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世紀末の七星  作者: 広川節観
第四章 闇と光の世界
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206 驚愕の防衛策

 壁外での特殊訓練の休憩時。俺は幼馴染ふたりと、昔を思い出したかのように3人で並んで座って談笑していた。


 純粋に懐かしかった。ここが異世界であることも、とてつもない戦いに巻き込まれていることも、特殊な能力アップがあったことも、元の世界では考えられないような武器を今の今まで振るっていたことも、すべてを忘れられた。


 澄み渡る青空の下、光沢のある黒髪を視界に収め、豪快な笑い声を心地よく聞き、この世界のさわやかな風を感じて、静かな時が俺を包み込んだ。


 「あっ。そうだ」


 その優しい一時を破ったのは、今は「こけし」ではない美しい黒髪を掻き上げた蛍であった。


 「うん? どしたの?」


 「レウさんが言ってた、もしものときの備えってなんだろうなって」


 蛍が気にしていたのは、レウが、もし敵が攻めて来てもゴドルフが動くことになっていると語ったあのことであった。


 「ああ。それか」


 「レウさんのことだからなー。すげーの作ってんだろ。ガハハハハ」


 相変わらずの幸介はさておき、たしかに俺もなにをしたんだと気になっていたというか、あのときは、すでにベック・ハウンド城までの拠点を作っていたことに驚いて、確かめることもできなかったことだ。


 「ね、ね。聞いてみようよ」


 「そうだな」


 「おーい。ゴドルフさん。ちょっとこっちきてくれ」


 蛍がふたりの腕をパン、パンと叩くと、それに反応した幸介が大声を出して、少し離れた場所で座り込み北方を見つめていたゴドルフを呼んだのだった。



  ◆◇◆◇◆◇



 こちらを振り向き、俺たちに気が付いたゴドルフは、宅配業者さんのような小走りでこちらに向ってくる。ラウラに呼ばれたときとは大きな違いはあるが、それでも好感は持てる対応である。


 「はっ。なにか、ご用でしょうか?」


 照りつける日の光が作り出す巨大な影とともにやってきたゴドルフは俺たちの前までくると傅いた。少し離れた場所に歩哨のように立っていたルークとニコラスが何事かとこちらを見たが、傅いたゴドルフを見て視線を周囲に戻していた。


 「えっと。ちょっと聞きたいことがあるだけなので、そんなに畏まらなくていいんだけど……、そうだ。この前、あなたの世界の話をしてもらったときみたいな胡坐がいいな」


 「はっ。それでは失礼して」


 蛍の言葉を受けてゴドルフは足を崩して俺たちの前に座る。たしかにゴドルフに傅かれたりすると、足を投げ出してダレている俺たちも姿勢を正さないといけないのかという気分になるので、ありがたい。


 ゴドルフが座ると幼馴染3人は誰が聞くのかと顔を見合わせる。昆虫たちの話なので、幸介に「お前が聞け」と言われた気がしたので、口を開く。


 「えっとさ。聞きたいのは、敵が攻めてきたらどうやって防ぐかなんだけど……。もう準備は整っているの?」


 「ガハハハハハハ。そんなことですか」


 いきなり笑われた。大笑いである。そんなことかと失笑である。なんかイラッときたけど、そんなに可笑しいことなのかと視線を蛍と合わせてから肩を竦める。「ふっふっーん」とでも言うかのように蛍は可愛く笑った。


 「なんだ。そんなに可笑しいのか?」


 幸介がひとりで笑っているゴドルフに強めの口調で言う。


 「いや。これは大変、失礼いたしました。でも、ご安心ください。準備は万全。いや、敵が攻めてくれれば御の字の手筈になっております」


 準備は万全と笑顔で語ったゴドルフは自信に溢れた顔をしていた。ゴルフボール大の目玉を細めて、にこやかな、まるで爺さんが孫をあやしつけるかのような表情を見せた。


 「なんだそれ?」


 「そうなの?」


 すぐさま、俺と蛍が反応したが、ゴドルフは少しの間、爺さんの笑顔を保ち、それから口を開いた。


 「はい。ラウラ様の作戦は完璧であります。レウ様からいただいた爆弾はすべて設置を完了していまして、敵がこの間のような数でも、いつでも一瞬で木端微塵にできます」


 「うん? なんだって?」


 ゴドルフが言っていることがわからなかった。理解できなかった。


 それでも疑問の声を出し、戸惑う俺を置いてきぼりにしてゴドルフはにこやかに話を進めていく。蛍は聞き耳を立てて小さく頷いたりしているし、幸介は「ふーん」とは言っていないが、そんな顔をしている。


