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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
55/293

55 ゲック・トリノ城攻略戦⑤ ~シュタイン砦のオーク~

 「串刺しでござる。ハッ!」


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」「ギャー」「ガボッ」


 キャサリンが飛びながら攻撃し、蛍の援護の矢が敵を襲う。矢と棒手裏剣を同時に受けてしまう悲惨なゴブリンも出るなか、次々と的確な攻撃が続く。


 ちなみに、こうした乱戦のなかでは、味方に当たらないように、遠距離射撃は止めるものだが、蛍の射撃は別次元のものだ。


 敵味方入り乱れての乱戦にあって、正確に敵だけを射止める。まさに驚異的なレベルの射撃であった。


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギェ」「ギャー」「ガボッ」


 蛍からの援護の矢は、見張り台の敵を優先し、見張り台に動きがなければ、乱戦に参加する敵へと降り注ぐ。


 当然ながら、門の前で戦う俺たちが一番恐れなければならないのは、高い位置からの飛び道具の攻撃である。それを完全に防いでいる蛍の援護があるからこそ、俺たちは地上の敵と思う存分戦えたのである。


 上からの攻撃、意味合いは少し違うが制空権を完全に制しているといえる戦いだったと、のちに俺は考えたものだ。


 「おら、おら、おらーーーー。邪魔だ! 消し飛べ!」


 ダスティンが叫び、敵をなぎ倒す。


 「ガンッ! ギンッ! バキッ!」


 時折、剣と斧や槍が激突する音が交じる。


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ガボッ」「ギャー」


 「ふんっ! はっ! そりゃ!」


 俺も剣を振るって、敵を葬っていく。


 「ガツンッ! キンッ!」


 「ウギャ」「ガボッ」「ギャー」


 「見張り台、見張り台はどうした!?」


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「ダ、ダメです。見張り台、完全に沈黙。ギャーー」


 「敵の矢で……、顔さえ出せません。ギャーーー」


 まさに少数精鋭の攻撃は、圧倒的であり、一方的であったが、とにかく数が違いすぎた。数十倍の数の敵に包囲されれば、やはり不利になる。


 「くそっ! 取り囲め。包囲して殺すんだ」


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 敵も包囲を狙って、俺たちの後ろに回り込もうとする。しかし、それを許さず、後ろを取ろうと動くゴブリンたちを容赦なく蛍の矢が襲う。


 「グェ」「ゲボッ」「ウギャ」「ギャー」「ガボッ」

 「グェ」「ゲボッ」「ウギャ」「ギャー」「ガボッ」


 「くそっ! 敵が多すぎる。これでは囲まれるぞ」


 ダスティンが、計画通りの『釣り野伏せ作戦』の合図を皆に送った。


 「達也! 背後に注意でござる」


 「おう! ……くそっ、ゴブリンどもめ。いったん退くぞ!」


 キャサリンと俺も、作戦通り、完全に背後を取られるのを避けるように逃げ始める。その間も蛍の矢が敵を仕留めて、ゴブリンの屍だけが次々と転がっていく。


 「グェ」「ギャア」「ゲボッ」「ウギャ」「ギャー」


 何匹倒したのか? おそらくだが、見張り台のやつらも含めれば100近い兵を削って俺たちは退却をはじめた。


 「逃げたぞ! 追え、追え。生きて帰すな」


 ゴブリンのひとりが大声で叫ぶ。


 ゴブリンたちは追撃態勢に入り、我先にと逃げる俺たちを追い掛けてくる。その先頭集団に最後の蛍の矢が突き刺さり、ほんの少しの間だが、敵がひるんだ隙に一気に敵との距離を稼いで逃げ出す。


 俺とキャサリンが先頭になり、ダスティンとニコラスが後ろから駆けてくる。30メートルくらいだろうか、敵との距離ができたときに矢の飛来がピタリと止まる。蛍も次の攻撃に備えて移動を開始したようだ。


 幸介とレイラはまだハイスピードバトルを続けていたが、俺たちが退いたのを見た幸介は、レイラの飛び蹴りを受けて倒れ込む。すかさずレイラが馬乗りになり幸介を完全に抑え込んだ。


