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世紀末の七星  作者: 広川節観
第一章 世界の秩序と混沌
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05 「ござるっ娘」の秘伝?

 眩しい光をその身いっぱいに浴びて、右手を左胸辺りに置き、左手を腰の後ろにつけ、片膝をついて決めポーズを取っていた忍者、いや、くのいちが、低めのポニーテールにまとめた金髪を誇らしげに揺らして、振り向いた。


 髪止め用の桜色のリボンが、そよ風になびいている。


 上下は、濃紺で桜色の縁がついたノースリーブとホットパンツに、ミニスカートのような前垂れ。


 上腕から手の甲までを濃紺の手甲で覆い、結び目には桜色の紐が垂れている。脚絆(きゃはん)も手甲と同じ濃紺に桜色の紐。


 頭巾、マスクはしていないが、桜色のマフラーで口元を隠していた。


 見える範囲の武器としては、革製の帯に棒手裏剣やナイフ、そして、ガーターベルトには打根──回収できる紐がついた投てき武器──らしきものが収まっていた。


 ひと目みて、「コスプレくのいち」と思ったが、小柄ながら抜群のプロポーションと「カメコ」が群がりそうな着こなし、さらに助けてもらった恩人なので、それは口にしないことにした。


 「無事でござるか?」


 「あ、ありがとうございます。助かりました」


 意識はあるようだが、放心状態の蛍の肩を抱き、答えが返ってこないのは知っていたが『大丈夫か?』と声を掛け、近くの木を背もたれとして座らせながら、俺は礼を言う。


 口元を隠していたマフラーを下げて、ニッコリと笑ったくのいちは、こちらに近づき、青い瞳でジロジロと俺たちの恰好を観察しはじめた。


 しばらくして、何か思い当たったのか、瞳をキラキラさせながら、信じられないことを訪ねてきた。


 「おふたりは、幸介殿のご学友でござるか?」


 「えっ! 幸介!? 東玉校3Bの久坂幸介を知ってるんですか?」


 「やはりでござったか。某の目に狂いはなかったでござるな。幸介殿ならその辺にいるはずでござる。…………おっと、それなら早急にひとつお願いがあるでござる」


 「お願い? なんですか?」


 満足そうに胸を張り、そのあと、くのいちは俺の耳元に顔を近づけ、秘密のお願いを伝えようとする。


 ジャスミンの香りが鼻孔をくすぐり、俺は『近い、近い』と胸がドキドキして、頬が赤くなる。


 しかし、そんなことはお構いなしに、くのいちは耳元に暖かい風を送りながら話しはじめた。


 「某は世を忍ぶ、影の者。それゆえに、幸介殿には決して、某が語尾に『ござる』をつけていたと言ってはいけないでござる」


 「えっ! えっ! なに?」


 世を忍ぶ影の者だから『ござる』を使っていたと言ってはいけない?? 言ってることがめちゃくちゃで、『意味不』だという顔をしていたら、くのいちは、俺の眼を直視し、刺すような眼差しで念を押してきた。


 あぁ、瞳の奥に吸い込まれる……。


 「いいですな。約束ですぞ。秘伝でござる!」


 秘伝?? これは……秘密にして伝えるな! って、ことか? 普段なら『それは秘密を伝えることですよ』と突っ込んで訂正する俺だったが、くのいちの瞳には、それを許さない強さがあったため、『わかりました』と言うしかなかった。



     ◆◇◆◇◆◇



 「おーい、キャサリーン! どこいったー。キャサリーン! どこだーー」


 遠くから聞こえてきたのは、まぎれもない悪友の声だったが、それに答えたキャサリンと呼ばれたくのいちは、今までとは打って変って、かわいく手を振り、これでもか! と女の子らしさをアピールしだした。


 「幸介さん、ここ、ここ、ここですわー。ご学友が見つかりましたよ。早くいらしてくださぁーい」


 「はぁ??」


 これが秘伝(・・)ってやつ?? という疑問が頭をよぎったが、走ってくる人影に集中し、今はそれどころではなかった。


 「幸介! 幸介なのか!」


 「おう! 達也! ほたるも! 無事だったのか!? いったい、どこほっつき歩いていたんだよ」


 「おまえそこ、よかった! それにしても、なんだその恰好は!?」


 お互いが口にした疑問には、答えようともせず、甲子園で優勝したバッテリーのように、『ガシッ!』と抱き合い、互いの無事を確かめ合う。


 幸介が、表面に鉄のエンブレムがついている革鎧を着けていたため、俺のブレザーの金ボタンと触れ合ふたびに、カチャ、カチャと音が響いていた。


 腰には短剣(ショートソード)──70センチ程度の歩兵が使う武器──を携えていて、左の腰に柄頭が覗いていた。


 やっと忌まわしき呪い(ゴキブリショック)から復活した蛍も、幸介がそこにいることに驚いて、『コー君!』と叫び、涙でそよ風を濡らしながら駆け寄ってくる。



     ◆◇◆◇◆◇



 3人で輪になり、何度『よかった!』といい、何度、再会と無事を確かめ合ったことだろう。


 キャサリンはそんな姿を見て、にっこりと微笑んでいた。


 周囲を警戒しながらも……。


 「幸介さん。お気持ちは分かりますが、あまり、ここに長くいると危ないですわ。あいつらが大勢で襲ってくるかもしれませんし」


 「おう、そうだな。話したいことは山ほどあるが、まずはここを離れて、街に戻ろう」


 「そうね」


 「ああ」


 もちろん、蛍と俺も異存があるわけもなく、キャサリンが笛を吹いて呼んだ馬に、幸介が俺を、キャサリンが蛍を後ろにしがみつかせて移動を開始した。



     ◆◇◆◇◆◇



 風を切りながら走る馬上で、幸介が後ろに向かって大声を上げた。


 「ほんとに、おまえら1か月も、よくその恰好で無事だったな!?」


 「えっ!! 今なんて? 1か月?」


 「まぁ、いいか、そんなの。無事だったんだしな。おまえたちに会えたんだ、キャサリンと、狩りに来て正解だったな。ガハハハハハハハハハ」


 俺の驚きの声は、馬上の風にかき消されたのか、パニックになる俺をよそに、幸介はいつものように、豪快に笑ったのだった。



※ちなみに、タイトルは「ござるっこ」です。

※「カメコ」とは、アイドル、コスプレ女子などの写真を好んで撮影するカメラ小僧の略称です。

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