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世紀末の七星  作者: 広川節観
第六章 生まれいずる世界
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290 死闘後の中央世界⑦ ~ケミスト姉妹が見つけたもの~

 人類と獣帝国(ビーストエンパイア)の同盟締結式に出席するために、帝国の本拠地ビースト・エレファント城へと出かけていた知覧姉妹。


 無事に式を終えた翌日。帰りがけの駄賃というわけではないが、帝国軍とともに電光石火の早業で、7大陸中央付近の東側にある竜王国の5つの拠点を陥落させた。


 わずか1日で大陸の勢力図を書き換え、海路を進むしかなかった帝国と人類、双方の移動手段を飛躍的に伸ばした。陸路の奪還が戦いの目的ではあったが、それは同時に空路も手に入れられることも意味していたからである。


 知覧・ゲノム・ラウラの指揮のもとで戦った獣帝国(ビーストエンパイア)の兵士たちは、皆、知覧姉妹の作戦と戦い方、火力には舌を巻いた。


 ほぼ正面から激突して、押して押して押しまくって突破するだけという、いわゆる力攻めしかしてこなかった彼らにとっては、今回の勝利は、驚愕であり、新鮮であり、そして困惑でもあった。


 「凄い、凄すぎる!」

 「こんな戦い方が……」

 「もう勝ってしまったのか?!」


 敵の拠点を落とす度に、帝国兵たちからは自然と同じような声が多数あがっていた。


 洗練された策と用兵術、桁違いの火力での勝利をこれでもかと見せつけられた獣帝国(ビーストエンパイア)軍の兵たちは、皆が皆「皇帝は正しい道を選んだ」と心底思ったのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 人類獣帝国(ビーストエンパイア)同盟軍が竜王国が抑えていた東側の5つの拠点を陥落させて、双方の拠点の陸路を確保した翌々日。


 勝利の立役者だった知覧姉妹、つまりレウとラウラは、ベック・ハウンド城の彼女たちの部屋で昼食後の一時を過していた。


 姉妹の部屋はベック・ハウンド城の最高級の部屋とまではいかないが上級の部類で、大きめのツインベッドやおしゃれな鏡台、それと豪華な姿見が置かれた寝室と、応接セットと5~6人で会議もできる長方形のテーブルがある大き目のリビングという間取りだった。


 タンスや絵画などの調度品は、彼女たちの好みに合わせたおちついたベージュ系で統一されていて、所々に使われている木目調がセンスの良さを醸し出していた。


 そんなリビングにあるテーブルの一角。いわゆる議長席がレウで、レウの右横にラウラが座る形で食後のティータイムを楽しみながら姉妹が雑談していると『トン、ドトンッ!』と少しおかしなノックの音が響いた。


 それと同時に、なにやらやかましい大声が姉妹の耳に届いてくる。


 「なにするの。さっさとどいてよ。あたしは1分1秒も無駄にできないのよ!」


 「そうよ。そこをどきなさい。どうしてあたしが家族に会うのにあんたたちの許可がいるのよ! それにあんたのその態度が科学の進歩を100年遅らせるってのがわからないの?!」


 「いや、ち、ちょ、ちょっと、まっ、待って。押さないで。今、しばらくお待ちください」


 外から漏れる声を聞いてレウはひとつため息をつき、両手でツインテールをくいっ、くいっと引っ張りながら、バタンと机に突っ伏した。


 「うふふふふ。あらまあ、なにかあったのかしらね」


 ラウラが席を立ち、妹の様子を横目で一瞥しながらドアの方へと向っていく。そして、優雅な仕草でドアを引いた。


 「御苦労様。その子たちは大丈夫だから。ありがとう」


 「あっ。これはラウラ様。はいっ。では、失礼いたします」


 ドアから今にもなかに押し込まれてしまいそうな兵士と対面したラウラは笑顔で彼を労い、兵士はその場で敬礼して去っていく。


 兵士の後ろにいたのは、もちろん桜色の髪をポニーにまとめた知覧・ケミスト・リリと、長めの水色の髪をふわりとさせた知覧・ケミスト・ララの姉妹であった。ふたりとも黒のズボンに、薄い色だがそれぞれの髪と同じブラウス姿で、その上から研究者らしい白衣を着ている。


