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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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45 もどかしい願い

 時刻がすでに10時を越えていたことに気が付いたエドワードの合図で、皆はそれぞれの部屋へと戻る。


 レイラには、窓のない個室が与えられ、警備兵が張り付いた。これはレイラを守るためではなく、軟禁するためである。


 蛍は『そんなのは嫌だ』と抵抗したが、エドワードは頑として首を縦に振らず、俺と幸介もエドワードの言い分を最もだと、蛍を納得させる側に回った。いつ術が発動して、再びレイラが、暗殺者になるかもしれない危険は、避けるべきだからだ。


 それでも、蛍は、抵抗していたが、最後にはキャサリンにも宥められて肩を抱かれて、しぶしぶと自分の部屋へ戻っていった。


 部屋のベッドに横たわり、薄暗い部屋の天井を見ながら、俺は考える。


 7人目の英雄・レイラがようやく口を開き、蛍を狙った理由と『くっころ』の謎は解けた。


 恩人の女性を人質に取り、決して裏切れない術を掛けて自由に操るというゴブリンの汚い手口。孤立無援のレイラには、従うしか道はなかっただろう。


 恩人との間に、何があったのかは分からないが、レイラは、彼女に助けられていた。レイラ自身が、はっきりとは、理解していなかったことで。


 『くっころ』しか語らない美少女。ゴブリンたちにとっては、竜人に売る、あるいは渡す価値のない者に映ったはずだ。もし、普通に会話をしていたら、おそらくレイラの命は、竜人たちの実験台の露と消えていた。


 彼女がレイラに教えた『敵に捕まったとしても言葉を喋ってはいけない』という決め事。これが、結果的にレイラの命を救っていた。


 ただ、レイラは戦闘能力が高かった。だからこそ、ゴブリンたちはすぐには殺さずに、裏切れない術を施し、刺客として蛍を狙わせたのだろう。捕まえるときに人質に取った女性さえも生かしておいて。


 ちなみに、これは、もう少しあとでレイラから聞いたことだが、狙っていたのは、蛍とキャサリンのふたりで、弓を扱う蛍のほうが楽だろうと考えて標的を決めたそうだ。


 レイラが蛍を狙ったという憎しみと絶望的であった7人目が見つかった喜び。相反する感情に、俺たちは大いに心を揺さぶられた。


 最終的には命を狙われた蛍自身がレイラへの憎しみを忘れ、心の底から喜んでいた姿に、皆が寄り添う形で、気持ちの整理をつけていた。


 ただ、話をするようになった今も、レイラの顔には、生気は戻っていない。


 それもそうだ。すでにゴブリンたちを裏切っていると考えている自分に、いつ術が牙を向くかも分からない。人質になっている恩人の安否も心を締め付け続けているだろう。


 レイラがゴブリンの本拠地を出てから、すでに1か月近くの月日が経過していたとも言っていた。


 レイラに笑顔が戻る日は来るのだろうか?


 今すぐにでも、人質を助け、術から解放してあげたいが、行動を起こすには情報が少なすぎた。敵の本拠地であるゲック・トリノ城の場所は分かっているが、そこまでの道中には、敵がどれほどいて、どんな罠があるかも分からない。


 「オーク。2メートルくらい。戦士。斧系の武器。強い。ドワーフ。1メートルくらい。槌系の武器。ノーム。30センチくらい。妖精のよう。術を使う。ゴブリン。兵士。怖くない。ゴブリンはたくさん。他は少ない。王はオーク。強さは分からない」


 最も多く、敵の情報を持っているレイラは、裏切り行為との境目がどこにあるのかが分からないために、慎重に言葉を選び、区切りながら、知っている限りの情報を話してくれた。


 俺たちも、敵の大多数の兵士であるゴブリンの強さは分かっている。しかし、レイラは、敵にはゴブリン以外にもオーク、ドワーフ、ノームがいて、王はオークだと言う。


 中心はゴブリンの兵士だが、他の種族の強さをどう測ればいいのか? 戦いとなった場合、落とし穴というか、気をつけなければならないことがあるのか、ないのか? そして、俺たちで戦って、勝てる相手なのか?


