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世紀末の七星  作者: 広川節観
第六章 生まれいずる世界
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289 死闘後の中央世界⑥ ~絶対精霊勇者(?)サキと最強の知覧~

 7大陸の北西付近の静かな入江から出航し、南へと向ったエルフの大船団の少し前の上空を、総勢50名近い精霊たちが飛んでいた。


 精霊たちの役目は、水先案内人でもあり索敵要員でもあり、船団が通る予定の海上とその周囲に目を光らせている。


 その精霊集団の中央付近に、今回の大移動の原因を作った元凶であり竜王アンゴルモアの魂を復活させ中央世界(セントラルワールド)に混沌を産み出してしまった張本人。そう。天上天下唯我独尊(ちょうぜつわがまま)精霊のシキがいた。


 シキは周囲を警戒しながら隣を飛んでいるサキを見て、思い出していた。今度こそ終わりだと思い、全身から滝のように汗と涙と鼻水が吹き出し、体の震えが止まらなかったときのことを。


 それは、ほぼ1年前、例のフードの男がエルフの里に招かれたときのことだった。



 ノーラの部隊に連れられているフードの男を、シキは木陰から見ていた。いや、見つけてしまったというのが正しい。


 今日もサキを虹色の矢で串刺しにして床に転がすなどでいじめ抜き、存分に満足したあとで鼻歌まじりで外にでかけたシキだったが、フードの男を目にした途端に、木々に覆われた世界が歪みはじめ、やがて終焉を迎えたかのような恐怖に襲われて青褪めた。


 一瞬で楽しかった気分は吹っ飛び、全身がガクガクと震えだして、すぐさま逃げるように自室に舞い戻り、ベットに飛び込んでパステルピンクの布団を被った。


 『ダメダメダメダメダメ、ダメだわ! あいつだ。なんであいつが、ここに……。やっぱり告げ口? そうよね。そうに決っているわ。あたちは関係ないのに。いえ、あたちは悪くないのに、あれがバレる、バレる。バレたら……磔茨百叩きの刑では絶対に済まない。激怒した女王にあたちは消される。煙のように消えてなくなるんだわ。あたちは悪くない、ひとつも悪くないのに消されてしまう。もうダメ、ダメだわ。誰か、誰かあたちを助けて!』


 布団に包まってもシキは体中の震えが止まらなかった。泣きたくなどないのに次々と涙が零れ落ちてくる。シーツで何度拭っても、涙が止まることはなかった。


 まあこれは、どこからどう見ても自業自得であり、救いようのないヘルプであり、結果として消えたとしても超絶我儘精霊の成れの果てといえば、その通りなのだが。


 「あれっ。極悪精霊が戻ってきただす。うちの祈りが通じて逝ったんじゃないだすな。ギャハハハハ…………」


 青褪めて部屋に戻り、すぐさま布団を被ったシキを見かけたサキが、床から半身を起こしさっき射られた腰をさすりながら悪態をつく。しかし、シキは反応することもなく無反応で、サキは笑いを途中で止めて訝しがった。


 「うん? なにかあっただすか?」


 「な、な、なにもないわよ!」


 精一杯の強がりでシキはサキの問いに声を荒らげた。布団のなかなのでくぐもっているため、サキはシキが泣いているのには気づけない。


 「うーん? いや、これはおかしいだすな」


 「か、か……。あたちは関係ないの! 悪くないのよ!」


 「また、なにかやっただすね」


 「…………」


 続けざまのサキの問いかけに、とうとうシキは声を出せなくなり、またシーツで涙を拭い目を強く瞑った。


 「ちょっと、外を見てくるだす。ぐふふふふ。腹黒精霊の悪事を名探偵サキちゃんが暴いてやるだすよ。そこで震えて待っていればいいだす。ふへへへへへ」


 「…………」


 サキの声を聞いて、頭のなかでは以前のようにアカデミー賞ものの演技で止めようと『待って』と言おうとしたシキだったが、実際には声が出ることはなかった。そしてサキは不気味な笑い声を残して部屋を出ていく。


