投げ出してあるだけで、使えそうなものを見つける気にさえならず、入るのをやめた。


 荷物から蛍が矢筒を背負うなどして完全武装を整えた俺たちは、ダスティンの『準備OK』『行くぞ』のハンドサインによって、いよいよ潜入を開始する。


 暗闇の中、満天の星と満月が、俺たちの背中を照らしてくれていた。


 木戸から城内に潜入すると、左右に延びる廊下に出て、右側はしばらく行くと登り階段があり、左側には下り階段があった。城内には、ところどころに松明があり、炎が揺れている。


 ダスティンが先頭になり、俺、蛍、キャサリンが続き、後ろをルークとニコラスが守る形で、俺たちは左の下り階段に向かった。


 おそらく地下牢だと考えての行動である。階段を下りていくと、案の定、曲り廊下の奥に地下牢と、その前には2匹の見張りの兵士がいた。


 ダスティンが『待て』の合図を出し、皆が息を顰めて止まる。続いて、蛍とキャサリンに攻撃命令を出す。そして、ゆっくりと廊下の陰から出て、後ろに隠れるようにふたりが続く。


 「よう! バカども!」


 「シュバ! シュ! シュバ! シュ!」


 ダスティンは見張りの兵士に声を掛けると、すかさずしゃがみ込み、後ろから蛍の矢とキャサリンの棒手裏剣が、驚いてこちらを見た2匹のゴブリンに襲いかかる。


 2匹のゴブリンは、蛍の矢に喉を、キャサリンの手裏剣に目を貫かれ、ダスティンの声に返すことも、断末魔の悲鳴を上げることもなく、その場に倒れた。


 ダスティンは、何事もなかったように、ゴブリンどもから、鍵を奪って地下牢の通路に入っていく。


 地下牢には左右に5つずつ計10の部屋があった。入ってすぐの両側に捕虜らしい人影がうずくまっている。暗くて良く見えないのだが、シルエットから片方は人間、もう片方は耳と尻尾がある獣人のようであった。


 ダスティンは人らしい牢の鍵を開けて中に入る。キャサリンもニコラスから毛布のような布を受け取りダスティンに続く。俺と蛍は、もうひとつの牢の中を注意深く観察していた。ルークは入口付近で見張りに立った。


 「おい。お前、起きろ」


 「…………っ!」


 「安心しろ。助けに来た。レイラを知ってるか。……って、お前は、まさか、アニー、アニーなのか?」


 「………………。えっ!」


 「アニー。お前、なんでこんなところにいるんだ」


 「ダスティン!」


 蛍とふたりで顔を見合わせた。人質は、どうやらダスティンの知り合いらしい。はじめは何も喋らない様子であったが、相手の顔を見て、大粒の涙をボロボロとこぼし始めて、絞り出すようにダスティンの名を呼び、その首に飛び付いた。


 ダスティンに抱きつくアニーと呼ばれた人には無情かもしれないが、『おい!』と声を掛けて急がせる。すぐにダスティンが気が付き、キャサリンから毛布をもらって、アニーを包み、肩を貸そうとする。


 幸い、アニーはひとりで歩けるようで、毛布に包まりながら『大丈夫』と小声を発し、ダスティンを制する。


 流れる涙を拭いながらも、真顔に戻ったアニー。身長は150センチ程度か、小柄な女性で、髪は赤毛で薄汚れた薄い布のようなもの纏っていた。


 「おい、お前ら。妾も、妾も助けてくれ!」


 不意に知らない声が地下牢に響き渡り、身構えて、声の主のほうを見ると、鉄格子越しに、獣人の女性が助けを求めていた。


 長い銀髪からピンと伸びる、もふもふの耳と体の後ろで盛んに動いている、これまた、もふもふの尻尾以外は人であり、刺激的なプロポージョンで、なぜかチャイニーズドレスのようなスリットの入った赤いドレスを着ていた。


 キャット・タウンで猫の特徴を持つ獣人に会っていたため、それほど驚かなかったが、どう対応するのがいいのかを決められずに、皆で顔を見合わせた。


 「妾は、誇り高き獣帝国(ビーストエンパイア)第六軍を預かる将軍レイダー・バレットの娘フレイム・バレットじゃ。助けてくれれば、褒美は思いのままじゃぞ」


 「獣帝国(ビーストエンパイア)の将軍……」


 「とにかく助けましょう」


 躊躇うダスティンから鍵を奪った蛍が、即断して鍵を開けて中からフレイム・バレットを助け出した。


 今、獣帝国(ビーストエンパイア)と事を構えるつもりはない。目の前のゴブリン軍との戦いで手一杯であり、とても考えられる状態ではない。


 しかしである。


 獣帝国(ビーストエンパイア)が、あきらかに敵なのは間違いない。


 ブラッド・リメンバーには、ニャーゴとニャーロクがいるが、彼らは帝国から出奔している状態で、何軍まであるのかは知らないが、第六軍の将軍の娘となると、また話は別だ。


 それでも、助けることを選んだ蛍。


 目の前で助けを求めているのに、放置できないという素直な気持ちを優先させたこの決断が、後に、どんな結果をもたらすのか。因果は正しく機能するのか。それは、誰にも分からなかった。


 しかし、なぜ、獣帝国(ビーストエンパイア)軍の将軍の娘が、ここで囚われの身となっているのか。なぜ誰も助けに来ないのか。ゴブリンたちの目的は。などなど、この状況では、分からないことだらけであった。


 「他には、人はいないのだな?」


 「奥に2匹の竜人がいるはずじゃ」


 「ええ。そうみたいね」


 ダスティンが尋ねると、フレイムとアニーから意外な答えが返ってくる。


 竜人。今まで、幾度となく出て来た名であったが、一度も見たこともないやつであり、人類の最大の敵とされている種族がこの奥にいる。


 しかし、今はそれどころではない。先を急いだほうがいいし、これ以上の余計な荷物は負担が大きすぎる。


 本当を言うと、少し見てみたいというか、見ておいたほうがいいのでは? という感覚もあったのだが、やはり、それが元で敵に見つかりでもしたらという不安のほうが先に立った。


 「今は、やめておこう」


 「そうね。それは目的じゃないものね」


 同じく危険を察したのか、俺の提案に蛍も同調してくれて、俺たちは地下牢からふたりを連れ出して、一旦、登ってきた崖上の広場に戻ったのだった。


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