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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
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219 大森林での死闘⑨ ~ベック・ハウンド城での再会~

 長いようで短かった俺たち後半戦を戦う部隊の行軍もようやく目的地であるベック・ハウンド城へと着いて終わる。


 城から100メートルくらい離れたところで部隊はいったん止まり、馬車からレウとラウラが降りてくる。俺たちも兵士に促されるように馬から降りて七星が揃って門へと進んだ。


 正面に見える城壁の高さはおよそ8メートルくらいで、ビルの2階~3階程度だろうか。ブルーリバーの城壁は30メートルはあるので、ずいぶん低く感じる。


 遠くから見えていた建物は、城内にある城だと思うが、近くまで来たら壁に遮られてなかの様子は分からなかった。高台にある西洋風の城と城壁というのが遠くから見たイメージだった。


 ベック・ハウンド城は獣帝国(ビーストエンパイア)の国内では南にある唯一の都市で、規模も大きく、人も多く、文化的にも発展していることは、ブラッド・リメンバーでニャサブロウたちから聞いていた。


 たしかに、村を守る囲いが柵しかなかったキャット・タウンとは大違いで、外から見て左右に伸びる城壁などを見ると大きな都市だと理解できた。


 俺たちが向かっている門前に視線を移すと「ああ、やっぱりいたのね」という目立つ巨体が見える。おそらく中央にいる赤いドレスの女性がフレイムだろう。その横には黒のドレス姿の女性、たぶんスノウがいる。


 ほかには白狼軍の鎧を着た兵士が数名と、先に来ていた人類の兵士が数名いるようであった。


 レウとラウラを先頭に、そのあとを少し離れて5人がゆっくりと門へと進むなか、俺は目を凝らして必死に探した。そう。あの青いメイド服を、あの可愛い猫耳を、あの満面の笑顔を。


 しかし、前にいるフレイムや兵士、邪魔で仕方がない巨体がいて後ろまではよく見えない。


 『くそっ。あいつ邪魔だな。見えねーよ』と心のなかで悪態をつきながらも、表には出さずに進む。


 「ね。あの人フレイムさんだよね? 偽物じゃないよね?」


 隣を歩いていた蛍が小声で話し掛けてきたが、それどころではなかったので、ぶっきらぼうに「ああ」とだけ答える。蛍が俺の顔を覗き込んで一瞬怪訝そうな顔をした。


 「偽物ならすぐに成敗するでござる」


 蛍の小声が聞こえたのか、俺と同じことをしているはずのキャサリンが寄ってきて、蛍はキャサリンに笑顔を送る。キャサリンの武家言葉を聞き、さすがに我に返った俺は、ひとつ咳払いをしたあとに、きちんと答えることにする。


 「本物だと思うけど、見分け方は『はむはむ』をするかどうかだよ」


 「そっか。そういえばそうだったね。あはははは」


 「そうなのでござるか?」


 すぐに納得して可愛く笑う黒髪の美少女とキョトンとした顔で首を傾げる金髪の美少女。そしてそれを見てふたりとも本当に美少女だよなと思う俺。口には出さないが自然と口元が緩む。


 ふたりの反応の違いというか、蛍は見分け方を知らなかったのかと、ふたりから視線を外して思考を切り替える。


 そっか。あの日、偽物だということが発覚したブラッド・リメンバーで、俺は焦り、悩み、考えて違いを見つけていたので、すぐに答えられ、蛍はあとでレウたちから偽物だったと聞いただけなので、そこまでは考えていなかったのだろう。


 キャサリンは……。こういうことは苦手分野というか、考えないというか、追及しない性格だからな。


 まあ、それでもとにかく話の流れがおかしくなりかけて、俺が何かほかのことを考えているのを蛍に感付かれなくてよかった。さすがキャサリン。心のなかだけだが『グッジョブ』と言っておこう。


 そうこうしているうちにレウとラウラがフレイムの元まで着く。挨拶を交わし、当然のようにフレイムがふたりに順に『はむはむ』をしているのを少し離れたところで待つ。


 さすがにフレイムもあのふたりには遠慮するのか、『はむはむ』の時間は短かった。そしてレウとラウラは、ぞろぞろと護衛の兵を引き連れて門を潜っていく。ローブを纏った小柄な白狼が、彼女たちを街中へと導いていたが、あれが案内人なのだろうか?