 『最悪。最悪。もう終わりだわ。完全にアウト。あのサキが隠し通せるわけなんて天地が引っくり返ってもないわよね。無理、無理だわ。あたちは悪くないのに、あたちは悪くないのに……。あたちはまったく悪くないのに! あの恍けた「だす()」はあたちを売るわ。そうよね。きっとあいつはあたちのことを怨んでいる。そう、逆恨み、逆恨みよ。逆恨みなのにね。もうダメ。ダメだわ。うわあーーーーーーーーーーーーーーぁ。あたちの一生もここまでね。ずっ、すっ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』


 パステルピンクの布団の端をさらに強く握りしめ、シキは身を捩らせながらこれから起こるであろう悲劇と恐怖に全身を震わせた。そして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったシーツを避けて、新しい綺麗な場所を探してから顔を埋めて呻き続けたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 しばらくするとサキが帰ってきたようで、その気配を感じ取ったシキはビクリと体を震わせた。サキがいない間は、死へのカウントダウンを待つ死刑囚のような気持ちで、シキはずっと布団を被って震え、呻き、慄いていた。


 「ふー。やっと戻ってこれただす。あれっ。まだ腹黒精霊は布団のなかだすなー。うちは女王様に秘密の部屋に呼ばれただす。それで……」


 サキの呟きが聞こえてきて、話が確信へと向ったところで、さすがのシキも観念した。


 『あーーーーーーーーだめ。終わったわ……』


 しかし……。


 「前に竜王国の北西付近へ偵察に行ったときのことを何度も繰り返し聞かれただす。でも、それはすでに報告したし、あのときはなにもなかっただすしね。なんであんなにしつこく聞いてきたんだすかなー。うーーーん。それにしても黒黒(くろくろ)真っ黒精霊が絶対になにかやらかしたと思ったんだすけど、なにも見つからなかったのは残念だすなー。本当に、腹黒精霊といい、女王様といい今日はおかしなことが多いだすなー」


 『?? あれっ。あれ。あれれれれれれれれれれ。うーん。なに? なんなの。これはなんなのーーー』


 思っていたこととは正反対のありえない方向へとサキの呟きが流れていき、それもとても演技をしているようには聞こえなかったためにシキは狼狽した。困惑した。動転した。なにがなんだかわからなくなった。もしかしたら、あたちはもうすでに消えていて、ここは死後の世界なのかとさえ思えてしまった。


 あまりのことにシキは、恐る恐る顔を横に向けて布団の隙間からサキの様子を観察しようとした。


 「あっ。出てきただす」


 「あっ、ふぅうっ」


 布団から顔を少し覗かせたところでサキに見つかり、シキはあわてて顔を背けて布団に潜り直す。


 「あれっ。もしかして泣いているだすか?」


 『違うわよ!』と言いたかったシキであったが、まるで意味がわからないサキの言動のせいで声は出なかった。


 「あのシキが…………。腹黒精霊が……、目を真っ赤にしていただす。泣きじゃくっていただすね。うーーーん。えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。もしかして、もしかして、うちに向って矢をぶっ放したことを反省して、今までうちに酷いことをしまくったのをようやく…………。いやいや、それはないだすな」


 「ち、違うわよ」


 今度こそ声を出したシキであったが、タイミングがずれていたためにサキは大きな勘違いをしてしまう。


 「へ? えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 本当に反省していただすか? シキがこれまでの行いを泣いて反省…………。はっ。大変だす。これは一大事だす。世界が終わるだす。もうダメだす。誰か助けてくれだす! サキちゃんはまだ死にたくないだす」


 「だから違うって言ってるでしょ!! えいっ!」


 シキにしてみれば、若干、いやいやかなり(・・・)ウザいサキの勘違いに思わず声を荒らげると同時に勢いよく布団を跳ねのけ、即座にいつもの矢をサキ目がけて思い切り投げつけた。


 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。腹黒精霊がまたやっただす。本日2発目、またやりやがっただす。痛い、痛いだす。やっぱり極悪な暴力精霊で、黒黒真っ黒精霊だす。いつっっっ…………。いや、でもこれで世界は救われただすな。よかっただす。サキちゃんはまだ生きられただす。よかっただす、本当によかっただす。でも痛いだすーーーーー」


 「う、うるさい。ばかぁ!」


 シキの渾身の一撃をお腹に受けて床を転げ回るサキ。そんな様子を真っ赤に泣きはらした目で一瞥して、シキは再び布団を被った。


 『いったいこれはなんなの? なにがどうなっているのよ。あたちはまだ死んでない、生きているわよね?』


 サキが同じように喚いたり床を転がっている音を聞きながら、シキは現実離れしたこの状況の整理がつかずに、夢でも見ているのか、死後の世界なのかと布団のなかで自分の頬を思い切りつねった。


