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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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46 作戦

 その日は、蛍の様子が朝からおかしかった。


 何か思いつめたような感じで、いつものように訓練をしているのだが、どこか上の空といった感じである。


 理由は、夕食後の蛍の一言で理解できた。


 その日は、レイラは調子が悪いとかで早く部屋に戻ってしまい、エドワードは外出中で、食堂にはいつもの4人が残っていた。


 「ねぇ。あたし、もう我慢できない。こんなの続けられない」


 「…………だからって、どうするんだよ?」


 「ね、みんな、力を貸して。あたしたちで攻め込みましょう。レイラの恩人を救って、術を解かせに行きましょう」


 「えっ! ち、ちょ、ちょっと待てよ。今度の敵はアノマロカリスとは訳が違うぞ。敵も武器を持ってるし。それに、どんな術というか、魔法みたいなのを使ってくるか、分からないんだぞ」


 「そんなの分かってるわよ。でも、このままレイラと一緒にいて、毎日顔を合わせて、お風呂に入って、食事をして……。さっきだって……。もう、あたし、心が……」


 「……それは、分かるけど。なあ、幸介、お前はどう思うんだ」


 最後のほうは、言葉にならず、蛍は下を向き、苦しそうに胸を押さえて肩を震わせている。その様子を見て、俺は蛍に落ち着く時間を与えるためにも、幸介の意見を聞くことにする。


 「そうだな。敵がゴブリンだけなら、俺たちだけでも十分に戦えるだろうな。問題は他のやつらだな。まあ、本当なら、俺がいるんだから安心しろ! と言いたいところだが、さすがにマジでだと、軽くは流せねーな」


 「ああ、そうなんだよな。オーク、ドワーフ、ノーム。こいつらの強さが分からないことが一番大きな問題だよな。それと、俺たちだけで城まで、たどり着けるかどうかも、俺は問題だと思ってる」


 「ゴブリンの城までには、いくつか砦というか、村みたいなのがあるという話だ。ただ、そこにどれだけの敵がいるかは、分からないんだよな」


 幸介が、誰かから聞いたことらしいが、ゲック・トリノ城までの道中には、いつくかの敵の拠点があることを教えてくれる。


 「ほたる、落ち着きました? それで、ほたるには、何か、良い考えがあるんですの?」


 「ええ。上手くいくかどうかは、分からないけど、今はこれしかないと思ってる」


 心配したキャサリンが声を掛けると、蛍は顔を上げて、眉間に皺を寄せながらも、強い輝きを持った目で応じる。


 「どんなことだ。話してくれ」


 「ああ、そうだな。聞いてみないとな」


 「レイラに、城に凱旋してもらう作戦よ」


 レイラに城に凱旋? それはイコール、蛍が捕虜になることか? そんな作戦は、ダメだ。俺は、驚いて、すぐに声を上げ、幸介も蛍を睨んで、何か言いたげな表情になる。


 「えっ、ちょっと待て。それはダメだ!」


 「達也! ……幸介も待って。最後まで話を聞いてからにして」


 「ああ、分かった」


 ここで、蛍は大きく深呼吸し、身を乗り出して、一度、皆の顔を見回わす。そのあと、しっかりとした瞳の輝きのままで、つねに視線を3人の誰かへと向けながら、熱い口調で計画を話しはじめた。


 「まず、あたしが捕まって、レイラに連行される形で敵の領土を抜けていく。道案内はレイラができるでしょうし、最も敵が少ないルートを選ぶ。道中の敵も、王様への貢物に何かしてくることはないでしょうし、敵の任務を忠実にこなしているレイラとあたしは、確実に城まで、いえ、王の元までたどりつけるわ。それで、皆がこっそりと後をつけて、城へ潜入し、人質を救出して、そしてボスを人質に取るの。ボスさえ抑えてしまえば、あとはレイラの術を解かせられるだろうしね。それで、レイラにはこの作戦自体を内緒にして、術を発動させないために、味方として戦わないでもらう。できたら、敵としても戦いに参加してほしくないわね。これなら、裏切りにはならないはずよね。まあ、見方を変えると、敵を城に誘導してしまう、お間抜けさんになっちゃうけど」


 確かに、蛍が語った作戦、少数精鋭による奇襲作戦が上手くいけば、俺たちだけでも、敵のボスを抑えることは可能かもしれないし、本当の意味でのレイラの解放も実現できるだろう。


