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世紀末の七星  作者: 広川節観
第三章 乱れる世界
53/293

53 ゲック・トリノ城攻略戦③ ~シュタイン砦への奇襲~

 「おい、待て。あれを見ろ」


 小高い丘を越えようとしたところで、前を行くダスティンが右手で皆を制した。


 すぐさま足を止めて屈み、ゆっくりと俯せになる。丘の上から前方を覗くと、眼下に広がる景色の先に、大きな砦らしきものがある。


 距離としては、まだ2キロ程度先で、レイラたちもゆっくりと、そちらに向かっている。


 「あれがシュタイン砦か?」


 「そうみたいだな。ほたる、確認の矢を!」


 「うん」


 「シュバ」


 蛍が放った矢は、レイラたちの少し前を通り、海へ落ちた。レイラも幸介もそれに気づいた様子も見せずに、前を向いて進む。もちろん、大げさにリアクションをしないように打ち合わせてあるからだ。


 しばらく、そのままの状態で、様子を伺ったがレイラたちの近くには敵らしい影は現れず、作戦決行の合図を送ることに成功したと判断し、俺たちも動き始める。


 「見ろ。東のほうに、絶好の雑木林がある」


 ダスティンが指差した雑木林は、シュタイン砦から東に500~600メートル離れた今回の作戦には絶好の場所にあった。砦の周囲は、東の雑木林以外は、見通しがいい草原だったため、ほかに選択肢はなく、俺たち6人は雑木林に直行した。


 雑木林の広さは、南北におよそ100メートル、東西には30メートル程度。砦までの距離といい、蛍が射撃する場所としても、『釣り野伏せ』を使う場所としても絶好の条件を備えていた。


 『釣り野伏せ』は、まずは敵を林の中に誘い込み、東西30メートル程度の林から追撃隊の後衛が少し出たところで反転。300メートルくらい離れた丘の上から蛍が敵を狙い撃ちして、殲滅する作戦だ。


 蛍が射撃する予定の丘は、追撃隊の横腹を攻撃できる位置関係だ。つまり追撃隊が林から出て、縦に長く伸びれば、どこでも狙えることになる。


 俺たちは作戦の打ち合わせを終え、雑木林に隠れて、シュタイン砦の様子を伺う。蛍は、ここで、ルークたちと林のなかの射撃ポイントのチェックへ向かった。


 ダスティンが前方で監視し、その後ろで、俺とキャサリンが腹這いになって、時を待った。


 「キャサリン。大丈夫か?」


 「……ありがとう。でも、心配、御無用でござる」


 「ござるねぇ。前から思ってたんだけど、キャサリンはそのほうが力が出るのかなぁ?」


 「うーん。でも、気合を入れるでござるよ」


 「アハハハハ。じゃあ、まあ、ござるは解禁ってことで。あとで幸介にバレても、俺がなんとかするよ」


 「達也は裏切り者ゆえ、信用できないでござる」


 「まあ、そう言わずにさ。この戦いはベストでいきたいから」


 「仕方ないでござるな。了解でござる」


 これは、前から思っていたことだが、キャサリンは、武家言葉を使っているときのほうが攻撃にテンポが出る。普通より少し高く飛べ、少し速く手裏剣を投げられると俺は考えていた。


 もしかすると、はじめに、颯爽と現れて救われたときの印象が強いからかもしれないが、ゴブリンたちを倒したときの跳躍の高さと攻撃の鋭さは、アノマロカリスと戦ったときには見られなかった。それがずっと引っかかっていたのだ。


 今回は幸介もいないことだし、ダメ元で解禁してみることを提案すると、キャサリンは、ひとつ頷き、目を輝かせながら、シュタイン砦を見つめていた。



     ◆◇◆◇◆◇



 シュタイン砦は、ほぼ平地に建てられていた。


 砦といっても要塞のようなものではなく、どちらかというと日本の戦国時代の平城に近かった。すべて木造で、四方に3~4メートルほどの高見櫓のようなものを備えた、どちらかというと街ではなく、村という感じである。


 見える範囲での広さは、300メートル四方といったところか。奥がどうなっているのかは、ここからではよく分からないが、外見と大きく違うとは思えない。


 人類が作った二重城壁とは、材質、構造がまるで違っていて、軍事的な防御力では雲泥の差がある。この程度の砦であれば、たとえば100人規模の軍勢でも、火矢を放てば、一気に攻め落とすことも可能だろう。