 『いっ。やっぱり痛いわね。生きているのは間違いなさそうね。じゃあ、なんであのことが秘密にされているの? サキは女王様の所にいって直々に聞かれたんでしょ。女王様がこいつみたいなやつの嘘を見抜けないわけはないわ。ないわよね。そうよね。そんなことあるわけないわ。……でも、さっきのこいつの態度からみるとまだ秘密は守られているみたいだし。なんで? どうして? えっ。えーーーーーーーーーーーーーーーー。もしかして、もしかして、こいつあたちのために必死になって秘密を守ってくれたの……。どうやったかはわからないけど、守り通してくれたってこと? そうなるの……。そうなってしまうの。いやいやそんなことないわよ。こいつはモテない精霊ナンバーワンよ。そんなかっこいいことができるわけないじゃない。いやでも秘密は守られているし、それはあたちのために頑張ったということ……、あたちのために……、あたちの……。ふぅ』


 布団を被ったままシキはそこまで考えて、考え疲れて寝てしまった。自分の生を諦めて泣きじゃくり、不可解な結果に驚き、その理由を考えて極度の疲労に達したわけだ。もちろん助かったという安堵感も、シキを眠りに誘った。


 シキは寝る瞬間に布団から顔だけ少し出し、目の端に拭いきれなかった涙を残しつつも、すやすやと寝息を立てている。


 「あれっ? 今度は寝ただす。うーん。狸寝入りだすかな? そうだす。これはお約束の顔にいたずら書きしろってことだすね? やるだす。ふへへへへ。……………………ふーー、本当に寝たみたいだすな。シキもこうしていればとても可愛いんだすけどなー」


 サキはシキが完全に寝たのを確認し、シキの目尻に溜まった涙をポケットからハンカチを取りだしてそっと拭き取る。そのあと騙されてはいけないと思ったのか、頭を2度振った。


 「今日は腹黒精霊に2度も串刺しにされたし、久しぶりに女王様に呼び出されたり、変なことがいっぱいあって疲れたので、うちももう寝るだす」


 そう呟いてサキも自分のベッドに飛び込んで、すやすやと眠ったのであった。



 サキが、シキを守った本物の勇者なのかどうか。それはシキにはわからないことであったが、そこには大きな理由があった。


 サキは、秘密の洞窟からの帰り道に儚げなシキの態度を見て、感じて、自分は全世界を敵に回しても、シキを守る勇者になると誓っていた。いや、正確にはその立場になる自分に酔いしれていた。


 そして、サキはそれから何度も、何度も、何度も「洞窟なんてなかった。今回の報告はなにもなかった。うちらはなにも見つけられなかった」と心のなかで繰り返していた。本当に、何度も、何度も、何度も……。


 そうやって繰り返すうちに、いつしかサキのなかで、それは真実となった。なにがあろうと動かない事実となった。


 これは心理学などでいうところの「真理の錯誤効果イリシュリー・トゥルース・エフェクト」であった。もっと簡単にいえば、過去にナチスドイツの宣伝相が言ったとされる「嘘も100回言えば真実になる」と同じようなことである。


 サキの場合は、それを自己完結させ、すでにサキのなかではあの洞窟での出来事はすべてなかったこととなっていたのである。自己暗示で真実をなかったものにねじ曲げたと言ってもいいかもしれない。


 前に洞窟から戻って主であるノーラに報告したときも、今回、女王に問い詰められたときも、サキは自分で歪曲したという但し書きは入るが、真実を語っていた。だからさすがの女王も見抜けなかったのである。


 そして、それは結果的にサキが酔いしれていた「シキを守る勇者」となっていた。そう、完璧に。自分の記憶を捻じ曲げて、世界を敵に回して、シキを守った。こうした意味ではサキは本物の勇者といえるのかもしれない。まあ、もともとがシキの演技に騙されているので、本物の馬鹿といえるのかもしれないが……。


 シキには運も味方した。サキがフードの男を自分の目で見ていなかったことだ。もし、サキが目にしていれば、厳重に鍵を掛けて消した記憶が溢れ出てきて、女王にはあっという間にバレていた。それだけは間違いのないことだった。


