28 キャット・タウンの戦い③ ~蠢く陰謀と作戦~
キャット・タウン。
そこは、獣帝国の南端に位置する港町で、獣人のなかでもそれほど強くない、猫族が守備している。
猫族の構成は、耳と尻尾だけに、猫の特徴が残る人に近い獣人が4割で、体中に猫の特徴がある二足歩行の獣人が3割、残り3割が小動物としての猫──第六世界のペット──となっている。
つまり、言葉をしゃべるのは、7割の獣人となる。
また、小動物の猫が、獣人に可愛がられている姿は、人から見れば、猫が猫を可愛がる『モフモフ天国』とも言え、蛍が考えた『ネコちゃんたちの楽園』というのは、それほど、ずれてはいなかった。
まあ、蛍が、獣人たちを、ネコちゃんと認めるかどうかは、別だが……。
強さで優劣が決まる獣帝国のなかにあっては、猫族は末端であった。
キャット・タウンの北、約400キロ離れた場所に、狼族が守る獣帝国軍の南方指令本部であるベック・ハウンド城があった。
そこは、隣接するゴブリン軍の領地に近く、主にそちらの動きに目を光らせる拠点で、キャット・タウンは、獣帝国の本国でも、まあ、領地の南端にも拠点を作っておくか、攻められることもないだろう! 程度の認識であった。
近くにいる敵は、壁の中に籠っている人類だけだったため、防衛能力は低く、高さ1メートル程度の木の柵で都市を形作った、この世界のなかにあっては、かなり、なおざりと言えるものであった。
また、キャット・タウンの浜辺は、遠浅で潮干狩りなどができ、獣帝国国内では、観光地として有名である。
水深が深くなるのは、浜辺から1キロメートルあたりからだ。
その海が、黒く染まったのを、2人の獣人の兄弟と、その飼い猫たちが、近くの丘から眺めていた。
「ニャシロウ。海が真っ黒になっているにゃ」
「これは大変にゃ! 早くベック・ハウンドの将軍に知らせるにゃ。ニャサブロウ、お前が行くにゃ」
「俺はだめにゃ。足が遅いにゃ」
「うーん、それならどうするにゃ」
「どうするかにゃー。とりあえず、戦える兵を集めるにゃ!」
「にゃー!! にゃー!! にゃー!! にゃー!!」
キャット・タウンは、大騒ぎであった。
◆◇◆◇◆◇
浜辺を見渡せる丘で、守備隊長であるニャシロウたちが、大騒ぎしていたキャット・タウン沖、浜辺から1.5キロメートルの地点。
10メートルはある、ダンクルオステウスの上に乗り、海面に巨大な雄姿を見せていた、3匹のアノマロカリスがいた。
体長は、3メートルもあるかというほど巨大で、確かにアノマロカリスであったが、体の色がそれぞれ、赤色、黄色、緑色で、一部分は金色に輝いていた。
その姿には、威厳らしきものはなく、『これって、ブリキのおもちゃ? それともデパートの屋上にある子ども用の遊具?』と、思えるほどコミカルなものだった。
しかし、その外見とは裏腹に、古代海洋軍団、50万の兵を率いていたのは、彼(?)ら3匹で、1匹だけは、まだ、上手く言葉がしゃべれないようだが、他の2匹は、普通に言葉をしゃべっていた。
中央にいる、ボスと呼ばれている、黄色のアノマロカリスが、古代海洋軍団のボスだ。
海洋軍団の構成は、カンブリア爆発以降の、古生代(5億4100万年前~2億5200万年前)のカンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ベルム紀の生物たちで、アノマロカリスが中心であったが、ほかに、ウミサソリ、ダンクルオステウス、三葉虫、オウムガイ、アンモナイトたちも参戦していた。
ちなみに、古生代末期が、生物が海から陸に上がろうとしていたころで、両生類がようやく誕生し、恐竜たちはまだ、生まれていない時期である。