 「「ラウラお姉さま!」」


 ケミスト姉妹はラウラの顔を見ると、声をハモらせてから、ほっと一息ついて笑顔を見せる。


 「うふふ。リリ、ララ。よく来たわね。遠かったでしょ。お疲れさま。まあ、入ってちょうだい」


 「「はいっ」」


 丁寧にお辞儀してからケミスト姉妹はラウラに招かれる形で部屋に入った。そして、机に突っ伏したまま顔だけ少し傾けチラリとケミスト姉妹に視線送ったレウを見つけると、ラウラと対面して抑えていたものを爆発させた。


 「レウちゃん、レウちゃん。大変、大変なの。ねえ、聞いてよ。これよ、これ。これは今までの借りを全部返せる世紀の大発見よ! ふんっ」


 「そう、聞いてよ、レウちゃん。大変なの。一大事よ。もうこれは不老不死よ。化学の最終進化、いえ、そんなものじゃ済まないわね。そう、神よ、あたしたちはすべての真理を探究し尽くし、全知全能の神になれるのよ」


 先に口火を切ったララは、A4くらいの大きさの紙をレウの目の前にバンと置き、ラウラの正面、つまりはレウの左側に回って机に身を乗り出した。妹のあとを追ったリリはレウの肩をポンポン、ポンポンと続けざまに叩いたあと、天井を見上げて悦に入っている。


 ふたりの気持ちは高ぶり、最初から興奮度マックスで、時折「ふんっ。ふんっ」と息を吐き出し、かなり鼻息が荒い。


 「ほう。やはりそうやったか。うちの思った通りやな」


 レウはララが置いた紙を見てそう言った。紙には化学式のような図にA、T、G、Cなどのアルファベットが書かれていて、DNAを示す二重螺旋構造のような絵も描かれていた。


 「えっ。なに、レウちゃん……。もしかして知ってたの?」


 「ああ」


 「うそーーー。うそでしょ?」


 小さく呟かれた言葉を聞いて、目を見開き動揺するリリの問いに、レウは面倒くさそうに短く答え、それを受けてララは信じられないと両手を広げてレウの顔を覗き込む。そして小首を傾げる。


 「本当に?」


 「ほんともなにも、うちがこっちにきて1年以上も経ったんや。わかるやろ?」


 「えっ。それはどういうこと?」


 「そうよ。1年経つとなにがわかるのよ?」


 レウの答えにララとリリは眉間に皺を寄せて訝しがる。3人の様子を自分の席に戻って見ていたラウラは、ゆっくりとカップに手を伸ばして口を湿らせてから穏やかに微笑んだ。


 「姉さん。わからんて」


 「あははははは。レウ。それ、あたしの口から言っていいの?」


 すでに体勢を起こしていたレウは頬を少し赤らめつつもプイッと横を向き、いつものように姉へ丸投げしようとするが、ラウラは声を出して笑い意味深な言葉を返しただけだった。


 「ねぇ。なによ。教えてよ。本当にわかっているの?」


 「そうよ。レウちゃん、なにか勘違いしてるんじゃないの? これは世紀の大発見なのよ。レウちゃんは研究もしていないのに、わかるわけないじゃない」


 「そうよ。あたしたちが1年近くかけて竜人の各部位を研究し続けて(いじくりまわして)、偶然発見したのがついこの前なのよ。なにもしていないレウちゃんにわかるはずないわよ」


