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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
247/293

247 大森林での死闘㊲ ~戦場に乗り込んだ獣帝国軍~

【念のためのご注意書き】

 作中の蛍のように、極度に虫が嫌いな方はご注意ください。

 この戦いでは、ムカデ、毒蜘蛛、サソリ、スズメバチ、軍隊アリ、イナゴ(ワタリバッタ)などが登場します。

 大声で馬を連れてくるように命じたラウラに応じる形で森の方から数名の兵士たちが現れる。兵士たちはそれぞれに馬を率いていて、なかにはひとりで2頭の馬を引き連れている者もいた。


 全部で十数頭の馬を率いた兵士たちの一団は、あちこちにある昆虫軍が開けた穴を避けながらもゆっくりと前へと進む。


 このタイミング良く現れた一団は、蛍が攻撃する前にラウラが馬を使うことを想定して5名の密偵たちに命じておいた結果だ。ただ馬を連れてきた全員が密偵ではなく、任務に就いた5名の兵士は集団のなかで目立たずに紛れているだけであった。


 爆風を凌ぎ切ったあとも包囲網のところにいたラウラは、森から出てきた兵たちが馬を引いてこちらに向ってくるのを一瞥する。それから、兵士に鉄板のいくつかを外させて、包囲網内への道を作るように指示を出してから、蛍たちが倒れている場所へと近づいた。


 「御苦労であったな。よくやってくれた。感謝する」


 ラウラの馬を用意させる声が森に響いたときに動き始めた幸介たちであったが、実際に体を起こして、傍で頭を下げたラウラに視線を向けたのは幸介だけであった。


 昆虫軍の攻撃がはじまってからは、ほとんど休まずにあちこちを飛び回っていたキャサリンとレイラは、砂山に頭を置いて横たわったままラウラの感謝の声を聞くともなしに聞いているだけだった。それほど彼女たちは疲弊していたのである。


 感謝の言葉を述べて皆が無事なのを確認したラウラは、すぐに踵を返した。ラウラは爆心地に行かなければならなかった。前回の反省も踏まえて確実に仕留めたかを自らの目で確認する必要があったからだ。


 地上にいた敵と地下でも浅い位置にいた敵を確実に消したことは、虹矢(レインボーアロー)の大爆発を見て間違はないと判断できたが、自分が落ちた穴の深さを考えれば、敵が地下深くに潜っていて、まだ生きている可能性も否定はできなかった。


 「俺も行く!」


 ラウラが何をするのかを理屈ではなく肌で感じた幸介が、蛍をキャサリンたちと同じように砂山を枕に寝かせて立ちあがる。幸介の声に包囲網の方へ戻ろうとしていたラウラの足が止まる。


 「そうか…………わかった」


 ラウラは振り返ることなく、一拍の間を交えながら幸介に聞こえるように答えた。七星としてはひとりで行くつもりであったが、幸介の強い言葉に、もし敵が生きていたなら幸介に止めを刺させるほうがいいとも思ったからである。


 「ふたりともほたるを頼む」


 「ああ」


 「幸介さん……」


 「…………」


 ラウラの許可を得た幸介は、蛍のことをキャサリンとレイラに頼んだが、素直に頷いたのはレイラだけで、キャサリンは心配そうな顔で幸介を見つめ、蛍は無言で空を眺めていた。


 「心配するな。すぐに戻る」


 なんとか半身だけ起きて不安げな顔をするキャサリンに対して、幸介は、今できる精一杯の笑顔で答えた。そして櫓の方まで動き、落ちて地面に刺さっていたアレスの剛槌(アレースハンマー)を引き抜いてラウラの後に従ったのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 一方、北の指令部から急ぎ戦場へと向かった獣帝国(ビーストエンパイア)の一団は、一直線に大爆発があった場所へと向い、すぐ傍まできていた。


 各地に偵察要員などを置いて動いていたため、大爆発があった場所へと向かったカリグ、メッサ両将軍が率いていたのは、第四軍の兵士を中心とした100名程度であった。


 迂闊に近づいて敵だと思われて攻撃されることを回避するために現場に近づくにつれて、カリグたちは高度を上げていた。広範囲に戦況を掴むためにも、それは必要なことであった。


 そして、彼らは見つけた。爆心地付近で盛り上がる土を。そこから現れた見覚えのある怪人の姿を。


 「生きていたのか……。メッサ、とにかく捕まえろ! 絶対に逃がすな!」


 「はっ。我に続け!」


 「はっ」


 上空で今回の戦いの首謀者であるクイーン将軍を見つけた獣帝国(ビーストエンパイア)の一団は、第四軍の兵士たちが標的を目指す爆弾のように一直線で急降下した。


 カリグは人類の総指令がいると教えられていた北西の拠点も目にはしていたが、とにかく先にすべきこととしてクイーン将軍の元へと全軍を向わせたのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 「は、早く、逃げないと……」