 「各所に見張りを配置し、敵の動きに応じて狼煙が上がりますので、皆さまがたが何かするということはありません。それでも、もしもの場合は、皆様方の特殊装備は準備できておりますので、それを着用してからブルーリバーへと御帰還ください」


 ゴドルフは特殊装備の話をしたときに、自分の家に視線を送った。きっと家に特殊装備があるのだろう。でも、俺が理解できないこと、聞きたいのはそこではない。


 「今のはわかったけど、その前のやつ。敵がこの間の数いても本当に一瞬なのか? それはどんな仕掛けだ?」


 「そうですね。説明しにくいんですけど、小高い丘がなくなりそこに湖ができるほどの仕掛けです」


 やっぱり何を言っているのかわからなかった。いや、言っている内容はわかるのだが、そんなことができるのかというか、どれほどとてつもないレベルで爆弾を仕掛けたんだという意味でわけがわからなかった。


 「爆弾ってあれだよな。この前使ったやつ。あれをいくつ仕掛けたんだ?」


 「さあ。我らゴブリン族は数を数えることは得意ではありませんので。でも、たしか一緒に設置した兵士たちが3万とかなんとか言っていましたかな?」


 「3万!?」


 ちょっと待て。コッテで作っている、いや作り続けているだろうあの爆弾をレウたちは3万も用意したのか? なんて数だ。


 この間の昆虫軍との戦いの第二防衛ラインでは、長さおよそ1キロを帯状に吹っ飛ばしたが、各爆弾の間隔はたしかおよそ30メートルとかだったので仕掛けた総数は35個とかだったはずだ。今度のは桁が三桁も違うじゃないか。


 35発でも周囲にいた昆虫たちは残らず木端微塵にするほどの威力だ。それを3万って……。そりゃ一瞬で戦いを終えられるかもしれないというか、先の戦いでそれが間に合っていればあんなに苦労しなかったってことか?


 いや、何かが違うな。


 今回のレウたちは、この間の四国より二回りくらい小さい大森林を焼き尽くす話といい、今回の防御策のレベルといい、なにかすでに尋常でない領域に入っているようだ。


 何が彼女たちにそうさせているのかはわからないが、そこにはより慎重に、より確実に、より失敗のないように全力で取り組んでいるような緊迫感がある。


 野球に例えれば1点リードの9回裏相手の攻撃が二死満塁、カウント3-2のような場面で投げる1球のようだ。


 「あのレウさんたちが、そこまでする……」


 隣で笑顔でゴドルフの話を聞いていた蛍が呟いた。最後の方は聞き取れなかったが、配置された爆弾の数を聞いて俺と同じことを思ったようであった。


 そのあとゴドルフから狼煙が上がったら起爆弾はどこにあって、配下の者が起爆させることになっていることなどを何度も登場する『ラウラ様の完璧な作戦』という枕言葉とともに聞かされた。


 内容は敵の中心がポイントに来たら大爆発を発生させ、小山を崩すほどの土砂を振らせ地面をえぐり取り、止めとばかりに水を流し込むという仕掛けを離れた場所の起爆弾から連鎖的に爆発させて実行できるという完璧な作戦であった。こうした場合、起爆させるタイミングが重要になるが、多少ずれても、それを補う数の暴力で粉砕するとゴドルフは話を高笑いで締めくくった。


 「レウさん……」


 ラウラを信奉するゴドルフはさておき、もし敵が攻めてきたらあの広大な森を焼くのと同じレベルの地図が書き変わるようなことをやろうとしているレウたちに、大きな疑問と驚きとともに、ある意味では恐れを感ぜずにはいられない俺であった。


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