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世紀末の七星  作者: 広川節観
第五章 輪廻する世界
217/293

217 大森林での死闘⑦ ~試射の結果と進軍する10部隊~

 「いっけぇーーーーーーーー!」


 俺たちを含め80人近い人がいる大平原に気合いの入った蛍の声が響き渡った。


 それまで固唾を飲んで蛍の第一射を見守っていた観衆は大空高く放たれた矢が真っ直ぐに進んでいくのを目で追いながら「うぉぉぉーー」などと歓声をあげた。


 『ナイスショット!』という声はなかったが、ゴルフのティーグラウンド付近を思い出すようなシーンである。


 放たれた矢はぐんぐんと上空へと進み、頂点に達するのかと思われたところで筈巻部分から虹色の光が放出されて距離を稼いでいく。


 そのまま進み、速度を落として落下態勢を取ったと思ったら、今度は矢羽根部分から虹色の渦が舞い上がり、渦巻きを伴った矢を異常な速度で急降下させた。


 遠くて急降下した矢が的に当たったのか、そのあとどうなったのかは分からなかったが、俺の感覚では最悪でもおしい所までは届いていると思えた。


 「すげぇーな」


 『いったぁー』『とどけぇー』『うおぉぉぉぉ』などと大騒ぎするギャラリーの大歓声のなかで、黙って矢の行方を見守っていた俺たちティーンエイジャーのなかから、幸介が皆を代弁する言葉を発した。


 幸介が言った通り、凄いの一言につきていて、特に何が凄いのかを言葉にできないくらいであった。


 それは蛍の射撃技術なのか、極星鉱(ポラリスオア)なのか、アルテミスの聖弓(ホーリーアルテミス)なのか、第七世界(セージ)の力なのか、そのすべてなのかとか、何だ! と特定できないレベルのものであった。


 「おっ。さすがほたちゃんやな」


 「ふぅーーー」と大きく息を吐き出して額の汗を軽く拭った蛍を唖然としながら眺めていたら、レウの声が聞こえてくる。レウに視線を移すと盛んにツインテールを前方へ振って見てみろと促される。


 矢が落ちたあと、付近にいた兵士が駆け寄って確認をしたのか、遠くで赤い旗が振れられているのが見えた。


 「当たりましたか? 中心から10センチくらい右に外したと思ったんですけど……」


 「あははははは。ほんま、あんたが敵でのうて良かったわ。ほんじゃあとは頼むでビビリーナ」


 「えっ!」


 いやもうさ。そこで笑顔だけ残して去って、人に振るのはなしにしてほしいよな。蛍もなんかもうどうしてくれようってことを言っているし……。


 誰も中心に当てろとは言っていないでしょ。いいんだよ、的に当たればさ。弓道でも基本はそうでしょ。まったくさー。……まあ、頼まれたといっても、あと2本矢があるから、それを蛍が撃つのを見守っていればいいんだろうけど。


 「実戦では、ミスが命取りになることも多い。あと2本で感覚を掴んでおいてくれ。頼んだぞ」


 「はい。分かりました」


 先に馬車に戻るレウの後を追ったラウラであったが、笑顔で去ったレウとは対象的にラウラは軍人の態度を崩すことはなかった。ラウラの言葉は、周囲にいてあまりに凄いものを見て半ば呆然としていた俺たちティーンエイジャーの背筋を伸ばした。


 そのあと蛍は同じように残り2本の試射を行い、見事に当てて、2度とも赤い旗が振られたのであった。最後の1本は自分でも上手くいったのがわかったのか、蛍が「よしっ!」という言葉とともに笑顔でハイタッチを要求してきたので「やったのか。すごいな」と声を掛けながらそれに応じる。