「ボス、前衛アノマロカリス10万、中衛30万、遊撃隊としてウミサソリ5万、他三葉虫、オウムガイ、アンモナイトが合わせて3万、100のダンクルオステウスが守る本隊2万、総勢50万の軍勢、布陣完了しました。突撃開始の合図を!」
「まあ、まて、慌てるでない。やつらは夜目が利く。それに、どうせ、今頃は、我らの雄姿を見て、大騒ぎして、震えているだけだろう。何もできまい。ギャハハハハハハハ」
「で、では、明け方を待って、攻撃開始ですか?」
「そうだ。北の竜たちも、夜明けと同時に攻撃を開始すると、ゆうておったしな。ギャハハハハハハ」
「南北、挟み打ち、同時攻撃、我ら勝利、上陸!」
「そうだな、ようやく、ようやく、我らの悲願が達成される。どれだけの同胞が、獣帝国のネコどものエサとなったことか……」
「ああ、明日こそが獣帝国滅亡への第一歩となろう。今日は、十分に英気を養うように伝令を出せ! ギャハハハハハハ」
「伝令、急げ! 明日、朝、攻める!」
「今日は、ゆっくり、休んでおけと伝えろ!」
「ギュギュ」
海面から顔だけ出して、命令を待っていた、アノマロカリスが3匹の命令を聞き、一声鳴いてから、各隊への方へと泳いでいくのであった。
◆◇◆◇◆◇
そのころ、獣帝国の本拠地、ビースト・エレファント城では、猫たちからの報告を待つまでもなく、古代海洋軍がキャット・タウン沖に出現したとの知らせを受け、作戦会議が開かれていた。
ただ、同時に竜王国軍(人類は、まだこの名称を知らず、竜人軍と呼んでいる)が、兵を集めているという情報も掴んでいたため、会議は紛糾した。
「猫たちには、自分たちで対処するように命じろ」
「いや、ベック・ハウンドから援軍を送れ」
「いやいや、北の竜王国軍に備えねばならん」
「いやいやいや、西のゴブリン軍も無視はできんぞ」
「こういう時こそ、各地を注視しなければならんのだ」
「では、北の竜王国軍は、わたくしの軍にお任せください。その他の勢力には、皆さまが、ご対応なさればいいかと」
喧々諤々となっていた会議のなかで、末席にいたひとりの将が声を上げると、他の者たちは口を噤んで静まり、皇帝の判断を待つ。
「うむ。竜どもは、お前たちに任せる。存分に暴れるがいい!」
「御意!!」
「キャット・タウンには、ベック・ハウンドから援軍を送れ」
「はっ!」
こうして、最終的には、皇帝の決断で、会議は終幕し、獣帝国軍の、竜王国軍と古代海洋軍に対する対応策が決まったのであった。
◆◇◆◇◆◇
一方、竜王国軍、南の最前線基地モンテ・ドラグーンには、ドラゴンに乗った竜騎士──体の外側が、竜の鱗で覆われている竜人の戦士──が降りたち、竜王国・四天王と呼ばれるナーガ将軍に、報告を行う。
「キャット・タウンより、ただいま戻りました。古代海洋軍は、明朝、日の出とともに攻め入るとのことです」
「なんだとっ! それは誠か!? むぐぐぐぐっ、あの馬鹿エビどもがーーーー。なぜ夜襲をかけない。あいつらが先に攻撃し、獣帝国軍が、兵を南に向けたときこそが、我らが鬨の声を上げる作戦だと、あれほど念を押しておいたのに…………! クソッ、しょせんは、古代生物ということか……」
「将軍、いかがいたしましょう。我らが軍団の兵は、続々と集まっていますが……」
「うーむ。仕方がない、勲功を立てずに、このまま引き返したら、竜王様に合わせる顔がない。当初の予定通り、明け方から攻撃を開始する!」
「はっ!」
「まあ、馬鹿エビどもの行動は予定外だったが、問題はない。我らは強い。 獣帝国め、明日こそが、貴様らの命日だ。目にものみせてくれるわ! ワッハハハハハハハハハハ」
ナーガ将軍の低く籠った笑い声は、宵闇の空へと木霊し、しばらくの間、大地をも震わせ続けた。
それは、まるで、均衡状態が続いていた7大陸に、各勢力が入り乱れて戦う激戦の幕を上げる合図のように……。




