34 トリプルスリーの全貌
第七世界から来たレウたちよって、風呂での大手術(?)をされた俺であったが、脱衣場で着替えるときに、右尻をさかんに擦ったり、首を回して見てみたが、痛みはもちろんなく、かすり傷の跡さえもなかった。
そのあと、レウ、ラウラと一緒に、食堂に行こうとして、また幸介がボケでもかましたのか、お腹を抱えて笑うキャサリンと、高笑いする幸介を見つける。
ふたりもこちらに気が付いたようで、驚いた表情で、小走りにやってくる。
「おい、おい。達也! その人たちはなんだ? ナンパしたのか?」
「プッ! 幸介さん、達也にそんな甲斐性はないでしょ」
「ちげーよ。この人たちは、第七世界の英雄? あれっ、それでいいんでしたっけ?」
「ああ。ほら、これな」
レウが左上腕を見せ、ラウラもその声に合わせるように、腕まくりをして、七星刻を見せてくれる。
これは、後で蛍に教えてもらったことだが、レウは北斗七星、大熊座イータ星アルカイド(ベナトナシュとも言う)、ラウラは、大熊座ゼータ星シザールの位置に刻印があった。
「あんたらが、幸介しゃんと、キャチャリンちゃんやな」
「しゃん? しゃんって……」
「だ、誰が、キャチャリンちゃんですか!? わたくしはキャサリン・オールコックですわ。英雄だかなんだが知りませんけど、あんたみたいな子どもに、そんな小銭が落ちたような呼び方をされる覚えはありませんわよ!」
「こ、子どもやて!! あんたなー、うちのような大人な女性を捉まえて何言うてるんや。うちは成人式を、とーーに済ませてるわ!」
「まあまあ、レウたん、落ち着いて。ごめんさないね。お姉さんたちはね、あたしが知覧・ゲノム・ラウラで、こっちが妹のレウ。よろしくね。あーーあと、この子の成人式は、この前、終わったばかりだけどね」
「うーーー。ばらすなよな!」
ラウラがレウとキャサリンの言い合いを止めて、ふたりの肩に優しく手をかける。
レウさんって20歳だったのか。俺たちより3つ上……。この容姿だと14歳とか言われても、普通に信じるよな。
「まっ、なんかよく分からんが、新しい仲間が増えて、賑やかになるってことだな。俺は久坂幸介。幸介しゃんでもなんでもいいや。ガハハハハハ」
「ほらキャチャリンちゃん。見てみぃ。これが大人な対応や。よろしゅうな、幸介しゃん」
「うっーーーーー。ふん!」
「まあ、まあ、キャサリン。あんまり怒るとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ。この人たちというか、レウさんはこういう感じの人だから。俺なんてレウさんにかかったらビビリーナだぜ。まだ、キャチャリンちゃんや幸介しゃんのほうがいいよ」
どうせ、そのうちバレるだろう、レウに付けられたありがたくない二つ名を、いい機会だからと、ふたりに教えてしまう。
「プッ! ビビリーナ………。ギャハハハハハ。お似合いですわね」
「上手いなー。レウたん。ガハハハハハ」
『やっぱり大爆笑かよ!』と少しイラッとしたが、まあ、レウたちが英雄で中央世界に来た以上、隠せるものでもないし、遅かれ早からやってくるシーンであった。
「うんうん、そやろ。少しは洒落が分かるんやな。ほんなら、あんたらの二つ名は、どないしよう……」
「レウたん! それは、ここではなしね」
「そうなん? 残念やなー」
レウは、爆笑するふたりを見て、満足げに頷き、新しく幸介たちに二つ名を決めようとして、ラウラに止められる。そんな様子を見て、俺は苦笑いするしかなかった。
◆◇◆◇◆◇
レウ、ラウラを含めた6人での食事は、レウがひっきりなしに喋り、アノマロカリスの塩焼きについて、キャサリンとレウがやり合うなど、賑やかな笑い声が絶えなかった。
あまりに賑やかなので、メイドが心配しに覗きに来て、笑いを堪えて戻っていったほど楽しい時間でもあった。
屋敷の主であるエドワードは、コッテに行かなければならない用事が出来たと言ってまた出かけてしまい、この席にはいなかった。
食後のティータイムになり、食事前から、ずっと気になっていたことを、レウにぶつける。
「それで、トリプルスリーって、何ですか? なぜ俺の尻から、なんとかっていう鉱石が出てきたんですか?」
「うーん。そや! あんたら、未来の預言者が残した預言って知ってるか?」
「はい。エドワードさんに見せてもらいました」
どう説明するかを一瞬考えた様子のレウが、思い当たったのがあの四行詩だったようで、頷きつつ、知っていると伝える。
「そうか、そうか。そのなかにな、あるやろ? 天才が出てくる預言が!」
