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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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47 移動ルートと戦略

 人質を取り、7人目の英雄レイラを捕え、裏切ると発動する術を掛けて、蛍を狙わせたゴブリン軍。


 奴らの本拠地ゲック・トリノ城は、ブルーリバーの北、直線距離で約400キロメートルの海岸沿いにある。


 ブルーリバーからゲック・トリノ城へ向かうには、海沿いを通るルートと、北東約100キロ地点に広がる森林地帯を抜けるルートがある。


 今回のような奇襲作戦では、本来なら、少し遠回りとなるが、敵に見つかりにくい森林ルートを選ぶのが定石だ。


 しかし、レイラからの情報では、森林地帯は東の獣帝国(ビーストエンパイア)の領土に近いため、ゴブリン軍の拠点が点在していて、定期的な巡回も多いという。


 ちなみに、俺と蛍が、最初に中央世界(セントラルワールド)に来たときに、ゴブリン兵たちと遭遇したのも、この森林地帯の南側であった。


 逆に海沿いのルートは、見通しは良いが、城までの道中にある敵の拠点も少なく、その数は全部で3か所であった。最も本拠地に近い砦には、見張り台もあり、兵の数も多いが、その他の2か所は、木の柵で囲まれたなおざりなもので、検問の兵士が数名いるだけだそうだ。


 別の言い方をすれば、ゲック・トリノ城に最も近い拠点だけが、軍事的な機能を持った砦といえるもので、ほかのふたつは、村とか見張り小屋といってもいい程度のものである。


 これは、ゴブリン軍も獣帝国(ビーストエンパイア)軍のキャット・タウンと同じように、まさか壁の中に籠っている人類が攻めてくるとは、思っていないからだ。


 つまり、敵は軍事防衛的には、人類を舐めきっていて、西側の海沿いには、兵力をまったくいいほど割いていなかったわけだ。今回、俺たちが立てた作戦では、この状況が、大きなアドバンテージとなった。


 また、海沿いのルートを通った場合、各拠点までの距離は、すべてブルーリバーからのもので、第1の拠点が約250キロ。第2の拠点は約300キロ。第3の拠点は約350キロであった。ブルーリバーから北に250キロ進んだあとは、50キロ起きに拠点があり、最後の拠点から城までも50キロということになる。


 つまり、250キロまでは、移動手段として馬が使える。


 これが海沿いのルートを選んだ理由のひとつでもあった。ただ、レイラと幸介が馬で移動しているところを敵に見つかると、途中から徒歩になるのは怪しまれる。第1の拠点に入る前に、馬を捨てて、徒歩に変えてもらう予定である。


 もちろん、それは、追いかける俺たちが、敵の目が多くなる地域では馬を使えず、レイラたちに馬で進まれたら、追いつけないためであった。


 「そうね。ルートは海沿いで行きましょう」


 幸介がレイラに護送されるというショックから立ち直れていないのか、あまり話を聞いていないようなキャサリンをチラリと見て、蛍が組んでいた両手を解いて、指を組み、ひとつ伸びをして、そのまま手を前に出す。


 始終、ほかのことを考えているようなキャサリンを含めた俺たち4人は、それまでに得られた情報を元に話し合い、レイラが幸介を連れて行く護送ルート、俺たちから見れば奇襲作戦の移動ルートを、海沿いと決めた。


 「それで、あたしたちは、どうやってふたりを追跡して、3つの拠点を抜けるかが大切よね」


 「ああ、そうだな。本来ならひとつずつ拠点を落として進むのが、戦争だからな。しかし、今回の作戦は、隠密行動の奇襲作戦。いかに城に潜入するかが、大きなポイントになるな」


 普通に攻めるのであれば、本拠地までの各拠点を抑え、最も敵に近い拠点を陥落させて、そこを本拠地攻めの足掛かりとするのが良い。しかし、今回の作戦は少数精鋭の奇襲作戦。いかに敵に悟られないか、いかに動くかは、とても大切なことであった。


 「よしっ! じゃあ、こういうのはどうだ? 第1、第2の拠点は戦わずに通過する。それで、敵兵が多い第3の拠点では、敵が門を開けたときに、幸介が暴れる。このとき幸介は、できるだけ敵の兵力を削ぐようにする。同時に、蛍が、遠距離攻撃で、見張り台の兵をできるだけ片付け、俺とキャサリンで攻め込む。ただし、俺たちの攻撃は『振り』だけで、しばらくは戦うが、最後は逃げて、幸介も、わざとレイラに捕まる」


 「それは、なに? 攻め込む振り? 幸介がわざと捕まるの? それにどんな意味があるの」


 思いついた作戦を説明すると、紅茶で喉を潤し、小首を傾げた蛍が、第3拠点で攻める振りをする理由と、幸介がわざと捕まる訳を聞いてくる。


 「本当は、第3拠点も何もせずに通過してもいいんだが、第3拠点を過ぎれば敵の監視の目も厳しくなってくるよな。それで最悪なのが、第3拠点を過ぎて城との間で見つかることだ。そうなると城と第3拠点から挟み撃ちになる。これは避けたい。それと、幸介がわざと捕まるのは、敵にレイラを信用させるためだよ」


