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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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48 それぞれの思い

 ゲック・トリノ城攻めに何日掛かるのか、いや正確には、何日掛けて行って戦い、何日掛けて戻るのか? 食料はどのくらい必要なのか? 途中から二手に別れることになるが合流するのはどのタイミングで、いつ第3拠点を攻めるのか?


 3人ともに、キャサリンのほうへチラチラと視線を送りながらも、決めなければいけないことを話し合う。


 皆から視線を送られていたキャサリンは、まだ、思いつめた表情のまま、心ここにあらずの状態で、時おり手を頭の後ろに持っていき、ポニーテールの髪を前に流しては、ゆっくりと撫でていた。


 それでも話し合いは進み、次のようなことが決まっていった。


 まず、出発は明後日の夜明け前、4時に外門に集合。


 その日中に、およそ400キロある全行程の半分以上、具体的にいえば、敵の第1の拠点があるブルーリバーの北250キロ地点。そこまでは、馬で一気に駆け抜ける。これはすぐに決まった。実際には少し手前の245キロ程度で、敵に気づかれない場所を探しての野営となるだろう。


 そのあとは、レイラたちと俺たちは別行動となり、1日で50キロを目安として進む。つまり、2日目の朝に第一拠点を通過して、2日目の夜には、レイラたちは第二拠点で留まってもらい、俺たちも周辺で休む。


 意見が分かれたのはそこからだった。


 第3拠点を攻めるには、俺たちの主力となる攻撃、蛍の射撃を考えれば明るいほうがいい。だが、そこで『奇襲なら暗闇のほうがいいんじゃないか?』という案も出る。


 そして、話し合いの結果、最終的には、知らない土地での戦いは、辺りが暗いと不利だという理由で、皆が納得して、攻撃開始を昼過ぎに決めた。


 第3拠点攻めの時間的タイミングを合わせるには、第2拠点を3日目の朝早く出発して、その日の午後の陽があるうちに、第3拠点に着いて、攻めるという流れである。


 それから先は、状況によって、変化はするが、レイラたちには、第3拠点で2泊してもらい、出発から5日目の朝に拠点を出発。本拠地には、5日目の夜に到着するように動いてもらう。


 そして、俺たちは、3日目の午後に第3拠点を攻撃したあと、すぐに移動を開始して、遅くても5日目の昼ころまでには城周辺まで行き、夜が更けるのとレイラたちの到着を待って、突入を開始する。


 これで、先に打ち合わせておく行動日程は決まったが、途中で思わぬアクシデントに見舞われることもある。そこで、とにかく、俺たちのほうが先に到着し、城への潜入を開始するのは、レイラたちが来てからだということを、最後に確認し合った。


 そして、俺たちが周辺に潜伏しているかどうかの合図は、レイラたちの回りに敵がいないことが前提だが、蛍の遠距離射撃の矢で知らせることにした。つまり、レイラたちが拠点や城に近づき、近くに矢が飛んで来たら攻撃準備は整っているということである。