天才が出てくる預言、そんなのあったかと考えた瞬間に、蛍が相槌を打ち、俺は思考と会話の隙間に取り残された。
「あっ、あれですね。『燦々と光る鉱石、英雄とともに燦として輝くとき、ジーニアスが反撃の鐘を打つ、そのとき、鉄が光に変わる』ってやつ」
「そうや。さすがほたちゃんやな。それがトリプルスリーや!」
レウは、そう言い放つと、背筋を伸ばし、さほど大きくない胸を、これでもかと反らせて、誇らしげに胸を張る。
ほたちゃんと言われた蛍は、一瞬、眉間に皺を寄せたが、マリア姫ちゃんよりはましと思ったのか、目を閉じてコクッと首を落とし、あきらめたようで、特に怒ったり、突っ込むことはなかった。
レウと蛍の様子を見比べていた、幸介とキャサリンも苦笑いしながら、肩を竦めて、顔を見合わせる。
ようやく隙間から出られた俺は、ほたちゃんはスルーし、胸を張るレウに、素直な感想を伝えながらも、突っ込みを入れる。
「いやいや、そこで胸を張られても……。もう、少し噛み砕いて言ってもらわないと、理解できません」
「はーー、めんどいなー。なんで分からんの? 燦々が燦やで。3が3つでトリプルスリーやろ」
「えーーーー! そんなダジャレみたいなのが!?」
「ガハハハハハ。面白いこと考えるなー、未来人は」
「レウさんたちは、未来人じゃないし。でも、なるほどね。あの極星鉱は、達也と一緒に輝く必要があったし、レウさんがそれを使って武器を作るのね。でもリュウ兄さんだっけ? 彼はどこにいるの?」
俺が望んでも、説明を面倒がるレウに対して、蛍がいつものようにまとめて、リュウという彼女たちの兄の所在を確かめる。
「リュウ兄か……。もうどこにもいてへんよ……。たぶんやけどな。戻るだけのエネルギーはなかったんや。うちらの世界にも、当時はまだそれだけの力はなかったからな。計算上は無理や。それでも、チャレンジはしただろうな。そやから、居場所ってゆうたら、時の狭間とか無空間とかやろな……」
「えっ! 無空間って…………」
「ほたるちゃん。それはね。私たち第七世界の人間がやらなければならないことなの。だから知覧・ゲノム・リュウ、私たちの兄を含めた20人の部隊が、それをやった。ただ、それだけのことよ」
「……………………」
ラウラはただそれだけのことと言うが、そんな単純なことで済む話ではない。命を賭けてまで、成し遂げる必要があったこと。それがトリプルスリーなのか? 頭が混乱してきて、俺はどう整理すればいいのかが分からなくなっていた。
「そやな。そんでな、トリプルスリーっていうのは、ビビリーナはダジャレとか言ってたけど、ちゃんと意味もあるんや。まずな、第一世界に行って、ドラゴンを倒し、鱗を手に入れる。これがひとつめの3つの行動や」
「第一世界って、竜人たちの世界ですね」
「ああ、そうや、ほたちゃん。そんでな、どういう戦いがあったかは分からんが、なんでも部隊の半分はいかれてもうたみたいでな……。そんで、次がな、第六世界に行って、英雄を見つけて、鱗を体内に入れるんや。これがふたつ目の3つの行動やな」
トリプルスリーのふたつ目に登場する俺。体内というか尻だろ。いつ、そんなことをされたのだろう。そんな記憶はなかったが……。あっ! そういえば……、と脳裏によみがえってきた、あの青い空。幼い蛍がふたりと結婚するといったあの笑顔のあとの帰り道……。
「あーーーーーーーーーーーーーー、あのときか!!」
「なんや、ビビリーナ。突然大っきな声、出して。うちがビビってもうたわ」
「いえ、小さい時に気を失って、道に倒れていたのを近所の人に助けられ、気が付いたら、家で寝ていたというのを思い出して……」
「10年くらい前か?」
「ええ、そうです。ちょうど10年前です」
「そやったら、その時やろな。うちらの世界が異常に気が付き、対応策を取り始めたのが15年くらい前で、うちはまだ子どもやった。そんで、リュウ兄が第六世界へ行ったのは、10年くらい前やからな……」
「それで、レウさん。ふたつ目までは、分かったので、3つ目の3つの行動は、なんなの?」
冷静な蛍が、紅茶を一口飲んで、喉を潤し、途切れていた話の流れを元に戻す。
幼いころの蛍の満面の笑顔と、今の真剣な表情が、頭の中で何度も交錯する。あの時から、ずっと、蛍に惹きつけられていたんだなと、改めて確認して、俺は紅茶を啜った。
「おお、すまんな。話がそれてもうたな。で、最後が、うちが、ここへ来て、それを取り出して、武器を作る。これが3つ目の3。これで完成やな。3つの行動を3つ行えば完成する。これがトリプルスリーの全貌や! まあ、最後の最後の武器を作るはまだやってへんけど、ここまで来たら、天才のうちに失敗の2文字はないからな」