 「なるほど。そういうことね。確かにそれならレイラは、裏切っていないし、逆に敵には必要な戦力になるわね」


 「ああ。それで、第3拠点は攻め落とさずに逃げる。これが大切なんだ。いきなり南側で、城に最も近い拠点を攻められれば、敵は慌てるだろう。もしかしたら、城から援軍を送るかもしれない。もちろん、俺たちは援軍をやり過ごして、城への道を進む。そして、敵には、人類に攻撃はされたが、最終的には逃げた、撃退したと思わせるんだ。できれば、幸介たちより先に城の周辺に潜伏し、第3拠点を攻めたあと、敵の警戒が緩む2日後くらいに、城への潜入を決行するのがベストだろうしな。だから、俺たちが逃げたあと、レイラには、第3の拠点で、しばらく待機してもらう」


 「なるほどな。敵兵力の分散作戦か。敵の目を第3の拠点に向けさせておいて、本拠地へ潜入する。今回の作戦での俺たちの強みは機動力だからな。神出鬼没で敵を翻弄するのは、良いかもしれないな。それに敵がいくら警戒しても、すでに誰もいないんだから、疲れるだけだよな。おっ。それなら第1の拠点も軽く攻めるのはどうだ? 敵さん慌てるぞ! ガハハハハハハ」


 「いや、それは逆に危険だろう。2度も攻撃されれば、敵も警戒心を強くする。それに本拠地での決戦に力は温存しておいたほうがいい。攻めるのは第3の拠点だけで、最後は逃げるが、それまでは徹底的に叩く。蛍には拠点に向けて100本近い矢を撃ってもらうし、俺たちは、敵がわざと追撃できるように逃げて、追ってきた連中は、途中で反転して、蛍の援護のもと全滅させる。そうすれば敵は、きっとこっちの兵力を勘違いするはずだし、必死になって第3拠点を守ろうとするだろう。でも、そのころには、俺たちは、すでに本拠地へ向かっているって寸法だ」


 このとき、俺が語った囮作戦は、戦国時代に島津家が得意としていた『釣り野伏せ』の応用であった。『釣り』は囮となる部隊で敵を釣ることで、『野伏せ』は野に伏せる、つまり伏兵である。


 『釣り野伏せ』は、囮部隊で敗走と見せかけて逃げ、追撃部隊を味方の伏兵がいる場所まで誘導する。そして、機を見て囮が反転し、左右から伏兵が飛び出して、包囲殲滅する。


 本来は部隊を3つに分けて、1部隊が囮で、残りの2部隊が左右に潜んで、敵を包囲する戦術だ。


 ただ、今回の戦いに当てはめると、囮は俺とキャサリンで、伏兵は蛍(ルーク、ニコラス)だけ。普通に考えれば、とても満足の行く戦果をあげられない布陣なのだが、蛍には百発百中の腕がある。


 俺とキャサリンが反転して、追撃部隊の前衛と戦うころには、すでに敵の後衛は、倒れていることだろう。100や200のゴブリンなら全滅させることは難しくないはずだ。キャサリンも飛び道具で、前衛をなぎ倒すだろうから、一番の心配といったら、俺の得物が残っているのか? なのかもしれない。


 ちなみに、この『釣り野伏せ』という戦術は、島津家第16代当主・島津義久が編み出したと言われているもので、大友家と戦った耳川の戦いなど、数々の戦いで島津家に勝利をもたらした。言わば、『島津家のお家芸』ともいえる戦術であった。


 「それと、ほたる! 敵のなかにゴブリン以外のやつがいたら、先にそいつを倒してくれ。この戦いで、他のやつらの力が分かると、あとで戦いやすくなる」


 「ええ。分かったわ。ゴブリン以外を先に狙えばいいのね」


 「ああ。頼む」


 おそらくだが、追撃部隊には、ゴブリンより体が大きいオークが数匹いるだろう。そいつらを、蛍の一撃で倒せるかどうかは、本拠地での戦いの大きな指針になるので、蛍に念を押しておく。


 「いや、まてよ。第1、第2の拠点は少数ということなんだろ。全滅させてしまうのはどうだ? 全滅なら、味方の助けも呼べないだろ」


 幸介が何かに気が付いたように、身を乗り出して、少数の第1、第2の拠点も叩こうと提案する。


 「ああ。それは俺も考えたんだが、東にある拠点から、第1、第2に兵が来る可能性も考えないといけないだろう。そいつらに、第1、第2の拠点が全滅していることが見つかれば、自分たちが人類から攻められているという確信になるよな。敵の情報網がどれほど強力なのかが分からない以上、手を出したら、それが本拠地に伝わると考えたほうがいい。たとえば、第1を全滅させて、それが、しばらくして敵に伝われば、第3の拠点に、俺たちが攻めるより先に兵を送られたり、南側全域への警戒が強まる危険性が高くなる。戦いでは、敵が考える時間や兵を動かす時間は、少ないほうがいいんだ。だから喉元まで行って、いきなり攻めるほうが効果が高いと、俺は思っている」


 「うーん。なるほどな。お前、策士だな。たしかにお前の言う通りだろうな」


 「そうね。その考えは、納得できるわね」


 「キャサリンは、どう?」


 幸介と蛍の同意を得られた作戦だが、黙って皆の様子を見ていたキャサリンに、話を振ってみる。


 「……ええ。問題ありませんわ」


 どこか上の空のキャサリンの様子を見て、蛍に視線を送るが、蛍は、首を振って、ゆっくりと目を瞑る。おそらく、『今は、そっとしておこう』という合図だろう。


 「よしっ! では、基本戦略は、これでいいな」


 こうして、俺たちは、城への移動ルートと第3拠点を攻める(振りだが)戦略を決め、何日かかるかも分からない戦いに、ほかにどんな準備が必要なのかを、また、話しはじめるのだった。


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