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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
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256 お姉さんメイド

 「うもぅぅぅぅ。あぅっ、おぅっ。いぁ、やぁ。ぅぅぅぅぅぅ」


 何か変なスイッチが入ったのか、とてつもない妄想癖があるのか、常人には計り知れない壊れ方をしたキャサリン似のコスプレサンタは、元の場所に戻ってきても両手で顔を覆ってしゃがんだまま呻いていた。


 えっと。放っておいていいのかな、いいよね。上り階段もあることだし、きっとそっとしておくのがマナーだよね。


 「えっと。楽しかったよ。ありがとう。じゃあ、またね」


 またがあるのかどうかなどわからないが、とりあえず声をかけてみるとコスプレサンタはピクッと反応してから何やら頷いたような仕草というか、体を揺すってあっちいけみたいな雰囲気を出していたので、俺は彼女に背を向けて大理石の階段へと向かった。



 階段を上る途中。昆虫軍との戦いで死んだはずの自分の身に何が起こっているのかを整理するために、俺はこれまでのことを思い返していた。


 一番の大きな疑問はここがどこなのかとレイラ、幸介、キャサリンに似たあいつらは何者なのかだが、それは考えてもわからないことだった。今は保留するしかないだろう。


 レイラ似の銀髪の美少女のときは、紫色の花畑で一緒に暮らそうと言われ、それを断ると彼女は悲しそうな顔をした。そういえば、あのときのセリフ……。今、思い出しても恥ずか死ぬレベルだ。頬が赤くなる。


 えっと。まあ、それはいいや。もう過去のことだ。


 それで幸介似の訓練バカのときは、ピンク色の花畑でいきなり襲われて、訓練という名の戦いをひたすら行ったあと、勝手に寝やがって階段が現れたんだっけ。あの態度、なんかいまさらながら腹が立ってきた。適当すぎる自分勝手な訓練バカめ。


 ああ。そういえばあいつは俺をここへ送ったのが、ジジイではなくてロリババアだとか言っていたな。そっか。すべてはそいつからはじまっているんだな。俺にとってそのロリババアは味方なのか、敵なのか……。声しか聞いていないし、神様とかだと思っていたし、とにかくどんなやつかもわからないんじゃ考えても無駄か。


 それで、さっきのキャサリン似のコスプレサンタのときは、花には変わりないけど、ヒイラギの生垣だったな。生け垣に変化したことに何か意味があるのだろうか。


 それと前のふたつとの大きな違いは、下の世界というものが存在して、そこがエルフの世界だったことだな。そうそう。前のふたつでも下の世界があったようなことを言っていたな。『あった』か……。そっか、前のふたつの下の世界はすでになくなっているとかか。


 それは、つまり過去にはあったということか?


 そうするとこの階段は過去から未来へと繋がっていて、俺は時を進んでいるとかなのか? でもそれならなぜエルフの世界なんだ? 一部しか体験していないけど、あれほど大きな世界樹があり、妖精が見えるような世界は俺が知っている過去ではないけどな。


 うーん。まだ、いろいろなことを確定できるまでには、あまりにも情報が足りないか。くそっ。あいつらがもう少しまともな会話をするとか、ヒントみたいなものでも出してくれていたら、もっと違ったんだろうに……。


 あれっ。そういえばレイラ、幸介、キャサリンときて、まだ上があるということは……。もしかして、次は蛍か。ラウラやレウの可能性もあるけど、彼女たちは同じ英雄だけど俺たちとは違う世界の人だしな。きっと蛍のような気がする。まあ、蛍に似た何者なのかなんだけど……、それってどんなやつなんだろう。


 そんなことを考えながら階段を上りきった俺は、そこにいた者の格好を見て、掛けられた言葉を聞いて少なからず驚くのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 「たーくん!」


 「えっ。うわっ」


 いきなり、蛍でさえ今はあまり使わない俺の幼いころの呼び名を叫んで飛びついてきたのはメイドさんだった。


 後頭部に手を回されふくよかな胸の谷間に顔を押し付けられる。痛いとかはなくむしろすごく嬉しい……。って、違う違う。そんなことはもちろんなく、やさしく包みこまれるように抱かれたというが正しい。うんうん。


 横目でみれば白いエプロンのフリルが見えた。大人な女性なのか、ローズと柑橘系が混ざったようないい香りがする。


 「お帰り。たーくん、よく頑張ったわね」


 胸の谷間に顔を押し付けられたまま優しく頭を撫でられる。だれ? とは一瞬思ったことだが、言動はおかしいけど、豊かな胸に抱かれた俺には答えはひとつしかなかった。これは……、間違いなくラウラ似のメイドだ。俺はそう結論を出していた。