 レウから答えをもらえず焦れたケミスト姉妹がララ、リリ、ララの順に本当はわかっていないのじゃないかとレウを詰問するような言葉を投げ続ける。


 「アホぬかせ。ほんなら教えてやるわ。よう聞けよ。あんな、中央世界(セントラルワールド)にきてからうちの身長は1ミクロンも伸びてないんや。そやからその原因を少し考えれば、この図式が示す元の世界のそれと今の人体の成長速度が違うことは明白やろ。つまり転移したうちらの体の成長速度は、元の世界の時間の流れに縛られているってことや。うちは研究などせんでも、ほんな真理はすぐに見抜けるわ!」


 目の前の紙をトントンと指差しながら一気に捲し立てるレウの言葉の途中、正確には「1ミクロン」あたりからケミスト姉妹は半目になり、それ以降の話は聞かずに、顔を寄せ合いぼそぼそと呟きだした。


 『ララ。大変よ。これは、そうね。(天才)なのに木から真っ逆さまに落ちているわ』

 『ええ。河童(天才)なのに小川のせせらぎに成すすべなく流されているわね』

 『そそ。弘法(天才)なのに筆も大きく誤っているわ。ありえない方向にね』

 『ぷふっ。本当にレウちゃんの歳で背が伸びると思っているのかしらね。あたしだって16歳から伸びてないわよ』

 『そうよね。20歳を越えたら、普通、身長は伸びないわよね。しかも1ミリでさえおかしいのに1ミクロンって。ぷぷっ』

 『そうね。これは底知れぬ願望が人体の成長力の常識をねじ曲げてしまったという、ある意味では真理といっていいかもしれないわね。ぷぷぷひひっ』

 『そうだわ。それよ、それ。きっとそれだわ。にひひひひ』


 「おい、おまえら。ええかげんにせえよ。全部丸聞こえやぞ!」


 呟きという名のマシンガントークをしていた姉妹は、片方の手を口に寄せ声のトーンを抑える格好はしていたが、音量を下げることを伴えなかったために、レウたちへは筒抜けであった。


 「あははははは。レウちゃん。冗談よ。冗談」


 「あははははは。そうよ。気のせいよ。気・の・せ・い」


 レウの怒りの声を聞いて、びくっと反応したあとケミカル姉妹は頬にタラリと汗を流しながらもごまかしにかかった。もちろんレウは怒ったままで、さらにそっぽを向いてひとつ鼻を鳴らし、そこでラウラが場を収めるようにカップを置いて口を開く。


 「まあまあ。リリ、ララ。それで、話はそれだけなのかしら?」


 「ぅもーーーーーう。ラウラお姉さままでそんなこと言ってーー、いけずね。さっきのあたしの鼻息を返してよ」


 鼻息が返せるものなのかどうかはさておき、世紀の大発見をしたと思っていたのに、すでに知覧姉妹のなかでは想定内であったことに拗ねたララが、口を尖らせる。


 「でも、お姉さま。これは凄いことだと思いません? あたしはまだ20歳で、元の世界基準であと60年は生きられるだろうから、あたしたちが使える時間はなんと1万4613年間。それだけの時間があれば、第七世界(セージ)超えなんかは確実で、絶対に神の領域に辿りつけるわ!」


 いじけたララとは違い、リリは身ぶり手ぶりを加えて自分たちが置かれた状況、使える時間とその行きつく先を見据えて顔をほころばせた。


 するとララが喜び一杯の姉に近寄って肩をポンポンと叩き、ゆっくりと首を左右に振った。


 「ううん、お姉ちゃん。残念だけど元の世界基準の60年は無理、無理よ。なにしろお姉ちゃんは、すでにオバサンなんだからさ。そうね、いいとこ20年で4871年じゃない。うんうん。だからさ、神の領域はピチピチでうら若いあたしに任せてちょうだい。ねっ」


