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世紀末の七星  作者: 広川節観
第一章 世界の秩序と混沌
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06 二重城壁とドラゴンスレイヤー

 幸介、蛍、キャサリンと俺の4人を乗せて疾走する2頭の馬は、森を抜け、平原を駆け抜け、丘を越える。


 風を切って走りながらも、大声で、幸介に先ほどの疑問を投げ掛ける。


 「おい、幸介! お前がこの世界に来たのは、本当に1か月前なのか?」


 「ああ、そうだ。この中央世界(セントラルワールド)に来て、確か、1か月くらいだ。お前たちは違うのか?」


 「うーん。俺とほたるは、別の世界に行っていたみたいで、よくは分からないんだが、高校の教室から、どんなに長く見積もっても3時間ってところが体感なんだが……」


 「3時間? そうなのか?」


 「ああ、なんでだろうな?」


 「俺に聞くなよ。そんなの分かるわけないだろ? あとで、ほたるに相談してみようぜ」


 「ああ、そうだな……」


 結論の出ないまま幸介との話を終え、馬上で幸介にしがみつきながら、俺は思考を巡らせる。


 いくら運動神経が抜群の幸介とはいえ、こうも馬に乗り慣れていることや、革とはいえ鎧をつけている姿を見れば、確かに幸介は、かなり前からこの世界───やはり、中央世界(セントラルワールド)だったんだな──に来ていたのだろう。


 しかし、いくらなんでも1か月も差があるとは。


 暗闇に行き、あいつらと話をして、ここに送られるまでに、1か月もかかったとは。


 ルールとかってヤツが言っていた秘術が原因か? あれでここにくる時間が大きく狂った! そういうことになるよな……。


 ここでの俺は、そう結論づけた。

 

 この時間差の原因は、のちに判明することになるのだが、この時点では、蛍を含めた誰もが、考えも及ばないものであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 走りはじめてから4時間くらいたっただろうか? 辺りが夕焼けに染まりはじめたころに、足元に大きな堀を抱える巨大な壁が現れた。


 壁の高さは、およそ30メートル(10階建てマンションくらい)で、左右の長さはどこが終わりだか見えないほど続いているようだった。


 幸介とキャサリンは、そこで少し速度を抑え、なんとか間に合ったと親指を立てて合図し合い、(くつわ)を並べた。


 「すごいな、あれ。あれは城壁か?」


 「ああ、あそこが俺たちのネグラ、ブルーリバーと呼ばれている街だ。そこにいるキャサリンの親父が街の主で、俺もやっかいになってるんだ」


 「えっ、キャサリンさんって、王族なの?」


 「いえ。王族ではなくて、ブルーリバーの統治を任せられている責任者ですわ。おふたりのことも、わたくしにドーンとおまかせくさだい。幸介さんのご学友でしたら、養父様(おとうさま)もきっと喜ばれるでしょうし。わたくしの家にいらしてくださいな」


 キャサリンは『ござる姫』だったのか? と考えていたら、キャサリンが王女というのは否定し、俺たちの面倒をみることを提案してくれた。


 「ありがとう、キャサリンさん! 達也、お言葉に甘えましょう」


 「ああ、そうだな。キャサリンさん、よろしくお願いします」


 「ええ、お安い御用ですわ」


 『えっへん!』と胸を張るキャサリンに対し、とりあえずそれが一番だと考えたのだろう、蛍が従ったので、俺も同調した。


 「それと、おふたりとも他人行儀はやめてください。キャサリンでいいですわ。幸介さんのお友達でしたら、わたくしも、ほたる、達也と呼ばせてもらいますから。それに……わたくしも……」