「なるほど……。預言からはじまったトリプルスリーって、そういう意味だったんですね。でも、竜の鱗がなぜ極星鉱になるんですか?」
「ええ質問やな。そこや、そこはうちを含めた研究者を悩ませた問題だったんや。でもな、さすがはうちや! 解決したでー。やっぱ、うちは天才やなー」
「いや、そんなに、もったいぶらないでください」
人差し指を立てて上下に振ったり、頭を抱えたり、さかんに身振り手振りを大きくして、最後に胸を張るレウ。軽く突っ込むと、レウは、顔をしかめ、両手を頭のツインテールにもっていって、ぶんぶんと振り回す。
「まあ、ええわ。英雄たちが『変遷』によってこの世界に運ばれるときに、能力が上がるのは知っとるよな!?」
「『変遷』? あなたたちもそう呼んでいるんですか?」
「ああ、そうや。なんや、ほたちゃんたちも、そうなんか?」
「ええ、あたしが仮につけたんですけど……」
「やっぱ、あんた凄いなー。思考レベルがうちらとよー似とるということやな。それは誇ってええで」
少し顔を赤らめた蛍だが、どうぞ続けてくださいと手の平を前に出して、レウに説明の続きを促す。
「ああ、すまん、すまん。またずれたな。それでな、どうして、変遷で能力が上がったかというとな、それは遺伝子の進化が、変遷のなかで起こっているんや。それも強化するような形でな。そんで、竜の鱗はどの生物のそれよりも固いやろ! そやからそれが遺伝子の進化によって、より固くなる。これが竜の鱗の進化系、極星鉱や。まあ、名称はうちがつけたんやけどな」
「あーーーなんとなくしか、分かりません」
「なんとなくも分かるわけないだろ、そんなの。ガハハハハハ」
「何を言ってるのですか? わたくしにはさっぱりです」
レウの説明が遺伝子の話になり、とてもついていけない俺を含めた3人は、それぞれに愚痴というか、正直にというか、とにかく分からないことをレウに告げて、視線を蛍に集める。
「えーっと。そうね。あたしも、なんとなくしか分からないんだけど、こういうことかしら? まず、変遷であたしたちの能力が上がったのは、遺伝子のなかのたとえば筋肉の強さを示す部分が、たとえばタンパク質とか酵素とか何かの物質と結合されたりして突然変異を起して、新しい強さを生み出した。それと同じように、竜の鱗も達也の体内で突然変異を起して堅さが強化されて、この世界に新しい物質として登場した。こんな感じですか?」
「そうやな。だいたい合ってるで。……そや! 遺伝子操作の技術やったら、たしか、あんたらの世界でも、筋肉が異常に発達した牛とか、身が大きな鯛とか作ってるやろ?」
「あっ、それなら知ってます。たしか、人工ヌクレアーゼとかいうDNA切断酵素を使って、目標とする遺伝子を破壊したり、挿入したりして造るとかいうやつですよね」
「そや! それがゲノム編集、遺伝子組み換え技術やな。ただな、それは人工的に遺伝子組み換えを行なっているので、生物の生態系の破壊とかの危険も伴う。無暗矢鱈とやることは、あかん。そこに地球環境を守るという頭がないとあかんな。いちおうそれは覚えとこうな。……そやから、変遷さんが行ってる個体が得意とする部分の遺伝子をさらに発展させている行為も、何かの危険があるかもしれんのや。まあ、この天才レウが見たところ、そこまでのことはなさそうやけどな。おそらく、生物が眼を持った時と同じような仕組みで、遺伝子の突然変異と言っていいんやろな」
「天才レウねー」
「なんや、文句あるんか!」
「いえ、そんな、モンクなんてぜんぜんありません」
「棒読みかい! って、いちおう突っ込んどくわ。気分悪いなー」
元の世界のゲノム編集技術は、まだまだ、はじまったばかりであるが、第七世界では、研究が進み、すでに環境破壊的な危険なことも経験しているのかもしれないな。レウの突っ込みの声を、左右に受け流しながら、俺はそんなことを考えていた。
「訳が分からん。まあ、でも、簡単に言えば、変遷で能力が上がり、竜の鱗も北極星になったってことだろ」
「そやそや、夜空に輝く星になったんや! って、そんなことあるかい! 極星鉱や! 極星鉱! 幸介しゃんはようボケるんやなー」
「あーー、それ天然ですから」
「こらっ、てめえ、誰が天然だ」
「「「「「アハハハハハハ」」」」」
幸介のボケとレウのノリ突っ込みに、さらに俺がかぶせて、皆が一斉に笑い出す。
こうしてトリプルスリーの謎は、理解できていない部分も含めて、皆の中ではそれぞれに納得したという結論となったのである。