 つまり、簡単に言えば、サキが嘘をついて隠そうなどとしていたなら、絶対にバレていたのだが、サキにとっては「なにもなかったこと」が真実であったためにバレようがなかったのである。


 こうして最終的には、竜王アンゴルモアの魂の封印が解かれた理由を知っているのは、広い中央世界(セントラルワールド)のなかで唯一人、張本人のシキだけとなり、秘密が漏れることも、シキが罰せられることも永久になくなったのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 すべてを知れば結果的になっただけとなるだろうが、シキにはそれがわからず、ずっと自分を助けてくれた、守ってくれたと思っていたサキに対しては負い目を感じていた。有り体に言えば、借りを作ってしまったと思っていた。


 エルフの船団の前方を、周囲を警戒しながら飛んでいたシキは、隣を飛んでいるサキを見て、思い切って声をかけた。


 「あんた。久々の仕事なんだから、ちゃんとやりなさいよ」


 「やってるだすよ。それにうちはニートじゃないだす、って、あれっ? そんなことは言われてないだすな?」


 サキはシキから仕事に対してなにか言われるときは、いつもニートだと馬鹿にされていたので、条件反射的にいつもの言葉がでていた。そして、シキの口から出てきていた意外な流れに首を傾げる。


 「ほんと、ばかなんだから」


 そう言うとシキは、少し満足した笑みを浮かべてほっと息を吐いた。心のなかで「これで借りは返したわよ」と呟きながら。


 こんなもので借りが返せたのかどうかはさておき、今日もふたりの精霊は、一緒に並んで任務を遂行していく。


 こんなふたりは傍から見れば、『どこからどうみても狡猾でドSの我儘放題な女王様』と『ドMなんじゃないのと疑われる下僕』という体でありながらも、それは仲良しにも見えたのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 一方、獣帝国(ビーストエンパイア)の本拠地ビースト・エレファント城では、同盟締結式より一夜明けた早朝に出陣準備を終えた知覧姉妹がいた。


 周囲には獣帝国(ビーストエンパイア)の総勢2000人近い兵たちが整列している。


 主な陣容はカリグ将軍は参加していないが、第一軍よりペガサス、フェンリル、キマイラに似た翼を持った獅子で尾は毒蛇の計8名が参加し、この8名は知覧姉妹と行動を共にする。


 ちなみに幻獣軍のキマイラに似た獣人は、レウに「あんたらはキメラな」と命名されていた。


 そして、第二軍より獅子、豹などの快速が売りの獣人たち、第三軍より象やマンモスの守りの秀でた獣人たち、第四軍より鷹や鷲など猛禽類の獣人たち、第六軍より鳩や燕の獣人たちで、それぞれの軍から選ばれた者たちであった。


 各拠点へと先行している兵というか密偵たちはいたが、人類の兵はいつもレウを護衛している者たちが中心の10名足らずであり、フレイム将軍の第五軍、つまりは白狼軍は参戦していなかった。


 フレイム将軍とアンカー・フォートの主であるウィリアムや双方の護衛の兵などは、知覧姉妹率いる攻撃部隊より少し遅れて陸路でベック・ハウンド城へと帰還することになっている。


 「これだけの数がいてれば、あっという間やろ」


 居並ぶ兵を一瞥してレウが姉に声をかけた。


 「そうね。敵がどれだけいるかは完全にはつかめていないけど、報告では手薄みたいだしね」


 「ああ。小型版だけでもいけるんやないか?」


 大森林での戦い用に作ったアテナの智杖(レウカラッカ)の小型版の杖を片手で2本重ねて胸の前に持ちあげながらレウは笑う。


 「あらあら。レウ、油断は禁物よ」


 「そうやったな。うちら知覧は、もう無様な格好は見せられんからな」


 そう言ってレウは八重歯を見せて、今度は不敵にニヤリと笑い、妹の笑顔を受けたラウラも口角を少し上げて応えた。


 「ほんなら、ちゃっちゃと行こか。姉さん」


 「ああ」


 ひとつ頷いてからラウラは兵たちの前に進み、用意されていた木製の台に乗ってひとつ息を吐いた。すでに顔は軍人ラウラになっている。


 「諸君。本日、これより我らは南下し、敵の5つの拠点を強襲し、制圧する作戦を敢行する。作戦の指揮は我ら知覧が執る。すでに作戦内容は伝わっているだろうが、今回の作戦のポイントは文字通りの電光石火だ。すべての拠点を今日中に落とす。各自通達のあった作戦通りの行動を心がけてくれ。今日、このときこそ卑劣な手段で敵に奪われた誇りと陸路を奪還するのだ! 正義は我らにあり!」