 「お帰り? 頑張った?」


 口がやわらかいものに押しつけらていたため、少しもごもごしたが、俺は疑問に思ったことを口にしていた。


 「えっ! あらあら……。かわいそう。わたしのこと忘れちゃったのかしら。そうね、きっとひどい目にあったのね……。かわいそうなたーくん」


 「えっ? えっ? えっ?」


 階段の上り口で来るのを待ちぶせていて、俺をやさしく抱き締めたラウラ似のメイドが驚くような言葉を発した。そして、なんか涙ぐんでいる。


 あれれれれ。俺って、とてもかわいそうな子になっているというか、されている……。なんだそれ? それに忘れたって……、まさか本物のラウラじゃないよな……。いやいや。それはない。ラウラなら『たーくん』なんて絶対に言わないしな。


 まあ、ここまでがとんでもないやつらの連続だったから少しは慣れたけど、今回はどんな設定というか状況なんだ。まったく、いつもいつも予想の斜め上を行ってくれるよ。


 本当に涙が零れてしまったのか、ようやく俺を放してくれてエプロンのポケットからハンカチを取り出して目の下を押さえるラウラ似のメイド。俺は視線を彼女に向ける。


 ゆるふわの茶髪で、背格好、胸の大きさ、切れ長の目などなど、これまでと同じようにやっぱりラウラそっくりだった。違うのは黒のロングワンピースに肩や裾にフリフがついたエプロンを着け、首元にはエンジ色のリボン、頭にはホワイトブリムという清楚感で統一されたメイド服を着ていることだ。


 それと口元の右下に本物のラウラにはなく、彼女にとってのチャームポイントにもなりうる小さな艶ぼくろがあった。


 どんなご奉仕をしてくれるのかは知らないけど、艶っぽいお姉さんメイドがそこにいたことになる。


 解放されたことによって気がついたのだが、今回もまた生垣から前に戻って花畑であった。上ってきた階段も今までと同様に消えて、辺り一面に白い花が咲き乱れていた。雄しべなのか雌しべなのかはわからないが中央部分に赤が見える。どこかで見たことがある花だったが、もともと花は詳しくないので名前まではわからなかった。


 「胡蝶蘭よ。きれいでしょ」


 俺が周囲の花を観察していると泣きやんだのか、お姉さんメイドが優しさいっぱいの笑みでそう言った。胡蝶蘭か。聞いたことがあるとは思ったが、それ以上、花については何も話すことは思い浮かばなかった。それよりも、本物のラウラかも? とどこかでまだ少し引っかかっていたので、ここへ来てからの疑問でもあることをストレートに聞いてみようと俺はお姉さんメイドを見つめた。


 「ラウラさんじゃないですよね?」


 「うふふふふ。お姉さんよ」


 「知覧・ゲノム・ラウラっていう名前ではないですよね」


 「たーくんのお姉さん」


 「えっと、お姉さんのお名前はなんていうんですか?」


 「たーくんのお姉さん」


 「いや。俺、妹しかいませんけど」


 「あら。ここにお姉さんがいるじゃない。うふふふふ」


 ダメか……。まあ、知ってたよ。そうだよね。普通なら「なんでやねん!」って突っ込むレベルだけど、もう慣れた。よしっ、それじゃあダメもとで……。俺は背筋を伸ばし、にこやかな笑顔で俺を見詰めているラウラ似のお姉さんを前に、少し下を向いて呟くように声を出す。


 「ここはどこなんですか?」


 「あらあら。それも忘れちゃったの? うふふふふ」


 まあ、ダメだよな……。それも知ってた。当然、教えてくれないよな、忘れたとか言っているけど、俺は元から知らないしな。


 「輪廻の塔よ」


 「えっ!」


 って、あれっ? 答えたよ。あっさりと教えてくれたよ。すごいよ、このお姉さんメイド! 今までとは全然違うじゃん。まあ、誰かは教えてくれなかったけど……。一歩前に進んだよ。


 でも輪廻の塔って言ったな。それって輪廻転生の輪廻だよな。死後次々といろいろな生物に生まれ変わってぐるぐる回るやつだっけ……。ということは俺は生まれ変わりを続けているのか? いや、自分では何かに生まれ変わっていたとは思えないけど……。うん? どういうことだ?


 優しさいっぱいの笑みを湛えたお姉さんメイドから突然告げられた驚愕の言葉に、何が起こっているかの謎の解明が一歩進んだのだが、また新たな謎が増えた気分になった俺であった。

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