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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
245/293

245 大森林での死闘㉟ ~大爆発~

【念のためのご注意書き】

 作中の蛍のように、極度に虫が嫌いな方はご注意ください。

 この戦いでは、ムカデ、毒蜘蛛、サソリ、スズメバチ、軍隊アリ、イナゴ(ワタリバッタ)などが登場します。

 蛍が放った矢は虹色の輝きを纏いながら弧を描き、一直線に敵がいる洞窟へと向かっていく。やがて弧の頂点付近に差しかかった虹矢(レインボーアロー)は、矢筈部分から勢いよく虹色の光を放出しながら距離を稼いでいった。


 矢を放った蛍は射撃姿勢のまま前を睨みつけて動かなかった。その少し後ろには蛍を守ることを決めて櫓の上に登ってきていた幸介がいた。


 櫓の上にはほかにも兵士が3人ほどいたが、皆、空高く進む矢に願いを込めているかのようにじっと虹の行き先を見ている。その間にも昆虫の大群は空に伸びる虹の光など我関せずと、すべてを闇に変えようと進撃を続けていた。


 矢筈部分から噴射のようなエネルギーを放出して距離を稼いだ虹矢(レインボーアロー)は、次第に勢いを落とし矢尻を徐々に下に向けていく。しばらくして矢尻の先が敵がいる洞窟を目指したとき、今度は矢羽根から勢いよく虹色の渦が噴き出て、虹は天空へと昇った。


 そして、ぐるぐると回りながら勢いを増した虹矢(レインボーアロー)は、クイーン将軍が隠れている洞窟に真っ直ぐに落下していき、岩盤を貫通して地中へと突き刺さった。


 「ピカッ!! ドッドッドッドッドッドッカーーーーーーーーーーーーーーン!」


 巨大な光とともに大森林の木々が大きく揺れ、地の底から突き上げられるような轟音が鳴り響く。それは4キロ離れた拠点でも凄まじさを感じられるほどの衝撃であった。


 爆心地では大空高く眩い虹の光が放出されたあとで巨大なキノコ雲が天まで昇る勢いで現出した。先に現れた虹色の光は周囲を襲う津波のように波紋状に広がり、中心からおよそ半径3キロまで進み、一瞬のうちにそこにいた昆虫たちを森ごと焼き尽くした。


 次に森を襲ったのが大地を揺らす地下の大爆発で、次々と森の燃えカスを巻き込む形で大地をめくり上げる。土煙が上空まで舞い上がり空を茶色に染めていく。そしてキノコ雲の足元から強烈な爆風を吐き出したのである。


 大爆発が起こったとき、七星の蛍と幸介は櫓の上にいて、キャサリンとレイラは櫓と包囲網の間、やや櫓よりで虹矢(レインボーアロー)の軌跡を見上げていた。キャサリンたちがいた場所は櫓までがおよそ35メートル、包囲網までがおよそ65メートルといったところである。


 ふたりとも穴の上でへたり込んでかなりのショックを受けていたのだが、蛍たちが動き、ラウラに爆風が来る前には包囲網まで移動するように言われていたためであった。


 そして、ラウラはキャサリンたちよりも包囲網よりに移動して、待機していてた。


 「鉄板を盾に身を守れ!」


 遠くで起こった爆発の一部始終を鉄板越しに見ていたラウラが叫んだ。それと同時にラウラ自身も鉄板で爆風を守る位置へと、傍に付きそうふたりの兵士とともに移動した。


 移動を完了し振り返ったラウラは、蛍と幸介がまだ櫓の上から動かず、キャサリンとレイラが顔を見合わせて櫓へ向かうのを目にしたのであった。



  ◆◇◆◇◆◇



 一方、時間は少し戻るが、全軍を北西の拠点に向かわせ、注意深く進行方向を確認していたクイーン将軍は、空に浮かんだ光輝く敵を見つけていた。


 「あ、あれは……、なに? あ、あんなやつがいるの……」


 今までに見たこともない光景に神なのかという疑念さえ浮かび、体中が震えだす。それでもそんなことはないと頭を振って、クイーン将軍は光の敵を注意深く観察した。


 そのとき光り輝く敵の髪がそよ風にやさしく揺れ黒く輝いてクイーン将軍は気が付いた。黒髪の女だ。最初から注意していて、倒したはずのやつが、怪しい光を纏いながら射撃体勢に入っていた。