 だが、それは、あくまでも、すべて上手くいった場合だ。


 途中で俺たちが敵に見つかり、時間を取られたら、あるいは誰かが、大けがで動けなくなったり、城に潜入したはいいが、敵に見つかり、囲まれれば数で押し潰される危険性も高い。


 そして、それらの最悪の場合……、みすみす、蛍を竜人たちの実験台に乗せることになる。


 ほかにも、まだある。敵のボスが異常に強かった場合は、俺たちで抑えられるのかどうかも分からない。


 「やはりダメだ! 危険すぎる」


 握りこぶしで机を抑えながら、俺は蛍から視線を動かさずに、声を荒らげて立ち上がる。


 「じゃあ、達也は、他にどんな手があるって言うの?!」


 「いや、良い案はないけど……。少なくても、蛍が言った作戦よりは、レウさんたちが戻るのを待つほうがいいんじゃないか!」


 「レウさんたちって、……いつ帰ってくるの? その前に、レイラにもしもがあったら、達也、あんたどうすんの!」


 「まあ、待て! ふたりとも、落着けよ」


 立ち上がった、俺の目を、下からしっかりと見据える蛍。


 次第に熱くなっていく、ふたりの様子を見た幸介が、間に入り、俺は、次の言葉を飲んで、椅子に腰かけた。


 蛍は、ぷいっと横を向いたかと思うと、腕を組み、左手で右上腕部をさかんに叩いて、落ち着こうとしてた。


 蛍の詰問に答えられる訳はなかった。もし、人質救出とレイラを解放できる素晴らしい案があるなら、とっくに皆に話している。


 やはり、ここは人類最高知能を持つレウさんたちの帰りを待つのが、一番いい。それに、レウさんたちが戻れば、新しく強力な武器が手に入り、一気に勝てる確率が上がるはずだ。


 確かに、蛍が言うように、その前にレイラが……、というのはあるが。


 俺と蛍の言い合いを止めた幸介は、腕を組み、しばらくの間、目を閉じていたが、カッと目を見開き、両手でバンッと机を叩いて、立ち上がる。


 驚いた3人は、一斉に幸介のほうを向く。


 「よしっ! じゃあ、こうしよう。俺がレイラに捕まる。接近戦では俺がいちばん強いしタフだ。キャサリンと蛍は、遠距離から敵を狙ってくれ。今は、それが最も勝てる確率が高い。あと、蛍はなんとしても、ニコラスとルークに同行してもらうように説得してくれ。道中のことを考えると、味方は多いほうがいいが、あまり多くても敵に見つかる危険性が高いからな。ルークとニコラスが同意してくれたら、作戦を決行だ!」


 「幸介さん!!」


 キャサリンが目を見開いて、叫ぶ。蛍も、声を出すことはなかったが、驚いた表情で、幸介の顔を見ていた。


 幸介の言う通り、誰かがレイラに捕まるという作戦を決行するなら、4人の攻撃タイプや防御力を考えても、幸介が一番だ。それは間違いない。


 幸介なら敵に囲まれても、素手でも十分戦える。それに、すぐに倒される可能性は低い。超遠距離精密射撃ができる蛍や、投擲武器で敵を倒せるキャサリンが援護に回り、俺が斬り込めば、幸介の退路を作るくらいはできるだろう。


 それにルークとニコラスが、同行していれば、最悪でも、蛍だけは逃がせる。おそらく幸介もそれを考えて、ルーク、ニコラスの同行を条件にしたんだろう。


 「幸介、本当に、それでいいのか?」


 「ああ、援護は任せたぞ! …………ビビるなよ! ガハハハハ」


 大きく頷く幸介に、言葉を返せなかった俺を見て、幸介は豪快に笑う。


 「分かったわ。ありったけの矢を持って行って、いざというときには絶対に助けてみせるから。それにルークとニコラスの説得も任せて。やってみせるわ」


 「おう、俺の命は任せたぞ!」


 「よしっ! じゃ、もう一度、細かいところをつめていこう!」


 「ええ、そうね」


 「幸介さん……」


 付き合いの長い幼馴染の3人は、言葉にしないでも分かり合える部分があり、ひとり取り残されるキャサリン。


 3人は、レイラにどう伝えるか、ルークたちをどう説得するのか、何をどれだけ持っていくかなど、作戦に必要なことの話し合いをはじめる。


 しかし、キャサリンは、話には入らずに、幸介の顔をじっと見つめ続けるのであった。


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