 敵との戦闘では、実際に戦ってみてはじめて分かった、なんてことは多々あることだ。


 オーク、ドワーフ、ノームといった連中は、元の世界のゲームやファンタジーでは定番と言えるような種族だ。しかし、それと同じレベルと考えていいものか? いや、ファンタジーやゲームでもタイトルによっては、まったく別のモンスターであって、強さや能力もそれこそ基準など何もない。


 もしも、その中に真実があったとしても、実物を見ていない状態で、どれだけ正確に敵の能力を掴めるのか。おそらく、こういうやつだと限定するのは無理だろう。


 もう一度確認しよう。今、俺たちが目指し、蛍はもちろん、おそらく皆が思案に暮れているのは、人質の救出とレイラの術からの解放だ。


 だが、それを達成するためには、情報が少なく、考えることはたくさんあり、明確な結論の出るものはなかった。


 結局、考えがまとまらないまま、次第に強まる睡魔に抵抗できず、その日は、寝入ってしまっていた。



     ◆◇◆◇◆◇



 翌日からの訓練は、少し変わったものとなった。キャサリンだけ俺たちと別れて、レイラと一緒に別メニューをこなすというものだ。


 メニュー内容は、キャサリンがレイラと戦い、最後はどちらかが逃げて終わるというものだ。もちろん、仕組んだ戦いであったが、それを知っている者は少なかった。


 街に被害が及ばないような配慮もした。共に得意な投擲武器を所持せずに、短剣と両刀のナイフでの接近戦だけという設定である。


 目的は敵の目を欺き、レイラが持つ爆弾を爆発させないことである。


 それが効果的であるかどうかは分からなかったが、レイラがオールコック邸を出る時も、辺りを警戒し、安全を確かめてからにしている。もちろん、戻るときも同じである。


 エドワードも朝から慌ただしく動き、特に外門付近を警備する兵士をいつもの倍に増やし、街への出入りの検問も強化していた。


 これで少なくてもゴブリン、あるいはゴブリンの手先が、新たに入ってくる可能性は低く、たとえブルーリバーに紛れ込んでいても、何度も戦っているが、勝敗はついていない。つまり、まだレイラは任務続行中というように見えるだろう。


 こうして、いつもの訓練を行いながら、人質救出とレイラの術への対応に、何の手段も見いだせないまま、レイラが蛍を襲ってから、2日が過ぎていった。


 2日目の帰り際、今日は、レイラが負けて逃げたようで、荒い息を整えて屋根から飛び降りて来たキャサリンと一緒に、オールコック邸に戻ることになった。


 「そういえば、キャサリン! この間の話だけど……。くのいちの服装はさ、レイラのほうが正しいんだけど」


 「またまた~。達也は、訳の分からないことを言って! わたくしが、前に棒手裏剣を当てたことを恨んでるんですか? 掠っただけですわよ。あーーー、それともスーパー能力を逃げ足と言って笑ったことですの?」


 「そ、そんなことはないよ。そんな前のことは気にもしてないから」


 「それなら、何で、そんな嘘を! わたくしは、そんなこと信じませんわよ! あんな黒づくめの衣装では、撮影される方に失礼ですわ」


 「えーーーと。まあ、そうだよね」


 「当たり前ですわ。くのいちを何だと思っているんですか。……達也は、少しお疲れのようですわね。レウたんがいないからかしら?」


 「アハハハハハハ」


 キャサリンの信念、といえるのかどうかは別として、かなり強い押しにあっさりと負け、『まあ、いいか』とあきらめる俺であった。


 仕方がないので、話題を変えて、訓練の話をキャサリンに振ってみる。


 「今日はレイラが負ける番だったんだね?」


 「ええ、そうですわ。レイラは本当に強いですのよ。スーパー能力アップはおそらく跳躍力ですわね」


 「そうなんだ?」


 「ええ。わたくしよりも高く跳びますもの」


 「えっ! それは凄いな」


 跳躍に関しては、元体操選手のバネを持つキャサリンが4人のなかでは頭ひとつ抜きんでていた。そのキャサリンよりも高くとなると、確かにキャサリンが言っていることは正しいのだろう。


 レイラは、元の世界ではバレーとかバスケとか高跳びとか、跳躍力が重視されるスポーツ選手だったのかもしれないな。


 「早く、レイラと笑いながら、いろいろなことを話せるようにしないとな」


 「ええ。わたくしも、早く笑顔を見たいですわ」


 目の前のオールコック邸の方を向き、顔を見合わせることなく、同じ願いを呟くように吐き出す、ふたりであった。


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