 これは他のゴブリンに手を出させないためであった。さすがに上にレイラがいる状態でレイラごと手をだすほどゴブリンたちもバカではなかった。


 そこへようやく飛び出てきたシュタインが声を掛ける。


 「ふーーー。よ、よくやったぞ、家畜! ほれっ。これで縛りあげて、捕虜と一緒に中へ入れ! 他のやつは逃げたやつを追え! さっさといかんか!!」


 「く、くっころ! はぁ。はぁ」


 シュタインから投げられた縄を取り、レイラは、幸介が逃げないように後ろ手で縛り上げ、肩で息をする。


 「はぁ。はぁ。くそっ! 放せ、くっころ女!」


 幸介も息を整えながらも、悔しさを口に出す。戦いを終えたふたりの横を5匹の巨体が通り過ぎ、顔を上げたレイラは、その後ろ姿をしばらく眺めていた。



     ◆◇◆◇◆◇



 さんざん暴れて、逃げる俺たちに対して、追手を差し向けてきたゴブリン軍の後ろには、5匹の巨体がいた。オークである。黒の小鬼のようなゴブリンに対して、オークの肌の色は、ゴブリンよりも緑が強い深緑であった。


 身長はゴブリンの倍はある。2メートル前後といったところだ。それよりも目立つのが、両手に鉄の腕輪から伸びる鎖とその先についている鉄球であった。


 防具としては胸のあたりなど一部に鉄を使った革鎧のようなものを纏っていた。


 1匹が鉄球を軽々と振り回し、追撃隊のゴブリンたちが巻き込まれて何匹か飛ばされていた。


 「おい。あれがオークだな。あの鉄球には気をつけろよ!」


 「ああ。見てれば分かる」


 林へと走りながら後ろを振り返り、オークが味方を吹っ飛ばすのを見たダスティンが注意を促すが、俺とキャサリンはチラリと振り返り、そして走りながら口元を緩ませる。


 「あんな、のろまな攻撃には、当たらないでござる」


 「そうだな。遅いな」


 「お、遅い? あれがか……?」


 「ふふっ」


 ニヤリと笑うキャサリンと俺の反応を見て、ダスティンは訝しげな声を出すが、俺たちには確かに自信があった。


 鎖の先に付けられた鉄球。その攻撃のもっとも怖いのは鎖が伸びきった状態で、遠心力が乗ったときだ。そこがスピードも威力も最大であり、最も危険。しかし、逆にいえば、そこだけを注意すればいい。


 つまり、敵を中心に、最も危険な鎖の最大の長さの部分。その間合いに入らなければ、怖くないのである。幸介の正拳付きや回し蹴りの間合いに入らないように日々訓練してきた俺たちに取って、それはそれほど難しいことではなかった。


 ブンブン振り回す武器では、間合いに入らないで攻撃するか、手元を狙うなどして、動きを一瞬止めてしまえばいい。


 また、ミスをして、たとえハイスピードの鉄球を交わし、鎖の部分に捕まってしまったとしても、一瞬だけ防御して鎖に当て、そのまま交わしてしまえば、それによって動きが遅くなり、鉄球の重さで方向が乱れる。これに当たるような俺たちではなかった。


 キャサリンにも、それが分かっていたから、『のろまな攻撃』と言ったのである。


 「林に入るぞ! 追え、追え!」


 「オークども、急げ!」


 追撃隊の数は200匹程度でオークが5匹。


 俺たちは林に入り、スピードを上げる。特にキャサリンは林の中では移動速度が大きく上がる。下を走るよりも速い、梢を使った跳躍移動で一気に林を抜けて、俺たちより先に出口で息を整えていた。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 林の中を走る俺たちでさえどこから飛んで来たのか判別できない矢が、追撃隊の後ろにいた2匹のオークに突き刺さる。


 「グギャーーーーーーーーーー」


 「ガボギャーーーーーーーーー」


 チラリと後ろを振り返ると1匹のオークは、1本は鎧にはじかれて外したようだが、顔や腕など鎧で覆われていない部分に4本。もう1匹は5本とも矢を受けて、もんどり打って倒れ込む。


 矢の襲撃を受けた2匹のオークは、しばらくは、ひくついていたが、やがて活動を停止した。


 まだ、移動途中だろうに、とんでもないことを軽々と成功させるもんだと、林の出口を目指しながら、俺は蛍の小悪魔的な笑顔を思い出すのであった。




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