 「着いたぞ! おーい門番、キャサリン嬢のお帰りだー。開けてくれー」


 幸介だけ『さん』づけ? と思ったが、蛍が『ええ、ありがとう。嬉しいわ、キャサリン』と答えたので、特に確認はしなかった。


 そして、幸介がキャサリンの言葉を遮って、門番に向かって叫んだため、最後のほうの言葉は聞こえなかった。



     ◆◇◆◇◆◇



 堀にかかった橋を渡り、開かれた門に入り、壁の内部を抜けると、正面にはまた壁がみえた。


 明らかに今抜けてきた壁よりは低いが、こちらでも20メートルくらい(7階建てマンション程度)はありそうな高さである。


 目の前に広がる場所は、広場という言葉では違和感がある、とろこどろこに人影や、馬、馬車などの往来が見える広大な平地であった。


 直進すれば到達する、次の門までの距離は、軽く見積もっても100メートルはある。


 人影は戦っているのか、時折『カン!』『キン!』といった金属音が響く。


 左右を見渡せば、遠くには建物もあるようだが、はっきりとは見えず、キャサリンにつかまって、辺りを見回している蛍も目を丸くしている。


 「ここは?」


 『おお、やってる、やってる』などと言っていた幸介に疑問を投げ掛けると、『そうだよな、驚くよなー』と言って、説明しはじめた。


 「ここは、遠征軍などが戦いの前に兵を集め、出兵式をする場所だそうだ。昔はさっきくぐった壁がなくて、ここに布陣して敵と戦ったと言ってたな。今ではほとんど出兵することはなく、訓練場とかになってる。遠くに建物が見えるだろ。あそこは兵舎や宿屋、酒場などがあって正規兵と傭兵───食材や薬草、鉱石などを求めて壁の外に出る冒険者───たちが暮らしている」


 「…………へぇー、そ、そ、そうなんだ」


 「なんだ、もう、ちびったのか? 達也らしいな。ガハハハハハ」


 「ちびってねぇーよ!」


 「えーーー、達也って、ちびりなんですの!? 先ほどは、ほたるをかばって、粋がってましたわよ?」


 「ほぉー、そうなんだ。でもよー、昔な………………アハハハハ」と楽しそうにキャサリンと、人の失敗談をネタにしている幸介は放っておく。


 俺は、幸介の口から明かされた物騒な言葉の内容が、すっきりと頭には入らずに、なんか、すごいとこに来ちまったなぁと思い悩んでいると、蛍も同じように怪訝そうな顔をして考え込んでいた。



     ◆◇◆◇◆◇



 「おい、幸介。あの壁の上にあるの、あれはなんだよ」


 すでにくぐった壁と、目の前の壁の上。


 どちらにも、空に向かって伸びる棒のようなものが幾重にも見え、すでに終わりかけている夕焼けに照らされ棒の先端が、オレンジ色に光っていた。


 「あー、あれか。あれはドラゴン迎撃兵器(ドラゴンスレーヤー)だってさ」


 「「ドラゴン!?」」


 驚く俺と蛍を無視して、幸介は話を続ける。


 「俺もまだ見たことはないんだが、どうやら俺たち人間はそいつら、確か竜人だっけかな。それと戦い、竜たちを率いている王が最大の敵(ラスボス)だっていってたな」


 「そんなやつらと戦うのかよ」


 「あぁ、なんか他にも獣の王とか、なんとかってのがいるみたいだが、それはおっさんに聞いてくれ。よく覚えてなんいだ。ガハハハハハハ」


 「おいおい、お前なぁ……」


 幸介の高笑いを聞いて、蛍は苦笑いしながらも嬉しそうにしていた。まあ、そうだよな。このお気楽なところが幸介、紛れもない本物だ。


 そう考えながら、俺たちはキャサリンの家を目指し、ふたつ目の門をくぐっていった。



     ◆◇◆◇◆◇



 次の門をくぐった所には広い平地はなく、石畳の道が正面の大きな建物に続いていた。


 道の両側は店があるのか、ところどころにあるランプの灯りが薄暮を照らしている。


 ほとんどの家は木造で、二階建ての家もあったが、窓にガラスは使われていない。


 羊皮紙で風を塞いているようで、家のなかからは、感じられる最少限度の薄灯りだけがもれてきていた。


 「あれだ! 正面に見えるだろ?」


 2頭の馬が、通りのなかでは、ひときわ明るい場所を通ったときに、幸介が正面を指差して俺に伝える。


 明るい場所は酒場で、店外に木のテーブルと椅子を並べて酒盛りをしている人たちが、馬上のキャサリンと蛍を『美しい娘だ』と言いたげに見上げては、なにやら話をしていた。


 話をしていただけで、特に大きな動きはなかったので、酒場の男たちを尻目に俺たちは目的地へと馬を進めていく。


 キャサリンの家は、通りにある建物とは一線を隔した立派な洋館だった。


 複数枚のガラスをはめ込んだ格子窓がいくつもあり、内部の灯りが強く薄闇を照らしていた。

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