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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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56 ゲック・トリノ城攻略戦⑥ ~シュタイン砦戦の釣り野伏せ~

 シュタイン砦を攻めた俺たち4人は、敵を罠に嵌めるべく、東の林に向けて逃走を開始し、そして林を通過した。


 「うぉぉぉぉーーーー。追え、追え! 生きて返すな」


 槍や斧を振り上げ、追いかけてくるゴブリンたちの後ろには2メートルはある3匹の巨体、オークがいる。天に突き刺すような大きな牙を光らせ、まさに鬼の形相で追ってきていた。


 オークは、追撃開始時には、5匹いたのだが、そのうちの2匹は、林に入る前に飛来した矢に倒れ、今は、無様な骸を晒している。


 「お、おい。今、オ、オークが2匹やられたのか?」


 「は、はい、そのようです。あれは、どこから……」


 門の前に出てきて追撃隊の様子を見守っていたシュタインは、倒れ込む2匹のオークを見て、背中に嫌な汗が流れるのを感じ、わなわなと体を震わせた。


 「も、門を閉めろ。弓兵を見張り台に配備して、防御を固めろ。さっさとせんか!」


 「しかし……。追撃隊は……」


 「いいから。さっさとやれ!!」


 「はっ!」


 シュタインは、砦を守ることを第一と考え、周囲に敵がいなくなり、砦まで矢が飛んで来ない今こそ、守備を固める時だと判断した。


 さらなる追撃隊を送る手もあったが、その選択肢を取る勇気はなくなっていた。目の前で倒れた2匹のオーク。それがシュタインに恐怖を与え、攻めよりも守りを重視させることを選ばせた。


 シュタインは、砦の東側を中心に全方位の警戒レベルを最大に上げ、守備を固める策に出た。それは、まだ、追撃隊が、逃げる敵を追っているにもかかわらずのことであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 林を駆け抜けた俺たちは、草原を真っ直ぐに逃走し、緩やかな坂を登るとそこで停止して、振り返る。後ろには約200匹のゴブリンと3匹のオークが黒波のように襲いかかってくる。


 ここで止まったのは、緩やかだが坂の上だからだ。坂を下りながら攻撃する俺たちと、登りながらの戦いとなる敵。どちらが有利かは明白である。


 数十秒で、息を整えた俺たちは、すぐに落ち着きを取り戻し、俺の掛け声で反転攻勢に出る。


 「そんじゃ、いきますか!」


 「はっ!」


 「了解でござる!」


 「おう。やっと本番だな。お前ら、死ぬなよ」


 ダスティンとニコラスが中央の敵と戦い、俺とキャサリンが左右に展開して敵を後ろに回り込ませないようにする布陣。少数で取る布陣ではないが鶴翼の陣というか、直進してくる敵を包み込むように攻撃を開始する。


 「ゴブリンども。いくでござる! ハッ!」


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」


 右に走ったキャサリンが勢いをつけて飛び、回転しながら棒手裏剣を投げ、そのまま着地とともに再び飛翔して、第二撃、第三撃と続ける。


 「そぉぉぉぉりゃーー! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 「ガキッン!」「グギャ」「ウギャ」


 俺も左に走り、突撃してくる敵に突っ込んで攻撃を開始する。剣を斧で止められることもあったが、それでも俺の剣の方が速く敵に届く。


 「うぉぉぉぉぉー! 人間様を舐めるなー!」


 「ギャア」「ゲボッ」「ギャー」


 ダスティンの大声が戦場に響き渡り、オークを含めたゴブリン軍と俺たち4人の本格的な白兵戦が始まった。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」「ギャー」「ガボッ」

 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」「ギャー」「ガボッ」「ガボッ」


 予定していた作戦であるが、見事に伸びきった敵の横腹に15本の矢が飛んできて、確実に15匹の敵を葬り去る。


 追撃隊のゴブリンたちは、反転して攻撃してきた敵と、飛来する矢に大混乱し、後ろから追いかけてきていたオークも急には止まれず味方を巻き込んだりした。それでもオークは、俺たち4人に襲いかかろうと鉄球をぶん回して接近してくる。