 ようやく地下の要塞から地上へと登ってきたクイーン将軍はそう呟いた。


 久しぶりに出た地上の感覚を楽しむ暇などなく、洞窟はもちろん周囲には1本の木さえ、隠れる場所さえない状況に焦りを覚え、足を早めようとした。


 しかし、そのときに配下の昆虫たちが怯えて、穴の中へ戻りはじめていることに気が付いて戦慄する。スズメバチたちも地上に降りて、死んだようにじっとしていたり、一部のものは逃げ出していた。


 「ま、まさか……。そんなばかな……」


 顔は青ざめ、ガクガクと震えながら絞り出すように声を出して、恐る恐る天を仰いだクイーン将軍は、上空から飛来する者たちの姿を瞳に残したまま完全に動きを止めた。


 天を仰いで止まったまま獣帝国(ビーストエンパイア)軍第四軍の兵士たちに取り囲まれたクイーン将軍は、自分の命運は完全に尽きたとあきらめて膝をついてくずおれていく。


 「ブラウン……。ジャック……」


 悔しさを滲ませた瞳から流れ落ちる大粒の涙とともに、クイーン将軍の口からは一緒に過ごし戦った将軍たちの名が自然と零れ落ちたのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 レウと蛍の攻撃でこれからラウラたちが進む爆心地までの視界は完全に開けていた。大森林のなかに半径3キロ~4キロの平地ができていた。それでも大森林は広大で、平地は完全に森に囲まれていたが。


 結局、兵士たちが連れてきた馬は15頭で、ラウラは最終確認部隊として、敵が潜んでいたと思われる洞窟へ向う作戦を実行すると宣言し、自分と幸介を含めて15名の兵士を選んだ。


 15名の兵士のうち幸介にも面識があったのは、グスタフだけであった。


 「総指令! 前方に何かいます!」


 包囲網の近くでそれまで鉄板を片づけていた兵士が緊張感をもった声で、部隊編成と諸注意を皆に伝えていたラウラに緊急を伝える。


 ラウラは声に反応してすぐさま包囲網の内側まで進み、前方を確認した。ラウラの瞳にはどこから現れたのかはわからなかったが、爆心地周辺とその上空を旋回している多数の人影が映った。


 「あ、あれは……。獣帝国(ビーストエンパイア)か? おい!」


 ラウラの後方で前方を見ていた者たちのなかに白狼軍の兵士がいたため、ラウラは自分の予測が合っているのかを問い詰めるように視線を向けた。


 「は、はい。あれは……、おそらく獣帝国(ビーストエンパイア)軍第四軍の兵士たちです」


 「第四軍……。それがなぜここにいる?」


 「いや、えーと。俺にはわかりません。すみません」


 兵士からの答えを受けて、当然の疑問を口にしたラウラだったが、白狼軍の兵士がわかるわけもなく、防護服から伸びた尻尾をシュンとさせた。


 シュンとした尻尾を横目で見て口元を緩めた幸介が、ラウラに近づき遠くで蠢く人影を睨みつけながら軽快な声を出した。


 「ラウラさん。あいつらは敵か?」


 「その可能性もあるが……。しかし、周囲に敵襲を知らせる狼煙は挙がってないからな……」


 「わからないんだな。なら、行こうぜ。昆虫どもじゃなければ、あのくらいの数どうってことないだろ」


 「フッ。ああ。そうだったな」


 たしか第四軍というのは、鷲や鷹の獣人たちで将軍はメッサとかいったかな。まあ、いい。もし、邪魔をするようなら一緒に滅ぼすまでだ。


 幸介の提案を受けながらラウラはそう考えていた。


 普段のラウラであったなら、戦いの最中にわけのわからない敵が出てきたなら、絶対に軽率な行動、つまりはこんな考え方をすることはなかった。状況を把握して策を練ってから動くのがレウやラウラ、知覧の戦い方なのである。


 しかし、今は違った。幸介の勢いに乗せられたという面もあるが、昆虫軍の親玉に対する怒りが優先して冷静さを欠いていた。


 だた、目の前のやつらがもし邪魔をする敵だったとしても、勝算はあった。決して無謀な戦いに行くわけではなかった。


 幸介が言ったように、前方に見える100名程度の人影なら一瞬で倒せる自信もあった。幸か不幸かラウラはこの戦いでアフロディテの七節鞭(ビーナスウィップ)を振るうことはなく、エネルギーは満タンなため、空を飛ぶやつらさえまとめて一網打尽にできるイメージを持てたのである。


 それにエネルギーを半分近く残している武術の達人ともいえる幸介もいるし、後ろに控える兵士たちのなかには密偵たちも潜んでいるため、戦力的には申し分ないと考えたのであった。


 「よしっ! 急ぐぞ! はっ!」


 そう叫んだラウラは幸介を含めた14名の兵士たちの先頭に立って、爆心地に向けて馬を走らせたのであった。

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