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世紀末の七星  作者: 広川節観
第一章 世界の秩序と混沌
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03 セントラルワールド!?

 「達也、痛いよ、痛いって。いいかげん離してよ!」


 気が付いたときには、蛍の少し怒った顔と、青い空と緑の木々が、薫風に揺れながら俺を迎えていた。


 そこは教室ではなく、木々によって完全に包囲されたような森のなかの草原だったが、少し涙目にもなっている蛍の顔を間近で見て、俺は戻ってこられた! という安堵感に包まれた。


 「ほたる! 良かったぁ」


 離さないようにしっかりと握った手。蛍は拗ねたような視線を送ってきたが、俺の口からは、なぜかやり遂げたという達成感がこぼれ出ていた。


 「ねえ、何が良かったの!? なんで教室にいたのに、達也に手をつかまれて、森のなかにいるの??」


 俺を問い詰める蛍の様子が、徐々に変化していき、整った美しい目鼻立ちのなかに、気持ち悪いものでも見るような影が、次々と落ちていく。


 蔑むような痛い視線が、蛍の心と体が逃げ腰になっていることを伝えていた。


 あれ? 俺って美少女を浚って、森のなかへ連れ込んだ変質者? との疑念が頭をよぎり、あわてて右手を離し、体を起こして否定する。


 「違う、違う、俺は、変態でも、誘拐犯でも、ストーカーでもない。違うから! 誤解だから!」


 蛍の質問に対して、あきらかに怪しい答えを返していたと気が付いたときにはすでに遅く、蛍は両手で小さな胸を抱え、あきらかな浮き腰で逃げる態勢を固めていた。


 か・ん・ぜ・ん・に、ヒイている………。


 その事実が俺の心を苛み、がっくりと頭が落ち、そしてゆっくりと、ゆっくりと天を仰いだ。


 初夏の光に照らされた風が、俺の頬を優しくなでたが、頭のなかは、動揺、疑念、後悔が渦巻き、思考停止になりつつあった。


 「バシッ!」


 「しっかりしなさいよ。紅達也!」


 左肩を手ひどく叩きながら、励ます蛍の声が、真っ白な思考の底なし沼から俺を引きずりあげる。


 どうやら、うなだれる様子を見て、逃げるのは思いとどまってくれたようだ。幼馴染でよかった、ありがとう、蛍。


 ようやく我に返り、ひと声だけ、絞りだした。


 「あぁ」


 「それで、何があったの、ちゃんと説明して」


 今度こそ、きちんと説明しなければというプレッシャーのなか、『フーッ』と一息吐き、ゆっくりと、はじめから、あの3人のセリフも思い出しながら話しはじめる。


 暗闇にいたこと、蛍は眠っていたこと、暗闇から3人の声がして名前を聞かれたこと、蛍を抱きかかえて手を握れといわれたこと、赤い光を浴びたことなど、少し前に経験したことを、できるけ細かく順を追って説明していった。


 自分の二つ名と「お背中流して」の部分だけは省略したが……。


 「うそっ!?」「なにそれっ!」「そうなの?」「マリア姫?」などと相槌を打って、真剣な眼差しで、俺の話を聞いていた蛍だったが、すべてを聞き終わるとぽつりと呟いた。


 「それが本当なら、ここは、まだ違う世界かもね?」


 「えっ!?」


 「ルールって人は、送るっていったんでしょ? 元の世界になら戻すっていうはずだよ。それに中央世界(セントラルワールド)? だっけ。そことは違うとかも言ってたみたいだし。あたしたちは、きっとどこか違う所に行ってしまって、それを3人が正したんじゃないかな? ぜんぜん嬉しくないけどね」


 理路整然と説明され、俺は、あまりのことに動揺して、逆に質問してしまっていた。


 「なら、ここってどこだ!?」


 俺の言葉はスルーされ、蛍はおとがいに右手をあて、思考を巡らせている。


 しばらくして、桜色の唇から小さな声が発せっられた。


 「セントラルワールド………」



     ◆◇◆◇◆◇



 「おい、あれを見ろよ!」


 「おぉ、あれは、お宝じゃねぇか? (かしら)、呼んでこい!」


 「へい、アニキ!」


 俺と蛍が、いつまでも、この小さな草原に留まっても仕方がないという結論を出して、人が通った跡がある道を見つけて森に分け入ったき、少し離れたところから、注意深くこちらを観察する3つの影があった。


 悪意ある影の数は、徐々に増えていき、いつの間にか、俺たち取り囲まれ、その者達との距離を詰められていた……。


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