 「キャサリン! オークが行ったぞ!」


 「ふっ! 了解でござる」


 敵をかき分け、俺のほうとキャサリンのほうに1匹ずつオークが近づいてきていた。


 「行くでござるよ、でかぶつ! ハッ! ハッ!」


 キャサリンは、すぐさま攻撃されて態勢を崩したゴブリンを踏み台にして高く舞い上がり、オーク目掛けて14本の棒手裏剣を投げる。


 「ウガァァァァァーーー」


 いくつかの棒手裏剣を跳ね返したが、体中に数本の棒手裏剣を浴び、叫び声を上げるオーク。それでも、なおもキャサリンを目指して突進する。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「ウギャギャガーーーーーーーーー」


 飛来する5本の矢がオークの動きを止め、ついにオークは、キャサリンの目の前で、前のめりになって倒れ込む。


 キャサリンは『ほいっ』とでも言ったかのように、軽々と倒れるオークを交わして、傍に迫っていたゴブリンに棒手裏剣を投げつけていた。


 俺のほうへもオークが突進してくる。俺はいったん剣で傍にいるゴブリンを薙ぎ払い、下段に構える。そして、集中力を高め、敵の間合いを確認して……。


 「はっ! 行けっーーーー!」


 瞬発力を使いオークの懐に一気に飛び込みにかかる。鉄球がスローモーションのように俺の前を通り過ぎていく。


 剣が届く間合いに飛び込んだ瞬間、剣を下段右から左に振り上げ、オークの右腕を叩き斬る。そのまま、こんどは左から剣を叩きつけるように振り降ろし、オークの右足を圧し折る。


 「ギャァァァァァーーー」


 膝が落ち、腰砕けになったオークが左手で攻撃してくるが、『はっ!』という掛け声とともに剣で薙ぎ払い、バックステップで逃げる。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「アギャギャガーーーーーーーーー」


 俺に払われたオークの左手やうなじを目掛けて、蛍の矢が突き刺さり、そのままオークは前のめりに倒れていった。


 『よしっ! 残り1匹!』と思って、最後の1匹を探すと、ダスティンがウォー・ハンマーでオークの腕をつぶし、ニコラスが鎧に覆われていない首などに槍を突き刺していた。そして、蛍の矢が止めを刺し、最後の1匹も断末魔の声を上げて倒れていった。


 次々と倒されるオークを見て、残った百匹近いゴブリンたちは戦意を喪失して、逃げ始める。しかし、それを許さず、俺たち4人の攻撃と蛍の矢が襲いかかる。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「ウギャ」「ギャー」「ガボッ」「ウギャ」「ギェ」


 「そりゃ! そりゃ! そりゃーーー!」

 

 「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」「ギャー」


 「ふんっ! ふんっ!」


 「ガキッン!」「グギャ」「ウギャ」


 「ハッ! ハッ! ハッ!」


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」


 しばらくの間、乱戦が続く……。


 そして、最後のゴブリンが林に逃げ込む直前、蛍の矢とキャサリンの棒手裏剣が同時に突き刺さり、追撃隊は全滅した。


 「はぁ、はぁ。なんとかなったな」


 「はぁ。ガハハハハハ。楽しかったなー! おいっ!」


 「はぁ、はぁ。勝ったでござるな」


 俺、ダスティン、キャサリンが肩で息をしながら、勝利を確かめ合い、遠くからこちらへ駆けて来る蛍とルークを待った。ニコラスは、槍を杖替わりにして、頭を垂れて『ぜー、ぜー』言いながら呼吸を整えている。


 「みんなー。大丈夫? ケガはない?」


 遠くから叫ぶ蛍に、俺は、前かがみになって膝頭を抑えながら、顔を向けて何度も頷いて、問題ないことを伝える。皆も手を上げたりして、蛍に応えていた。


 黒髪を靡かせ、半身に夕日を浴びながら、真剣な眼差しで駆け寄ってくる蛍。息を整えながらも、その姿にアノマロカリスを仕留めたときの、強さと美しさをもった女神を思い浮かべた俺であった。


 皆、口には出していないが、勝利の立役者は蛍であった。精密射撃の援護がなければ、俺たちは、数の力で、最後は押し負けていただろう。それは間違いのないことであった。


 こうしてシュタイン砦の戦いは、追撃隊を『釣り野伏せ作戦』で、全滅させて終わったのである。


 ちなみに、蛍はこの戦いで210本の矢を放ち、残りは45本、3セットとなっていたので、ゴブリンたちにとっては地獄絵図であるあちこちに屍が転がる戦場から、まだ使えそうな矢30本をルークに回収させた。


 同じようにキャサリンの棒手裏剣も150本近く放ったそうで、使えそうなものを回収していた。


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