 これが、俺が、シュタイン砦を観察した印象であった。


 さらに、見える限りでは堀はもちろん、空堀さえもない。門の部分だけは高さ1メートル程度のなだらかな登り坂があるだけだ。


 やはり、攻められることを想定していないのだろう。本拠地に最も近い砦がこれということは、人類はとことん舐められていたのである。



     ◆◇◆◇◆◇



 やがてレイラたちがシュタイン砦の門の前に到着すると、数匹の槍などを装備したゴブリンがレイラたちの前に現れる。


 と、そこで、幸介が作戦を決行。縛られていた縄を引きちぎり、近寄って来た3匹のゴブリンに正拳付きをお見舞いする。


 「バシッ! ドカッ! ドカッ!」


 何が起こったのかさえも分からないような、早業で繰り出された正拳付きは、回りのゴブリンたちも巻き込んで一緒に吹っ飛ばす。


 「た、たいへんだ! 捕虜が暴れだした。みんな出てこい。こいつを捕り抑えろ」


 「お前らなんか、俺様の相手じゃねーよ。ふんっ!」


 「ドカッ! バキッ!」


 「ぐぇ」


 「こ、こらっ。家畜。な、なんとかしろ! ぐぁっ!」


 「くっころ」


 慌てたゴブリンたちが門から次々と出てくるが、幸介の回し蹴りの餌食になっていく。ただ、ここでレイラが動き、ゴブリン達に取り囲まれるなかで、戦いは幸介対レイラという形になっていく。


 遠くで様子を伺っていた俺は、蛍に声を掛ける。


 「はじまったぞ。ほたる準備は……って」


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 もう撃っていた。


 俺が、後ろを振り返ったときには、蛍は攻撃を開始していた。そして、すかさず移動する。一か所から撃つよりも、数か所から撃ったほうが、敵がこちらの兵力を見誤って、混乱するからである。


 蛍が放った第一撃は放物線を描きながら、門の前に出てきていたゴブリンどもを始末する。


 「ぐぇ」


 「うがっ」


 「がぼっ」


 「ぐぎゃっ」


 「くっころ!」


 初撃のうちの1本は、レイラによって叩き落されるが、これも計画通りで、レイラもゴブリンと同様に狙われたが、自力で防いだと思わせるためだ。そして、その間は、レイラに対応しないで済む幸介は、ゴブリンに矛先を向けて、拳を打ち込む。


 「っ! 今度は矢だ。矢が飛んできたぞ。敵襲だ。戦闘態勢を取れ!」


 「見張り台。反撃しろ!」


 門から次々と出てくるが、何もできずに倒されるか狼狽えるゴブリンども。東側の櫓へ大声が届き、そこにいたゴブリンたちが敵の姿を視認しようと前へ出てくる。


 しかし、すぐさま……。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 「なにっ! どこから撃ってきて……。ギャーーー」


 「こっちも矢を撃たれてるぞ。ぐぇっ」


 「敵襲だ。敵襲。うがっ」


 「兵だ。兵を向けろ。がぼっ」


 「東だ。東の林からだ。撃て。ぐぎゃっ」


 蛍の第2撃は、敵の動きよりも早く、櫓から顔を覗かせたゴブリンたちを次々と射止めていく。そして今度は門の周辺で戦う幸介の援護としての矢がゴブリンたちに降り注ぐ。


 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」

 「シュバ! シュバ! シュバ! シュバ! シュバ!」


 位置を移動しながら、櫓の敵と門の敵を正確に射止めていく蛍。


 飛び出すタイミングを計っていた俺は、これなら確かに大軍勢がシュタイン砦を攻めているように見えると考えていた。


 そして、ひとりでそれを成し遂げている蛍の凄さを改めて感じ、目前に迫った出番に武者震いするのだった。


 隣でキャサリンが今にも飛び出しそうになっていたが、飛び出すタイミングはダスティンが決めることになっていたので、俺は、キャサリンの肩に手を乗せて、『まだ、まだだ』と小声で呟く。



     ◆◇◆◇◆◇



 「外が騒がしいな。何かあったのか? お前、見てこい」


 「はっ!」


 自室で、酒を飲んで、寛いでいたシュタインは、回りの騒音に気が付き、お付の手下に命令を下す。しかし、命じられたゴブリンが部屋を出ようとするより先に、肩で息をしたゴブリン兵が、ノックもせずにドアをバンッと開ける。


 開け放たれたドアに目をやり、眉を顰めたシュタインが兵士に注意を促そうとするが、遮られてしまう。


 「ノックくらい……」


 「た、大変です。シュタイン様。敵襲、敵襲です。矢が、矢が」


 「な、な、なんだと……」


 シュタインは必死になって、敵の姿を思い浮かべようとする。東の獣帝国(ビーストエンパイア)軍か? 北の竜王国軍か? しかし、何故やつらが、こんな南にある砦を……。攻めるなら本城だろう。


 「敵っていうのは、なんだ?」


 混乱したシュタインは、間抜けな質問を兵士に返してしまうのであった。




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