 こうして、行きの行程は5~6日で、帰りは、状況にもよるが、作戦が成功していれば、2~3日で帰還できるとすれば、戦いに要する全期間は10日前後となる。


 次に食料の話となり、少し余裕を持ち、俺、蛍、キャサリン、ルーク、ニコラスの5人が12日しのげる分をルークたちに用意してもらうことにした。


 水は途中でも補給できるということなので、それぞれが軽い木に漆で加工した水筒を所持し、ルークたちには少し予備の水を持ってきてもらう。


 途中で別行動となる、幸介とレイラの分は、敵の拠点で補給できるだろうから、問題ないだろうということになった。


 食料の内容としては、燻製肉、チーズ、固く焼いたパンなどで、味気ないものばかりだが、仕方がないと誰も不満を口にはしなかった。


 「うん。そうね。その行程で行きましょう。それと食料とか水も、それで大丈夫だよね。じゃ、あたし、ちょっとルークを探して、お願いしてくる」


 依然として虚ろなキャサリンを含めた俺たちの話し合いが一段落つくと、蛍は、作戦を実行する鍵である、ルークの説得という難題をクリアしようと席を立つ。


 「ほたる。俺も行くよ」


 キャサリンと幸介を、ふたりきりにしたほうが良さそうだと思った俺は、蛍に声を掛けると、蛍もすぐに気が付いたのか、幸介のほうを見ながら、少し間を置いて了承する。


 「そう。うーん。じゃ、お願い。幸介たちは少し、ここで待っててくれる? すぐに戻れると思うから」


 「おう。分かった」


 『作戦を決行するかどうかの重要なことだからな』とは、口に出しては言わなかったが、幸介は目でそう語りかけ、しっかりと蛍の目を捕えていた。


 蛍も真剣な表情で、ひとつ頷き、食堂を出る。俺も幸介と視線を交わし、そのままチラリとキャサリンのほうへ視線を送り、蛍の後を追った。


 この世界に俺と蛍がいない間、キャサリンと幸介は、ふたりで生きてきた。いや、キャサリンは、幸介がいない間はひとりで、それこそ絶望的な毎日を送ってきたのだろう。しかし、今回、幸介が捕虜になるということで、キャサリンが心の奥に締まっていたその恐怖が、今、じわじわと滲み出しているのかもしれない。


 ゴブリン攻めは、レイラの解放を目指すもので、結果的には、キャサリンが心に傷を負う形になってしまっている。そして、今回の作戦を成功させなければ、レイラに笑顔が戻ることはない。


 自ら、捕虜になることを志願してまで、レイラの早期解放を願った蛍。その願いを汲み取り、戦術的に正しい道を選んだ幸介。


 今、俺にできることは……。


 蛍は、俺のほうを振り返ることなく、まっすぐに前を向き、ルークの元への歩みを速めた。



     ◆◇◆◇◆◇



 廊下ですれ違ったメイドに、ルークは自分の部屋で待機してることを聞き、蛍はルークの部屋をノックする。なかから『どうぞ』というルークの声が聞こえてきて、蛍はゆっくりとドアを開けた。


 「せ、聖母様。どうなされたのですか? 何かありましたか?」


 鎧を脱いで、部屋で寛いでいたルークは、突然の俺たちの来訪に目を丸くした。蛍は、ひとつ会釈して、部屋に入り、いきなり本題に入っていく。


 「ねぇ、ルーク。あなたたちは、前に物言わぬ壁と言ってたわよね?」


 「はい。その通りです」


 「いつでも、どこでも、あたしを守ってくれるんだよね?」


 「もちろんです。聖母様に、危険が迫れば、命に替えてもお守りします」


 「そう。じゃあ、あたしたち、ちょっと外にお出かけするから、何も言わずに着いてきてね」


 「えっ!? それは、どこに行かれるのですか?」


 「あれっ? 物言わぬ壁なんだよね? ふふっーん。……えーっと。それで、長旅になるかもしれなから、5人で12日分の食料と野営用の道具一式。水は少し多めにね。それと、今、ブルーリバーにある矢は全部持ってきて。あっ、的はいらないから」


 「それは、どこへ、何を……」


 「はい。そこまでね。うふふふっ。出発は明後日の夜明け前。装備を整えて、ニコラスと一緒に外門の周辺に集合ね。いちおう念を押しておくけど、エドワードさんには、内緒だよ。これは、お願いというか、命令だからね」


 「…………、わ、分かりました」


 ルークは、始終困った顔をして蛍の言うことを聞いていたが、エドワードに内緒と言う蛍の真剣な表情を見て、眉間に皺を寄せ、不承不承ながらも、首を縦に振る。


 「そう、良かった。では、お願いします」


 時折笑顔を交えては、畳掛ける蛍の攻めに、たじたじとなったルークを見て、さすがは蛍だなと思ったが、視線を落とすと、握っていた蛍の手が微かに震えていた。


 最後にルークに、笑顔のまま頭を下げて部屋を出た蛍は、下を向きながらぼそりと呟いた。


 「ごめんね、達也……。あたし、我儘だよね」


 「ああ、そうだな…………。なあ、ほたる。ゴブリンどもに英雄様の恐ろしさを見せてやろうぜ!」


 肩を軽く叩きながらそう言うと、蛍は驚いた表情で、俺の方へ顔を向けて、コクリと小さく頷くのであった。


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