 「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」


 兵士たちの気合いの入った大歓声が上がるなか、レウは「さすが姉さんやな」と頼りになるラウラの横顔を嬉しそうに眺めたのであった。


 全軍に通達済みの作戦の詳細はこうだ。


 前提として、敵の拠点の大きさや兵力はすでに密偵たちが調査済みであって、建物の大きさは50メートル四方程度で周囲はおおむね平原。兵力は50人程度とされていた。ただ、空にはつねに飛竜か竜騎兵の偵察兵がいた。


 出陣の順番は、知覧姉妹が率いる攻撃部隊が先行し、拠点を落としたあとに守る第三軍を中心とした部隊があとから続く。


 それで攻撃部隊が各拠点に到着したら、いったん全部隊は森や林などに身を隠し、レウを後ろに乗せたラウラが単騎で拠点に近づいていく。


 当然、竜王国の見張りたちに気づかれるが、人類のそれも女が乗った馬などは、竜王国軍も敵だとは思わない。いわゆる囮であるが、レウとラウラである。全軍のなかで最も攻撃力が高く、危険な要素は微塵もなかった。


 そして敵の飛竜か竜騎兵などが近寄ってきてラウラの雷撃の射程内に入ったら、馬上から狙い打って叩き落とす。これが合図となり、背後に隠れていた部隊が一斉に飛び出し、攻める方向の遠くには空を飛べる部隊が、手前には地を走る部隊が突撃してあっという間に拠点の包囲を完了させる。


 包囲したあとは抵抗するならレウの原子破砕弾(レウアトムクラッシュ)でガラス片に変え、降伏した者たちは捕虜とする。


 拠点を制圧したあとは、一足遅れて進軍してくる第三軍の兵を中心にした部隊に守らせ、攻撃部隊は次の拠点へと進んでいく。


 拠点攻略が進むに従って、各拠点を守る兵を置くために兵力は削減されていくが、それも考えて準備されていた。これは実際の戦いになり、最後の拠点でも充分な兵力は残っていた。


 各拠点間の移動はレウたちは幻獣軍とともに空を使い、飛べる兵は飛び、地を駆ける兵も高速で移動した。そして囮のために使う馬は先行していた密偵たちが準備していた。


 また、敵の誰かが逃げれば、情報が伝わってしまうため、絶対にひとりも逃がさない方針だった。そのため空を飛んで逃げようとする敵兵に対しては、高速で移動できる幻獣軍の兵士が第二軍の兵士を乗せて襲い掛かり、近距離から小型のエネルギー弾を炸裂させて、地上に叩き落とすことになっていた。


 作戦は完璧だった。


 そして知覧姉妹と獣帝国(ビーストエンパイア)軍はそつなく戦い、手薄だった竜王国軍の拠点を次々と陥落させて、敵兵をひとりも逃さなかったのである。


 それでも竜王国兵には降伏した兵も少なく最後まで抵抗し、ほとんどの者がレウの原子破砕弾(レウアトムクラッシュ)の餌食になっていった。


 一方の同盟軍の兵は、かすり傷を負った者が数名いた程度で、5カ所の拠点を落とす攻略戦は、レウが言っていたようにあっという間に終わったのであった。


 空を飛べたり、大地を高速で移動できる獣帝国(ビーストエンパイア)の兵士という手駒を手に入れた知覧姉妹にとって、手薄な竜王国軍の拠点など物の数ではなかったわけだ。


 こうして、レウとラウラは明け方に出陣して夕暮れ時までに5つの拠点を陥落させて、その日の夜には幻獣軍の背を借りてベック・ハウンド城へと、まさに舞い戻ったのであった。


 知覧姉妹が、電光石火の作戦で、水も漏らさぬ戦い方を見事に成功させたために、竜王国の南にある一大拠点であるベアノル・コロシアム城に、東にある各拠点が全部落とされたことが伝わったのは、かなりあとになってからであった。



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