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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
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260 レウン黒飴

 「レウンさんは、本当に超天才完璧美少女なんですね」


 いやー。どうしようかと迷ったあげく、俺はとりあえずヨイショする方針で口を開いた。美しいかどうかはさておき、少女じゃねーよ、幼女だよとは思っていたが、彼女の言葉を借りて褒めるのが一番なのでそこは全部スルーしている。


 「なんや。面と向かってそない言われたら、なんかこちょばいな。そや、飴ちゃん食べるか?」


 レウンは少し頬を赤らめ、はじらいながらワンピースのポケットを探り黒い飴をふたつ取りだした。そしてひとつを俺の方へと渡して花畑に腰を降ろす。


 「どうも」と言いつつ笑顔で飴を受け取った俺は、レウンが話をする態勢に入るのだなと思って隣に座る。体育座りだ。遠くまで咲き乱れる白と紫の小さい花。セージの花畑に目をやってから視線を手元に戻す。


 レウンからもらった飴は大きめの飴玉で黒い包みには黄色で『レウン黒飴』と書いてあった。なんかエポニムではないが頭に自分の名前を入れるあたりは、レウみたいだと思わず口元が緩んでしまう。


 右隣に座っているレウンへ顔を向けると、彼女は丁度、飴の包みをほどいて飴玉をポンと口に入れていた。同じように俺も包みをほどいて飴を口に含んだ。黒砂糖の甘さが口の中に広がっていく。これは頭を使って疲れたときには、よさそうな気がした。


 さて、恥じらいの表情からそれまでの嬉しそうな笑顔に戻っていたレウンは一度こちらを見て、ニコリと八重歯を覗かせてから遠くへ視線を移して小さな唇を動かした。


 「あんたは知らんやろうけど、うちとこの下の世界は天才が揃っとるからな。うちが超天才完璧美少女なのは当たり前と言えば当たり前やな」


 一部というかなんというか論理が飛躍していた。完璧美少女は下の世界と関係ないよね、天才と美少女は一緒じゃないよね、などという疑問はあるだろうがここでは聞いてはいけない。もちろん台無しになるからで、俺がそれについて触れることもありえない。


 「天才たちのトップって凄いですよね」


 「そうや。ようやくうちの凄さがわかってきたようやな。あんたが生きた世界からおよそ7万年前に大規模な火山の大爆発があったんや。これで生き残ったというか、生き残るために賢くなったのが下の世界の祖先たちや。そのときにな、知恵を司る遺伝子に突然変異が起こっていてな……。って、あんたにゆうても難しくてなんのこちゃやろな」


 「あはははは。なんとなくわかりますよ」


 そうだったのか。前にレウたちから聞いたあとに蛍と話をしたな。第七世界(セージ)第六世界(シクラメン)が別れるターニングポイントのことだ。レウンが今、話したのはその答えだな。そんなことも知っているのか。やっぱり、こいつただ者じゃない。


 たしかあのときは25万年前の現生人類と言われるホモ・サピエンスが生まれた時期か、およそ7万年前のトバ火山の大爆発後に起こった地球規模の寒冷化を生き残ったボトルネック状態のときかの2説があって、結局はどちらかはわからなかった。つまり、レウたちでさえ知らないことをレウンは知っていたってことになる。


 まあ、そもそもこいつらとか、死んでいるはずの俺も含めていいと思うが、もう年齢とか知識とか人としての範疇は越えている存在なのだろうから、レウたちよりも凄いのも当たり前か。


 「まあ、無理すんなや。さあ、そろそろ準備もいいようやし。ようやく、あんたに仕返しが……」


 「えっ。あっ…………ね……む……」


 レウンから漏れた何かとてつもない不穏な言葉を最後に猛烈な睡魔に襲われ、俺の意識は深い暗闇のなかへと沈んでいったのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 次に目覚めたときの俺の驚きは、言葉では言い尽くせないレベルであった。


 椅子のようなものに座らされているようで、立っているわけではないのだが、全裸だった。


 腰のあたりにはタオルのようなものが巻かれているが、後ろはスースーしているし、体も何かに固定されているのかまったく動かない。唯一動かせるのは首を左右に少し振ることだけだった。


 骨折したときなどに使われるギブスで関節などの本来動かせる部分を完全に固定されたような感じだ。


 特に視線の斜め下にある両手は、鉄の鎧というか、手の型を取って手の甲側だけを覆ったような鉄のカバーが着けられていた。


 胸の前で5本すべての指と指が合わせられていてどの指も離すことはもちろん、ずらすこともできない。自分で押しているつもりはないのだが、妙に指を合わせる方向に力が入っていて指先が少し痛いくらいだった。