 ちなみに、このとき蛍は防護帽を外したままであったため、風に揺れた黒髪をクイーン将軍が見つけられたのである。


 「ぐぅぅぅぅぅぅぅ! あいつ、あいつだ!」


 まずい。狙われている。あの爆発がくる。急ぎなさい、急いで、もっと急いでスズメちゃん。あいつを……、あいつだけは……。そう願ったクイーン将軍であるが、まだ黒髪の女との距離があり届きそうになかった。


 そして、願いが叶わずに蛍の矢が放たれたとき、クイーン将軍は頭を抱えてしゃがみ込み、ブルブルと大きく震えたのだった。


 『助けて! ジャック。ブラウン!』


 矢が空を飛び洞窟の岩盤を貫通して爆発するまでのわずかな時間、心のなかでクイーン将軍は何度も同じように叫んだ。


 洞窟内にいる昆虫たちにはそれが伝わったのか、すぐさま守りを厚くするために軍隊アリたちは洞窟の出入り口を固めるかのように蠢きだしていた。


 やがて虹矢(レインボーアロー)は、寸分違わずに洞窟に命中し、スクリュー回転で洞窟の地面を掘り進んで大爆発を起こした。


 「きゃーーーーーー」


 巨大地震のような大きな衝撃がクイーン将軍がいる地中深くまで届き、悲鳴を上げた彼女の体は上下左右に大きく揺らされ跳ね飛ばされる。そして、あまりの衝撃に態勢を保てなかったクイーン将軍は壁に激突して意識を失った。


 天井や壁からは小石がボロボロと落ち、崩れ落ちて通路が塞がるほど大きな岩も落下していた。落下の衝撃で勢いよく土煙が拡散し、洞窟内の視界を奪っていく。


 洞窟内に充満した土煙はしばらくの間漂い続け、天井から落ちた小石などとともに気絶したクイーン将軍の体に降り積もっていった。


 それでも倒れたクイーン将軍の傍では、まだしぶとく生き残っていた軍隊アリやスズメバチが主を守るように飛び回り、蠢いていたのである。



  ◆◇◆◇◆◇



 大森林の戦場で蛍の矢による大爆発が起こったのを、戦いの当事者とは違う立場で驚愕の表情を浮かべて見つめた集団がいた。


 カリグ・アイドウラン率いる獣帝国(ビーストエンパイア)の一団である。


 戦いを終結させるために戦場に向っていたカリグたちは、大森林の入り口、北の指令部まで来て小休止、いや足止めされていた。


 彼らの一団が空から北の司令部に来たときは、隊長は敵の援軍なのかと焦ったが、一緒にいた白狼軍の兵士がすぐに飛来してきた者の正体を告げた。ただ、そこにいた皆は突然であり、意外すぎる来訪者に驚き、どうしていいかの判断ができなかった。


 当然の流れで白狼軍の兵士たちが彼らの相手をした。白狼軍は帝国の傘下であるため、大きな揉め事にはならなかったが、結局は現場の判断だけでは、どうしていいのかを決められなかった。仕方がなく本部と連絡を取るから少し待ってもらうという形で話をまとめて、カリグ将軍たちに司令部に留まってもらっていたのである。


 しかし、そこへフレイムの手紙を持った事情を知っている使者が到着し、ようやく先に進もうと思ったところで大地が揺れたのであった。


 「カリグ様! 南西の方角で大爆発……」


 空中を旋回しながら戦場の方を警戒していた鷲の獣人が、大声で下にいる皆に伝える。カリグ将軍とメッサ将軍は、すぐさま飛び立ちホバリングするように止まり、南西の方へ目をやった。


 ふたりの将軍の瞳には、少し前に見た虹の光が足元に波紋のように広がり、それに少し遅れるように立ち登る巨大なキノコ雲が映った。


 「なっ。なんだ……。あれは……」


 「……。だれが……」


 あまりの異常な光景に二の句が継げず、ふたりはしばらく沈黙してキノコ雲と足下から吐き出されていく爆風を見つめ続けた。将軍たちに少し遅れて周囲まで飛んできていた兵士たちは一様に口をポカンと開けて異様な光景に魅入られている。


 「カ、カリグ様。人類との同盟。急がねばなりませぬな」


 「ああ。メッサよ。そのようだな」


 意想外な光景を二度も目の当たりにした獣帝国(ビーストエンパイア)のカリグ将軍とメッサ将軍は、眼差しを真剣なものへと変えて巨大な光を放ち大爆発した方角へ急行したのであった。


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