 あーー。忘れてた。忠犬は、当然のようにラウラが来るとうるうるしてから傅いて、移動すると尻尾を振ってあとを追った。うん。尻尾なんてないけどさ、もうあれは忠犬としかいいようがないから訂正する必要もないだろう。


 それと、レウたちの護衛といっても動いたのは人類の兵たちだけで、白狼軍の兵たちは主が移動していないので、まだ残っていた。そして、隣にいる黒服の美人も動かずに、俺たちに笑顔を向けている。


 「ほたる殿~」


 堅苦しい挨拶が終わったということなのかどうかはわからないが、輝くような美しさを纏った赤いドレスの女が両手を広げて駆け寄ってきて、俺の左隣にいた黒髪の美少女に抱き付いた。


 「はむはむ」


 「あっ。ふう」


 あまりの勢いに少し驚いたが、ふたりの様子をじっと見つめてみる。いきなりフレイムに抱き付かれて『はむはむ』された蛍の両手は宙に浮き、やがてゆっくりとフレイムの背中に添えられる。


 左耳を『はむはむ』された蛍は、顔を少し挙げ、目をつぶり、頬を赤らめ、奥歯を噛みしめているのか堅く口を閉じつつも、唇が微かに震えている。


 真っ赤なハイビスカスが清楚で真っ白な百合を襲っているような光景は、まさに『百合』のようなシーンであり、俺は『これはなかなかに凄いシーンだな』と感ぜずにはいられなかった。


 フレイムはレウたちのときとは違い、情け容赦なく黒髪をかき分けて『はむはむ』を左耳から右耳へと移動させる。


 「あふん。フ、フ、フレイムさん。フレイムさん」


 さすがに堪え切れなくなったのか、蛍はフレイムの背中をポンポンと叩きはじめた。それに気が付いたのかフレイムは蛍の右耳から少し顔を離した。


 「ほたる殿。会いたかったぞ」


 「あはは。ふうー」


 「はむはむ」


 「あっ。ひぃ」


 いったんは『はむはむ』を止めたフレイムだったが、蛍が一息ついたと同時に、再び感極まったのか、左耳を攻めはじめた。


 蛍の涙目になりながらの流し目が俺の方へ向かう。それは、あきらかに『お願い、なんとかして』と語っていた。


 一族の挨拶なので周囲の白狼たちはもちろんフレイムを止めることなどしないし、蛍の向こう側にいる幸介たちは、3人でなにやら話しながら見守っているだけである。


 本当に涙が零れてしまいそうになっている蛍の横顔を見て、俺はフレイムの肩を叩いた。


 「えっと。フレイムさん」


 「おぉ。達也殿。久しぶりじゃの」


 分かっていたことであるが、蛍から離れたフレイムはそう言いながら俺に抱き付いてきて『はむはむ』を開始した。


 心の準備ができていたので、変な声は出さずに済んだが、必死に別のことを考えて堪える。円周率、円周率……。俺の感覚はお構いなしに、右から左へと流れるように『はむはむ』が続く。


 横目で隣に視線を送ると前かがみになり両手で膝頭を抑えて息を整えていた蛍が、チラッとこっちを見て『ごめんね』と右目をつぶり、右手を挙げた。


 いつの間にか近くまできたのか右手を挙げた蛍の前にはスノウがいた。ほかにも人影のような者を感じたが、フレイムの『はむはむ』に耐えるのに神経を使い、確認できない。


 「か、かわいい~~」


 蛍の喜びの声が聞こえたので、『はむはむ』されながらもそちらを見ると、あの、あの青いメイド服が見えた。湧き上がる気持ちを抑え意識を集中してよく見てみる。


 『あれは、ミ、ミコニャンか』


 蛍の傍にはミコニャンと妖精猫(ケットシー)がいて、すでに蛍はミケ猫柄の妖精猫(ケットシー)に抱き付いてほおずりをはじめている。ミコニャンの猫耳を撫でながら。


 ミコニャンは蛍に猫耳を撫でられながら、『ふにゃん』とでもいっているかのように、目をつぶって気持ちよさそうな顔をしている。


 なんか蛍もフレイムと同じことをしているなと思いつつ、それでも続くフレイムの『はむはむ』に耐え、ミコニャンがいるということはと、心の中で大きな期待が膨らんでいく俺であった。

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