 「な、なんだ、これは?」


 「ようやくお目覚めのようやな、モルモットちゃん」


 自分の異常な状態に驚きの声を上げた俺の視線の右側から白衣を着たレウンが登場して、向き合う位置まで歩いてくる。座っているためか、椅子がある床が少し凹んでいるのかもしれないが幼女体型のレウンの目線が少し上から俺を見下ろしてくる。


 モルモット? 誰が? なんのために? 混乱していた俺は状況がまったく掴めなかったが、とにかく声を出していた。


 「えっ! ちょっとなにこれ……」


 「そやな。ここは『レウン様の実験室にようこそ』と言うところやろな」


 「実験室……」


 レウンは片足を後ろに引き、手をお腹に当てる全身を使ったお辞儀のような、決めポーズのような格好でそう言った。なにかとてつもなく嫌な予感しかしない状態であることだけは、それで理解できた。


 周囲に目をやるとセージが咲き乱れる花畑ではなく、体育館の半分くらいの広さの全体が光を発する大理石の部屋だった。その中央に座らされているようだったが、前しか見えないので後ろがどうなっているのかまではわからなかった。


 「あんたにはこれからうちが仕返し……、おっともとい、うちの実験に付き合ってもらう。まあそれが輪廻の塔の意志やから、逆らっても無駄やで。くふふふふ」


 「ちよ、ちょっとまって。冗談ですよね? なにかの間違いですよね? それに仕返しって言いましたよね? あの頬をつねったやつのですか?」


 「ちゃうわ。仕返しやない。そんなことはゆうてない。実験や実験。それもお約束のな。あははははははははは」


 『仕返し』を強く否定したあと、笑いながらというか、嘲笑しながら俺に視線を向けたレウン。「やーい、やーい、ひっかかってやんの。ばーか」と言葉にされたわけではないのだが、レウンの目はそう言っていた。そして、彼女は目尻に溜まった涙を拭った。


 こ、こいつ……、この幼女め……。


 花畑での幼女のような笑顔の裏で、頬をつねった仕返しのチャンスを狙っていやがった。あの飴玉か。ちくしょう、なんてやつだ。輪廻の塔の意志なんてのはきっと嘘だろう。お約束とか適当いいやがって……。


 くそっ、それにしても動かない。いったいどうすれば……。


 拘束から逃れようと手や足に力を入れようとしても体中の関節が固定されていて、動けない。かろうじて足の指先が少し動くくらいだった。


 両手の指は5本とも左右で合わさっていて、離れるどころか接着剤で着けられているかのよう左右から押さえつけられている。


 「あははははははは。無駄や無駄。下の世界にあるのを真似て作ったレウン様の特製品、その名も『術を覚えられるまで絶対に逃げられない24億年』やからな。ぎゃははははははは。まあ、ほんまは、うちが手取り足取り教えたろとも思った時期もあったんやけど、あんたは変態DV男やからな。しゃーないやろ」


 「ち、ちくしょうーーーーー。放せ、放せ。何がしゃーないだ。何が絶対に逃げられない24億年だ。ふざけるな、レウン! 放しやがれ!」


 「チリリリリン!」


 「なっ」


 顔を上げてレウンを睨みつけて大声で怒鳴ると頭の後ろの方からベルがなったような金属音が響き、俺を驚かせる。


 「ああ、そやったな。あんた24億年のルール知らんのやな。ほんなら教えなあかんよな。まあ、まだスタートしてへんからここはうちがやるべきやろな。しゃーないな」


 不敵な笑みを浮かべたレウンはそう言うと白衣のポケットから2本の筆を取りだした。


 「えっ……。ちょっと……」


 「さあ、いこか。レウン様直々のお仕置きタイムのはじまりや!」


 「ちょっ、ちょ。ぎゃはははははははは。うっはははははははは。おっははははははは。ふっふっはははははは。やめっははははははは。たすっはははははは。しぬっはははははは。痛っははははははは。もう死んでるっははははははは。けど死ぬっはははははははははは。痛っ、痛っははははははは…………」


 レウンはそのあと、暴言を吐いたらお仕置きで時間は5分、お仕置きの内容は筆で体中をくすぐられるというもの、スタート後は自動的に筆が出てきて執行されるなどという、ふざけたルールを話しながら2本の筆で俺をくすぐり続けたのだった。

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