 「なっ! あんた臆面もなく、よくそんなことを言えるわね。誰がオバサンよ。それなら、あんただってババアじゃない」


 「違いますーーー。全然、違いますーーー。あたしはお姉ちゃんより23分もあとに生まれましたーーー。この差が神の領域に到達するかどうかをわけるんですーーー」


 「………………。ふーーん。そう。ならいいわ。そうね、そうだったわね。ラ~~ラ。お注射のお時間だったわね。お薬もあとで渡すわ。さ、だからちょっとこっちにいらっしゃい」


 少しの沈黙のあと、笑顔を作りながら言葉を発したリリは、白衣のポケットから小型ケースのようなものを取り出し、パカンと音を立てて蓋を開けた。なかには黄色の液体が入ったアンプルと注射器が入っている。


 「ふっひゃっん。そ、そ、そ、それは、なんのまね?! なんて物騒なものを取り出しているのよ!」


 「うふふふふふ。さ、いらっしゃい。お姉ちゃんが優しくお注射してあげるから。ちょうどよかったわ。動物だけじゃつまらなかったから誰かで試してみたかったの。ふへへへへへへ」


 「嫌よ! 嫌、嫌、嫌っ!  そんなもの嫌に決ってるでしょ。あたしの研究期間を根こそぎ奪うつもり?! 嫌っ、こ、こっち来ないで!!」


 「どうしたの、ララ。ほーら、大丈夫だから。心配しないで。大人しくして。ちょっとチクッとするけど、すぐ済みますからねー。ほーら、ほーら。こいつめ! もう逃げ場はないわよ。観念なさい!」


 「い、いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 完全に目が据わった状態で近づくというか追い詰めるリリと、怯えながら少しずつ後ずさるララ。やがてララの背は部屋の隅に当たって行き場を失い、全身を戦慄かせながらずるずると壁を滑り落ち、お尻をペタンと床に落とした格好でへたり込んで泣き叫んだ。


 「リリ!」


 「ひっ!」


 ケミスト姉妹の様子を笑顔で見ていたラウラが、ララの叫びに応えるかのように大声をあげると、リリはビクッと大きく肩を揺らし、動きを止めてゆっくりと振り返る。


 レウは、最初はまたいつものかと考えていた。ただ、ふたりの様子が少しおかしかったので目で追っていたが、ラウラの仲裁の声に安堵してカップに手を伸ばしている。


 「遊びはそこまでよ。こっちに来なさい! ララもね」


 「はい」


 「ひゃい」


 リリはラウラに怒られて肩を落とし、ララは『ぐすっ、ぐすっ』と半べそ状態で立ち上がって涙を拭った。


 「それで、そのアンプルにはなにが入っているの?」


 「姉さん。ほんなもん成長促進系の薬やろ」


 「あーー。そういうことね」


 ラウラがそう言うと、元の位置、つまりはラウラの正面に戻り、所在なさげに立っていたケミスト姉妹は揃って首を縦に振った。


 「で、ほれは何倍までいけてるんや?」


 「へ? 何倍って……。元の世界の成長速度をこっちのに変えるだけだけど……」


 「はぁーー。ほんだけか?」


 レウの問いにリリが答えたが、レウは呆れてため息をつく。そして、もう一度ララがもってきた紙を手に取って、ケミスト姉妹に見せつけるようにして言った。


 「これで?」


 「えっ?」


 「なになに。レウちゃんにはなにが見えてるの? 教えて。ねぇ、教えてよ」


 レウがなにを言っているのかわからずにリリが戸惑うと、姉に泣かされた状態から立ち直ったララが、レウに顔を近づけて目を輝かせた。


 「姉さん。わからんて」


 相手にするのが嫌なのか、顔が近いからか、レウはララから顔をそむけて姉の方を向き、いつもの言葉を吐き出した。


 「いやいやいや。そのレベルは、あたしには無理よ。レウたんが教えてあげてね。うふふふふふふ」


 「しゃーないな。あんなこことこことここ。それとおまえらレウ培養液を使ったんやろ。それに極星鉱(ポラリスオア)の解析もしとった…………」


 「あっ。あーーーーーーーーーーーーーーー。そう。そうよね。レウちゃん。さすがね。今日で残り7個は完済だと思ってたんだけど、また借りがひとつ増えて8個になってしまったわね。じゃ、レウちゃん、またね。ララ、戻るわよ」


