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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
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54 ゲック・トリノ城攻略戦④ ~シュタイン砦の乱戦~

 シュタイン砦の門の前では、レイラと幸介の『死闘』という名の演技が、延々と行われていた。


 回りを取り囲むゴブリンたちは、とてもふたりのスピードについていけず、固唾を飲んで戦いの行方を見守っている。なかには、手を出そうとする輩もいたが、そのたびに幸介の蹴りや突きに吹っ飛ばされていた。


 ゴブリンたちが見抜けるスピードではないが、これもふたりが組んで行っているものであった。


 飛び出そうとするゴブリンの前にレイラが入り、幸介に攻撃させて、後ろのゴブリンが避けられないタイミングで交わす。当然、ゴブリンに攻撃が当たりというか、幸介も後ろのゴブリンを狙うので、レイラに交わされた形だが、実はビンゴという作戦であった。


 そして、ゴブリンたちは時折、飛来する矢にも1匹、2匹と数を削られていた。しかし、それでも包囲を崩すことはなかった。いや、逆に次々と出てきて包囲の輪を幾重にも増やし続けていった。


 「ケケケケッ。家畜、やれやれ!」


 「家畜! 家畜! 家畜! ぐぇ!」


 「邪魔だ。どけっ! おい。こいつを片付けろ」


 「おいっ。手を出しても無駄だ。ここは家畜に任せろ」


 応援とも野次ともいえる大声を発しながら、飛び跳ねたりして熱狂するゴブリンたち。


 人ではないが、『人山の黒だかり』がぴったりの状態で、ゴブリンたちは1メートル前後であるため、中心で戦うレイラと幸介の胸から下はもう見えない。


 「よしっ! 行くぞ!」


 ダスティンの掛け声とともに俺とキャサリン、そして、ふたりの後ろからニコラスが飛び出した。


 「あれっ!?」


 「聖母様のご命令です」


 驚いた俺は、飛び出しながらニコラスに声を掛けると簡潔な答えが返ってきた。なるほど……。確かに、蛍は、大活躍はしているのだが、この作戦では、最も危険が少ない後衛だ。護衛はルークだけで十分と判断して、ニコラスを攻撃隊に参加させたわけか。


 飛び出した俺たちは、中央でのハイスピードな戦いに熱狂するゴブリンたちに気付かれないように、600メートルの距離を速足で一気に詰めていく。幸いにも、ゴブリンたちに気が付かれなかった。それほど中央のレイラと幸介の戦いがすざまじかったのだ。


 一気に敵の側まで来たダスティンを先頭にした攻撃隊の4名は、敵の包囲の外側から攻撃を開始する。


 「うぉぉぉぉりゃーーーーーー!」


 「ブンッ! バキッ!」


 「うぎゃ! げっ! うおっ!」


 幸介の武器を借りているダスティンが、ウォー・ハンマーを思い切り振り抜いた一撃が、3匹のゴブリンをまとめて吹き飛ばす。


 「うぉぉぉぉーーーーーーーーー。行けっ! キャサリン!」


 「了解でござる!」


 俺は一瞬、足を止めて、片膝をつき、両手を膝の上で組んでキャサリンの飛ぶ台となり、反動をつけて、キャサリンを高く放り上げる。


 「シュ! シュ! シュ!」


 敵から見れば不意打ちされたダスティンの後ろから黒い影が舞い上がり、攻撃されている状態だ。振り向きざまに顔に棒手裏剣を受け、周囲の騒音で断末魔の声がかき消された7匹のゴブリンが倒れていく。


 すかさず俺も敵をなぎ倒しにかかり、ニコラスも攻撃を開始する。


 「うわっ! なんだこいつらは……。げぼっ」


 「敵だ! 敵襲……。ぐぎゃ」


 「敵は4匹だ! 取り囲んで倒すんだ……。ぶぎゃ」


 「誰が4匹だ! 幸介! 助けに来たぞ!」


 最後の言葉は演技であった。最終的に逃げる予定である俺たちだが、これで、捕虜を奪い返しに来たという戦いの目的が、敵にしっかりと伝わる。本当の目的はゲック・トリノ城だが、シュタイン砦でレイラたちを足止めさせるためにも、この言葉が必要だった。


 こうして俺たちと砦を守るゴブリン軍との乱戦がはじまった。


 味方は攻撃隊の4人と遠距離射撃を続ける蛍の5人。ルークは蛍の補助で、攻撃には加わっていない。敵の数は不明だが、見える範囲だけでも100匹以上はいるし、次々と門から出て来ていた……。



    ◆◇◆◇◆◇



 シュタインは、まだ、全体像が見えず、どうすればいいかの考えがまとまらなかった。


 放った家畜が捕虜を連れて来る報告は受けている。それが暴れ出したからといって、敵襲にはならない。では、敵とは? いったい誰に攻められているんだ?


 シュタインは、腕を組みながら部屋のなかでの行き来を繰り返し、敵の姿を確認させにいった兵が戻ってくるのを待っていた。


 ドアが開き、シュタインが目をやると兵士が敵の正体を報告する。しかし、シュタインは自分の耳から入る言葉が、俄かには信じられなかった。


 「シュタイン様! 家畜が……、家畜です。言葉を喋る家畜たちが門に……。味方に甚大な被害が出ています」


 「な、なに……。て、敵は、家畜……か……!? そ、それで数は?」


 「はいっ! 門の前で暴れている捕虜と東から4匹です」


 「よ、4匹だと……。バカモノッ! そんなもの、さっさと片付けんか!」


 家畜どもが攻めてきているということを聞いたシュタインだが、敵の数を聞いて激怒する。


 シュタイン砦には、ゴドルフ様から預かった2000を超える兵がいる。それがたった家畜4匹に手こずる訳がないと、声を荒らげた。


 「しかし……。東の林から矢で攻撃され、東側の見張り台は全滅してます」


 「林に潜んでいる敵の数は?」


 「分かりません。あちこちから相当数の矢を撃たれています」


 シュタインの頭の中では、かつて自軍の偵察隊をあっという間に全滅させた金髪と黒髪の女の姿が蘇り、背中に嫌な汗が流れる。『まさか、あいつらが……』と考えたシュタインは、恐る恐る兵士に確認する。


 「そ、そ、それで、そのなかに、金髪と黒髪の女がいるのか?」


 「金髪と黒髪ですか……。あっ、門に攻めてきている敵に金髪の女がいます。黒髪の女は見ていません」


 「くっ……。やはり、そうか。あいつらがいるんだな……。黒髪のヤツは林の中だな」


 シュタインは敵のなかにあの2匹がいることを確信し、組んでいた右手を解いて、おとがいにあて、ここで自分がすべき最善策を考える。


 「よしっ! ゲック・トリノ城に伝令を送れ。ゴドルフ様に報告するんだ。数は不明だが、家畜どもの軍勢に攻められていると。それと、オークだ! オークに戦わせろ。そして一刻も早く蹴散らすんだ」


 「はっ!」


 兵士が去り、ひとりになったシュタインは、激怒したゴドルフの顔を思い出して身震いした。


 なんとしてでも砦を守らなければ……、待っているのは粛清……。


 恐ろしい未来を見てしまったシュタインは、大きく首を振って、愛用の槍を持ち、ひとつ気合を入れてから、戦場へと向かった。


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