 試射を終えた蛍の黒髪からはキラキラと輝く水滴がはじけ飛ぶ。それは、まるで蛍自身が、緊張から、集中から、重責から解き放たれたかのような輝きを放っていた。


 ちなみに、試射が終わり戻ってきた兵士が持っていた鉄板を、どこに当たったのかなどに興味があった俺と幸介で確認すると、中央とそこから左右に10センチくらい離れたところ、つまり10センチ感覚で3つの大穴が空いていた。


 「って、ことはだ。すべて同じ距離、4キロを飛んで2本が右と左に10センチずれただけってことか……」


 「ガハハハハハハ。もう笑うしかねーよ。ガハハハハハ」


 「アハハハ。ああ。そうだな。アハハハハハハ」


 そして、鉄板に穴を開けた矢がどうなったのかを兵士に聞いたところ、鉄板を貫いた矢は、そのまま地下に潜ったために回収するのに地面を掘らなければならなかったそうである。


 いやはや、なんというか。まさに中央世界(セントラルワールド)地中貫通爆弾(バンカーバスター)だなと感じずにはいられない俺であった。



  ◆◇◆◇◆◇



 「目標地点まで残り3キロです」


 「よしっ。狼煙をあげろ。作業に入れ」


 ここは大森林の奥深く。中心部から北西方面に少し移動した場所に、人類の部隊が到着していた。鉄板で囲いを作る目標地点からは最も遠い東から進軍してきた部隊である。


 この部隊は、蛍が試射を行っているころには、すでに147キロを踏破して、残り3キロ地点まで来ていた。昆虫軍が潜むとされる洞窟まではおよそ7キロということになる。


 隊長が命じた作業とは拠点作りであって、ここまでもおよそ5~7キロ程度の間隔で、各地に櫓を立てて部隊は進んできていた。目的は狼煙を挙げて部隊の居場所や状況を外部へと知らせるためである。


 各拠点で挙がる狼煙を見つけたら次の拠点へと繋いでいく防衛策と同じ方法だ。最前線の部隊の状態を狼煙の色や本数で表して、進軍や拠点作りを開始することなどを逐次、最後方、つまりは大森林の出入り口にいる指令部へと送るようになっていた。


 もちろんレウとラウラの指導の元、訓練を受けた兵士たちだけが、この情報伝達の任務に就いている。


 最後方の指令部には、もし敵に攻められたなどの情報が送られてくれば、すぐさま各地に伝令として走れるように騎馬兵たちが待機していた。


 幸いにして、これまで最前線から後方へ送られた情報は、どこまで進んだかの位置情報だけで、ほかは目立った動きはなく騎馬兵たちが活躍することはなかった。


 東から入った部隊のこれまでの道中では、出入り口付近は道があったりして、それほど進軍に手間取らなかったが、森深く進むごとに道なき場所に道を作りながら進んだため速度は遅くなっていた。


 それでも最も時間がかかるとされていて、すでに10日前から森に入っていたのだが、予定よりは少し早く任務を達成できそうな状況であった。


 一方、他の各方面からの部隊ももうすでに大森林への進軍を開始していた。進軍の順番は、10日前に東の部隊、8日前に北東と南東の部隊、6日前に南の部隊、4日前に南西の部隊、2日前に西の部隊が入り、1日前に北の部隊が進軍を開始していた。


 そして今日、中央世界(セントラルワールド)暦4871年10月4日午後。


 拠点までは最も近いが、最も危険な最後の北西の3部隊がついに森に入っていき、この戦いの前半戦を戦う全10部隊およそ3万人が大森林へと突入していったのであった。総勢3万人のなかには、もちろん人類とともに戦う白狼軍やキャット・タウンの兵たちも含まれている。


 こうして、広大な大森林で、人類と白狼軍などの合同軍は日ごとに包囲網を狭めていったのだが、これまでに敵と遭遇して戦いになったことはなかった。


 各部隊の包囲前の敵との遭遇を心配していたレイラやキャサリンが聞けば、ほっと一息つけることかもしれないが、それは取りも直さず、敵が狙い通りの標的にいて、これからが本当の戦いになることを物語っていたのであった。

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