 紙の図式を指差しながらレウが説明をはじめると、途中でなにかに気がついたリリが大声をあげてレウの説明を遮った。そしてすぐに出て行こうとする。


 「えっ。お姉ちゃんわかったの。なになに。あたしにも教えてよ」


 「それは道中でね。化学は待ってくれないのよ。レウちゃん、ありがとう。お姉さま、失礼します。行くわよ、ララ」


 「あーん。お姉ちゃん、待って。レウちゃん、お姉さま、またです」


 いてもたってもいられないといった様子で急ぐリリは、自分だけわからないのはいやだとぐずるララを宥めて手を引いた。


 しかし、ケミスト姉妹が部屋を出ようとするところで、ラウラが思い出したように声をかけた。


 「そういえば、リリ、ララ。あたしたちは竜王国を滅ぼせば第七世界(セージ)に戻るつもりだけど、あなたたちはそうしないの?」


 「「するわけないじゃない!!」」


 「即答?!」


 振り返ってハモりながら勢いよく応えて部屋を出ていったケミスト姉妹にラウラは驚きを隠せず、そう口にしたあと苦笑いする。


 「ほんまにあいつらは…………。って、薬は放置かい!」


 「うふふふふ。まあ、いいしゃない。レウ」


 「そうやな。まっ、ええな」


 ケミスト姉妹が置いていったケースを手にしたレウは、姉と言葉を交わしたあと意味深な表情で目と目で語り合い、最後はふたり揃って口角を上げたのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ケミスト姉妹が去ってから一時後。紅茶を淹れ直し、ティータイムのやり直しをしていた知覧姉妹の部屋に、今度は普通のノックの音が響いた。ラウラが立ち上がってドアの近くまで行く。


 「はい。なにかしら?」


 「リリアンというショートボブの女性が面会を求めております」


 「通してちょうだい」


 「はっ。かしこまりました」


 ラウラが外の兵士に応対すると、少しして静かにドアが開かれ、ふわりとした風が部屋に流れ込んだ。


 そして、次の瞬間、竜王国の偵察から戻ってきた密偵ローサが、体勢を変えて椅子の背を抱えるように座るレウの前に傅いていた。ラウラはゆっくりと自分の席に戻りローサの方を向いている。


 「で?」


 「はっ」


 レウはいつものように短く聞き、ローサが小さく頭を下げたあと報告をはじめる。


 「道中、竜王国の警戒はどこも手薄。ドラゴン・パレスの北方に天にも届こうかという漆黒の塔を発見しました」


 「ほう、塔か。詳しく聞こか」


 ローサが天にも届く塔と言ったところで、レウはわずかに目を見開き、興味を持ってローサに次を催促した。


 そのあとローサは自分が目にした塔のことを、どこから見たのか、どのくらいの長さに見えたのかなどを詳細に報告していく。


 ラウラはカップを持ったまま、真剣な眼差しでローサを見つめていたが、やがて報告が終わると思い出したように口元へ運んだ。


 「ほんでな……」


 ひと通りローサの報告を聞いたあと、レウはそう切り出して、再びローサへの密命を伝える。


 「はっ」


 レウからの任務を受け、すべてを理解してそう短く答えたローサは、入ってきた時と同様に風のように知覧姉妹の前から消えていった。ケミスト姉妹が放置していった小型ケースを懐に忍ばせながら……。


 「もうすぐ、慰霊祭やな……」


 「…………そうね」


 ローサが去ったあと、レウは独り言のように小さく呟き、ややあって窓まで移動して外を眺めたラウラは遠くを見つめながら、これまた独り言のように小さく応えたのであった。


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